ダンジョンだったら使えるじゃないか
5分が経過した。
「そろそろ行ってみよう」
クールタイムは終了したが、変身するのはモンスターとエンカウントした時にしよう。
次に使う魔石はハニーアントだ。残り1つだが、ダンジョンに入ればモンスターが出て来るはずだ。幻属性の魔石も手に入るはず。使っても補充できる。……はず。
ハニーアントの魔石を握りしめてダンジョンに足を踏み入れた。
苔むした階段に足を取られないよう慎重に降りる。
そして階段を降りきった時、一瞬で空気が変わった。冷んやりと肌寒く、土と鉄の匂いが充満している。
「!?……雰囲気が変わった……」
無意識に一歩下がり階段を一段登っていた。すると、元のジメジメとしたカビ臭い空間に戻った。手を伸ばしてみると、ある場所を堺に指先に触れる空気が冷えている。
「まるで見えない壁でもあるかのように、そこからエリアが分けられているみたいだ。よっと!ここからがダンジョンってわけか」
階段から飛び降り、見えない壁を一気に通過した。すると同時に【MAP】の表記が変わった。ワールドマップから、ダンジョンのそれになり、直線上に見えている場所以外は表示されていない。しかもダンジョン名まで表示されている。
「幻惑のダンジョン1階……か」
ダンジョンはトンネルのような空洞が続いている。
鉱山で採掘のために掘削された坑道みたいだ。通路は大人5人が横一列に並んでも余裕で歩ける。広さ的には十分だ。そして明るさも問題ない。天井にぶら下がるカンテラが一定間隔で設置されているからだ。
これは、明らかに人の手が加えられている。と、初見ではそう思うかもしれないが、ナレーションから聞いているので驚きはしない。ここはそういう『坑道風』なダンジョンなのだろう。
「モンスターはいないみたいだ」
何処まで行けるか分からないが、モンスターとエンカウントしたら躊躇わずに変身する。そして急いで次のモンスターを探す。なるべく多くの幻属性の魔石を手に入れるんだ。同時に、クールタイムの5分間を無事に過ごせる安全な場所を探す。見つけれたらベストだ。それと、次の階への階段があれば尚良い。無理なら時間に余裕を持って出口を目指す。
「さて、行ってみますか」
真っ直ぐな道を突き当たりまで進むと、左右二手に別れている。
『ギチギチギチ』
「こっちから聞こえて来る」
音のする右の方へ進んでみると、直ぐにまた左右に別れている。左の道を覗くと大型犬サイズの黄色いアリがいた。
「良し!会いたかったぜ」
『ギチギチ』
ハニーアントが4匹現れた。
当初の予定通り、躊躇わずに変身だ。ハニーアントの魔石を使用する。
「腹がボールみたいに膨らんでる。シャロンがあれは壊すなと言っていたな。頭部に石を当てて倒すとするか。行くぜ!ヴァイラス」
胸から銀糸が無数に伸び、ハニーアントの魔石を包み吸収した。
『説明しよう!ハニーアントの魔石に秘められたスキル、【防御力+1】【MP+2】【ハニーフェロモン】の中から1つ取得可能である』
うぉい!全部微妙だ。ハニーフェロモンはモンスター専用っぽいぞ。使えるのか?でも仕方ない。スキルが欲しい。
「……ハニーフェロモンにする」
『説明しよう!ハニーフェロモンを取得した』
ピンク色の帯に包まれ、ヴァイラスピンクに変身した。
『ギチチ!』
「それじゃあ石を投げて……って石が無い!!」
足元は一面土だ。外から幾つか持って来るべきだった。
「投げ飛ばすしかないな」
早速、ハニーアントを掴み地面に投げつけた。……はずが、後ろへ飛んで行き見えなくなった。
「これじゃあ魔石の回収が面倒だ。あれを使ってみるか」
拳を握り、残ったハニーアントへ詰め寄る。
「パニックスマッシュ!」
超高速のスマッシュにより轟音が鳴り響く。しかし、ハニーアントの顎に触れた途端、ぱふっという気の抜けた音が鳴った。
『ギギッ!』
混乱を付与するはずのパニックスマッシュを受けたハニーアントは、 天井に激突し腹が破裂して力無く落ちてきた。力尽きているため混乱したのかは定かではない。しかし、これで魔石は回収できる。
「おお!ダンジョンだったら使えるじゃないか!パニックスマッシュ!」
ぱふぱふと音を立てて、全てのハニーアントを天井に叩きつけた。
「しまった!……うっ!甘い……」
全て倒したのは良いが忘れていた!甘ったるい匂いが辺りに立ち込める。これがベアコーヒーに入っていたアリミツだな?ハチミツと似ているが、酸味がかった香りがする。
『『『ギチギチギチギチ』』』
奥から口を鳴らす音が聞こえ始めた。
「なるほど。アリミツの匂いに集まって来たな。もしかしたらこれがハニーフェロモンか?……お!見えた!」
ハニーアントが6匹現れた。
『『『ギチギチギチ』』』
「良いぞ!探す手間が省けた!」
向かって来るハニーアントにパニックスマッシュをお見舞いする。
「これは使える!やっと攻撃スキルが手に入った!」
ぱふぱふぱふと、6匹全て倒した。
そして辺り一面アリミツだらけだ。だが、これを繰り返せば、どんどんモンスターが現れるはずだ。シャロンは腹を壊すなと言っていたが、腹を壊せばここを動かずに魔石の回収が出来る。
「次が来る前に魔石をいただくぜ!」
2匹の胸に手を突っ込み魔石を取り出した。
「うっ……慣れないな……」
ゲームだと分かっていても、これだけリアルだと抵抗がある。しかし、生きるためには仕方のないことだ。歯を食い縛り、2匹から魔石を取り出した。そして3匹目の魔石を取り出そうとしたが、両手の魔石を見て止めた。
「……持てない」
今はヴァイラスピンクに変身しているためポケットが無い。ショルダーバッグも無い。変身中は服やショルダーバッグ等、装備している物は何故か無くなるんだ。
取り出した2個は手で持って行くとして、他の魔石を回収するのは諦めよう。どのみち、ハニーアントの魔石は、あと2回しか使えない。
「何処かにバッグが落ちてないかな……」
そんなに都合良く落ちてるはずはないだろうけど……。
「とりあえず、次が来るまで待ってみるか」
通路の隅に魔石を置いて戦闘準備完了。
しかし待てど暮らせどモンスターは現れない。
「……もう終わりか?」
次が来る気配は無い。近くにモンスターがいないのかもしれない。
「次から次に来るもんだと思ってたから残念だ」
流石にそこまで甘くないか……。2個の魔石を拾って奥へと進んだ。




