変身まであと何分だ?
50メートルが、恐ろしいほど長く感じる。
絡まる足を必死に動かし、転倒しそうになるのを堪えて、大扉の前まで辿り着いた。
「ハァハァ。開いてくれ!ハァハァ。開けぇぇぇ!!」
扉を押してもウンともスンとも言わない。
「んぎぎぎぎ!ハァハァ」
力を込めて押すが、足が空回りするだけだ。叩いても蹴っても微動だにしない。
「頼む!開いてくれぇぇぇ!」
ハニーアントの魔石で触れても何の反応もない。
「くそっ!ここもダメか!」
『キシャシャシャシャ!』
俺の慌てる様子を見て、更に腹を抱えて笑い始めた。
「ハァハァ。今のうちに笑ってろ!ナレーション、変身まであと何分だ?」
『説明しよう!2分21秒である』
「全然じゃないか!こうなったら、このまま笑い続けてくれ」
変身可能時間まで少しでも時間を稼ぎたい。
『キシャシャシャシャ!』
そう簡単には行かないみたいだ。蔦の鞭を持つ手を高らかに挙げた。
「鞭は動かさないでくれ!言葉が通じないのか!やめろ!!」
インプは笑いながら蔦の鞭をユラユラと揺らした。
「ウインドウルフが来る!あいつから逃げ回るのは無理だ。脱出の可能性があるとすれば……あの奥か」
もう片方の鉄格子をチラリと見た。閉まってはいるが残された可能性に賭けるしかない。
『キシャシャ……』
インプは、俺の視線を追って鉄格子を見ると笑うのをやめた。
「どうやら正解みたいだな!いくぞ!」
一か八か、もう片方の鉄格子を目指して走り出した。
『キシェェェェェェェェェェェ!!!』
怒りを露わに大口を開けて叫ぶインプは、蔦の鞭を大きく振って地面に叩きつけた。
『『ワオォォォン!』』
「2匹共来た!スピードスター!」
スキルを使用して加速する。しかしそれもたったの1秒。
「スピードスター!」
再度、スピードスターを使用するが、ウインドウルフとの距離は瞬く間に縮まっていく。このままでは追いつかれる。
「チャームフォグ!」
ピンクの靄は、あっさりと避けられた。しかしそれを避けたウインドウルフのスピードがダウンした。この組み合わせで逃げ切るしかない。
「くそっ!スピードスター!ハァハァ。チャームフォグ!チャームフォグ!スピードスター!」
スキルを駆使して、なんとか鉄格子まで辿り着いた。しかし、ウインドウルフにも追いつかれた。既に目と鼻の先だ。
「パニックスマッシュ!」
不意をついたパニックスマッシュも軽々と避けられた。
『ガウッ!』
「ぐはっ!」
【ー8】
体当たりのカウンターを喰らって吹き飛ばされた。吹き飛ばされた先は、運悪く鉄格子を通り過ぎた隣の壁だ。
「ぐはっ!」
背中を強打して地面に倒れ込む。しかし、すぐさま立ち上がり鉄格子へ向かおうとしたが、既に鉄格子の前にもう1匹のウインドウルフが立ち塞がっていた。
「万事休す……」
不意に、ポケットに手が触れた。固い何かがある。回復薬のポーションだ!キャッスリンからサービスで貰っていたのを忘れていた。でもこれで回復ができる!キャッスリンに感謝だ!
『ガウッ!!』
【ー7】
ウインドウルフに背中を引っ掻かれた。
「うわぁぁぁ!!」
ゴロゴロと転がり2匹から距離を取る。
「ハァハァ。くそっ!」
背中が焼けるように熱い。大量の血が滴り落ちる。今の攻撃で、ショルダーバッグの紐が切れて落としてしまった。空だから問題はない。
「こうなったら逃げ切ってやるよ!ナレーション変身までの時間は!?」
『説明しよう!1分57秒である』
「まだそんなに……だがやるしかない!」
対峙するウインドウルフが涎を垂らし、ゆっくりと歩き始めた。同時に体に風を纏った。
『ガウッ!!』
予備動作も無く飛びかかって来た。
「スピードスター!くっ!!」
【ー3】
速い!完全には避けきれなかった。鋭い爪が腕を切り裂いた。腕を押さえて睨み付ける。傷口は浅い。諦めてたまるか!
再び飛びかかってきた。
「スピードスター!何っ!?ぐわっ!!」
【ー5】
今度はスキルが発動しない。左頬を引っ掻かれて血が吹き出した。
「くっ……MP切れだと!?」
MPの表示が0だ。こんな時にMPが切れてしまった。回復する術はない。ナレーションに残り時間の確認も出来ない。
「くそっ!」
手にしているポーションを一気に飲み干した。HPは全快した。
「ハァハァ……このままじゃジリ貧だ」
『キシァァァァァァァ!!!』
「み、耳が壊れるっ!!!」
インプが顔を突き出しておぞましい叫び声を上げた。鼓膜が張り裂けそうだ。両手で耳を覆って防ごうとしたが、体が動かない。
「ハァハァ……か、体が……動か……ない!?」
上手く喋ることも出来なくなった。おそらくインプの叫び声を聞いたからだと思う。麻痺系のスキルだろう。
ピンチの上乗せ。この状況はヤバ過ぎる。
「うご……け……」
体に力が入らない。インプが嘲笑いつつ蔦の鞭をユラユラと振り地面に叩きつけた。
自然と笑みが溢れる。
「……詰んだ」




