今だ!閉まれ!
「……ラップか!?え??」
一瞬で視界が切り替わった。目の前まで迫っていたモンスターはいない。助かったみたいだ。
『説明しよう!ラップではない。トラップである』
「知ってるよ!!誰がこの状況でリズミカルに歌うんだよ!転移前に『ト』を言っただろ!ったく!」
どうやら俺は転移したらしい。
辺りは仄暗いが見えない訳ではない。目の前の壁はゴツゴツとした岩肌で所々苔が付着している。距離が近いせいかよく見える。手を伸ばすと届きそうだ。天井は意外と高い。
「不用意に触らない方が良いな……ここは何処だ?ダンジョンか?」
『説明しよう!ダンジョン内である』
「マジか……マップ!」
声に反応してMAPが表示されると、幻惑のダンジョン地下3階と表示された。
「地下3階!?そんなに進んだのかよ!」
マップには自分の位置が青い光点で示されている。どうやら俺は小さな丸い円のエリアにいるみたいだ。そして、そこに接している巨大なエリアがある。
「隣に広い空間がありそうだ。出口は何処に……いっ!!」
MAPを二度見した。巨大なエリアには『BOSS』との表示がある。
「隣はボス部屋か!?」
後ろを振り向くと、錆びれた鉄格子が出口を塞いでいた。
「なっ!閉じ込められてるぞ!開けてくれ!!」
鉄格子を揺らすがピクリとも動かない。その向こうは、体育館程のようにだだっ広い空間だ。
「ん?何処かで見覚えがあるような……」
広い空間の向かい側に鉄格子がある。あれも以前の記憶と重なる。自然と笑顔になって行くのが分かる。
「ヒトツメ……」
そうだ!ここはヒトツメの屋敷の地下に似ている。
「ここはダメだ!元の場所に戻してくれ!!」
足元の転移魔法陣を踏み付けるが、役目を終えたかのように光を失った。
「おいおいおい!」
魔法陣が消えたのと同時に、鉄格子が不快な音を立てて上がり始めた。
「やめろ!開くな!」
必死に鉄格子を押さえるが、一定の速度を変えることもせずにゆっくりと上がって行く。
「閉まれ!降りてくれ!!」
とうとう上がりきってしまった。鉄格子にぶら下がった状態で足をバタバタと動かすが降りる気配も無い。
「どうせ俺が中に入ったら閉まるんだろ!?ここから絶対に出ないぞ!」
鉄格子にぶら下がっているため、自然と真正面の鉄格子が目に入った。
「あれが出口か?ん?」
左を見ると大きな扉があった。閉まっている。ヒトツメの屋敷の地下と似ているようで全く違う。少しホッとした。
「あの大扉が正規の出入り口だな。それじゃあ向かいの鉄格子の部屋は……」
部屋なのかは分からない。
床の石畳は所々破損している。ここには武器になる石は有りそうだ。
『キシャッ』
「ん?」
右から何か音がした。音が聞こえた方を見ると、そこには見知らぬモンスターが3匹いた。
「うぉ!こっちを見てる!」
深い桃色の毛並をした狼のモンスターが2匹。牙を剥き出し低い唸り声をあげて俺を睨みつけている。
『グルル……』
「狼がいるぞ!」
『説明しよう!ウインドウルフ。幻属性。Gランクである』
「マジかよ!」
そしてその間にゴブリンに似たモンスターがいる。全身どす黒い赤色で、醜悪な顔つきはゴブリンに引けを取らない。額に短い角が生えており、背中には威嚇するかのように大きな翼を広げている。右手に長い蔦のような物を持っている。あれは鞭か?
『キシシシシ』
「笑ってる……あのゴブリンに羽を生やしたモンスターは何だ?」
『説明しよう!インプ。幻属性。Fランクである』
「Fランク!?そんな奴相手にできるかよ!!」
『ワオォォォォン』
ウインドウルフの遠吠えだ。
『キシェッ!』
インプがウインドウルフを睨みつけて、右手に持つ蔦を鞭のように地面に叩きつけた。
『キュ〜ン……』
ウインドウルフが怯えている。
「あいつが従えてるって訳か」
『キシシ』
不快な笑みをこぼしたインプは、蔦の鞭をユラユラと揺らした後、ピシャリとウインドウルフに叩きつけた。
『ワォォォン!!』
尻を叩かれたウインドウルフは、涎を撒き散らし向かって来る。
「マズイ!こっちに来る!」
このままでは危険だ。鉄格子から飛び降り、ポケットからハニーアントの魔石を取り出した。これに反応してトラップが起動したはずだ。
「頼む!起動しろ!!元の場所に転移してくれ!」
魔石を地面に擦り着けるが何の反応も無い。
「ダメだ!一方通行かよ!ナレーション!変身まで何分だ!?」
『説明しよう!3分19秒である』
「まだそんなにあるのか!」
3分19秒逃げ切らなければいけない。それにはここは狭過ぎる。ウインドウルフが向かって来ている。迷ってる暇はない。
「うおぉぉぉぉ!」
意を決して隣のボス部屋に飛び出した。ヘッドスライディングのように地面を滑る。その上空をウインドウルフが入れ違いに、俺が居た狭いエリアに飛び込んだ。
「危なっ!」
『ガウッ!』
ウインドウルフは岩壁に頭を強打して地面に落ちた。間一髪だった。
遠くから笑い声が聞こえる。
『キシャシャシャシャ!』
インプが抱腹絶倒している。
「何が楽しいんだよ!」
キィキィと錆びれた音がする。見上げると、鉄格子が揺れる音だった。これはウインドウルフが壁に激突した振動で揺れているのか、それとも俺が外に出たからトラップが発動したのか。どちらにせよ鉄格子が閉まりそうだ。上手くいけば閉じ込める事ができる。
頭を壁にぶつけたウインドウルフはムクリと立ち上がり、頭を振ると肩越しにこちらを睨んだ。無傷だ。
『ワオォォォォン!!』
大口を開けて叫びながら、ゆっくりこちらへ振り向いた。大声が反響して鉄格子の揺れが激しくなる。
「今だ!閉まれ!」
しかし鉄格子の揺れはピタリと止まった。閉まる気配はない。
「閉まらないのかよ!!」
閉じ込めるのは諦めるしかない。倒れた状態で手元にある石を握った。
「投石!」
寝転んだままの体勢で石を投げた。威力は弱い。しかし、狙い通りに顔へ向かっている。
『ガウッ!』
顔に当たる寸前で口を開けキャッチすると、飴でも齧るようにバキバキと噛み砕いた。
「何だよそれ!」
だが、問題ない。当然、効かない事は分かっていた。俺は既に立ち上がり、左の扉へ向かってダッシュしている。
「あんなの相手にできるか!」
扉まで約50メートル。
振り向くと、ウインドウルフは頭を低くしてこちらを睨んだままだ。もう1匹はインプの側から動かない。2匹共インプの指示が無いと動かないのだろうか?インプはまだ腹を抱えて転げ回っている。このまま笑い続けてくれ。




