それも全て計算のうちだ
『『ワオォォォォン!!!』』
2匹同時に飛びかかってきた。
「くっ……」
スピードスターもチャームフォグも使えない。例え動けたとしても、MPが0なので逃げる事すらできない。
「うわぁぁ!!」
『『ガウッ!』』
もうダメだと思った瞬間、ピシャリと鞭の音が聞こえ、2匹のウインドウルフは俺の目前で止まった。
『『グルルルル』』
至近距離で唸り声を上げている。
『キシャシャシャ!』
インプは俺をおもちゃにして弄んでいるようだ。
もう一度ピシャリと蔦の鞭を地面に叩きつけると、2匹のウインドウルフがグルグルと俺の周りをゆっくり回り始めた。
『キシャシャシャシャ〜ッ!』
笑ってやがる。
しかし良いぞ。体が動くようになってきた。鉄格子を見る。……距離は少し遠い。
『キシェッ!』
今度は何をするつもりだ?インプが翼を広げた。バサバサと動かし始める。飛ぶ気か?
「頼む飛ぶなっ!」
『キシェッ!』
尻尾を地面に叩きつけて飛び上がると翼を羽ばたかせ向かって来た。その速さに自然と笑顔になる。
「飛ぶなって言ったのにっ!言葉は通じないのか!」
インプは地面ギリギリを飛び、目前まで来た所で右腕を振り上げた。鋭利な爪がキラリと光った。引っ掻かれる!それを防ごうと、両腕を上げてガードしようとした。が、腕が動かない。棒立ちのままだ。
「しまった!」
咄嗟の事で忘れていた。スキルを持っていないからガードすらできないんだった。例え持っていたとしても今はMP0だが。
「うっ……」
【ー18】
左肩にモンスターの鋭い爪が食い込んだ。ガリッと何かに当たる鈍い音と鈍痛が体の芯を伝って来る。肩の骨だ。爪は肉を裂き骨で止まっている。遅れて、体中を突き抜ける激痛が襲って来た。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
頬に血飛沫がかかる。経験したことのない痛みと恐怖で笑顔が引き攣る。右腕で殴ろうとしたが、スキルが無いので見当違いな場所を攻撃した。
「こ、この野郎!」
モンスターの腕を掴んだ。掴む事は出来る。だが、ただそれだけだ。
「うわぁぁぁぁ!!」
【ー5】
肩を握られ骨がメキメキと軋む音が聞こえる。
「こ、こんな所で死んでたまるか!」
死に物狂いで後ろに倒れ込むと、肩の肉が剥がれたが、インプから脱出する事ができた。
「がはっ!!!」
地面に倒れるのと同時に、インプは飛び上がった。
噴き出る血を押さえてインプを見上げると、俺の血が付着した爪を不敵な笑みで舐め回した。
『キシャシャシャシャ!』
「……ハァハァ……いてぇ……」
痛みで気を失いそうになる。回復したはずのHPは、残り2まで減っている。
『キシャシャ!』
嘲笑うかのように飛び回っている。しかしそれも、目が霞んでハッキリと見えない。足にも力が入らず立ち上がれない。血を流し過ぎた。
『キシャッ!』
モンスターが急降下を開始した。
「く、来るなぁぁぁ!!」
倒れたまま転がって攻撃をかわす。
「うわっ!」
ギリギリでかわした。
モンスターは再び上昇し腹を抱えて笑い始めた。
『キシャシャシャシャ』
再度、笑いながら降下を始めた。
『キシャシャシャ〜!』
「うわぁぁぁ!!」
転がって爪を避ける。
『キシャッ!!』
「くっ!!」
紙一重だ。
『キシャッ!』
再び上昇した後、俺を指差し笑っている。あと一撃でも喰らえば死んでしまう。
「ハァハァ……遊ばれてる……ハァハァ……だが、それも全て計算のうちだ」
鉄格子に手を掛けた。
「届いたぜ……ハァハァ」
『キシャシャ……』
インプは笑うのをやめた。どうやら今頃気付いたようだ。鉄格子にもたれ掛かり立ち上がった。
『キシァァァァァァァ!!!』
目を血走らせ涎を撒き散らし、怒りのまま叫び声を上げた。
「残念だったな!」
耳は塞いでいる。麻痺はしていない。インプの今の距離ではもう間に合わない。このまま鉄格子の隙間から奥の部屋に入ってやる。
『キシャッ!』
しかしインプが上空から手の平を向けると、鉄格子の奥の部屋にピンクの靄が現れた。
「何っ!?」
チャームフォグだ。靄を吸い込むと魅了されてしまう。これでは部屋に入れない。……やられた。
「ハァハァ。チャームフォグを使えるのかよ!」
『キシェッ!』
蔦の鞭を投げ捨て、インプが向かって来る。
「くっ!」
足に力が入らず、その場に尻餅をついてしまった。
『キシャャャ!』
「しまった!」
両足首を掴まれた。
「くそっ!放せ!!」
『キシャァ!』
俺を持ったまま羽ばたき始めた。逆さ吊りの状態で少しずつ上がって行く。
「嫌な予感がする……」
天井付近まで上昇すると不敵な笑みを浮かべた。
『キシャシャシャ』
「おいおい……何をするつもりだ……」
俺の右足を掴んでいた手を離した。左足を離されたら落下してしまう。
「まさか!やめてくれ!!」
口が裂けたかのような満面の笑みだ。
『キシャシャシャシャシャシャ〜!』
「やめろぉぉ!!」
左足も離された。地面に向けて真っ逆様に落下し始めた。




