わざわざ触れなくても声に反応するのか?
「何だったんだ……」
俺にも仲間が出来たと思ったのに、あっという間にひとりぼっちに逆戻りだ。対する4人組は楽しそうにギャリバングへと向かっている。
「良いさ!やっぱり1人の方が変身できる!早速変身して……って、あれ?」
ショルダーバッグが軽い気がする。気がするってもんじゃない。触れるとペタンコに潰れた。もしやと思い中を覗くと空っぽだ。全て無くなっている。
「無い!!どこかに落としたか!?」
周囲には落ちていない。どういうことだ?何故!?しかしこれは非常にまずい。
魔石が無い=モンスターと出会う=死
「やばいやばいやばい!あっ!穴が空いてる!」
ショルダーバッグを覗き込むと、底が破れて穴が空いていた。
「やっぱり落としたのか!……ん?」
ふと、穴越しに立ち去る4人が目に入った。
「あいつ!」
ドラペイの背に乗るランが手にしているのは、俺の金が入っている袋だ。それに干し肉や水、魔石まで持っている。全て奪われた。ランは金が入っている袋をプランプランと揺らしウィンクをした。……セクシーだ。
「おお!……じゃない!いつの間に!!」
ショルダーバッグに穴を開けたのはランだ。
ランは金の入った袋を胸の谷間に入れて再びウィンクをした。セクシーだ……。
「じゃない!それは俺の金だぞ!!かえ……」
返せと言いかけた時、最後尾を歩くフィーゴが槍の切っ先を俺に向けた。悔しいがあいつらには勝てそうもない。両手を上げて首を振る。
「取り返すのは無理か。くそ……やられた」
はしゃぐ4人は、そのまま森の奥へと消えて行った。
「何がトレジャーハンターだよ!ただの泥棒じゃないか!はぁ……悪い夢だったんだ」
『説明しよう!夢ではないのである』
「おいナレーション!そんな事でMPを使うなよ!はぁ……踏んだり蹴ったりだ」
しかしこれは冗談抜きで由々しき事態だ。こんな場所でひとり。しかも魔石が無い。
「いやあるぞ!」
急いでランと出会った場所に戻った。
「ハァハァ。見つけた」
ハニーアントとパニックマッシュの死骸が残っていた。良かった。
「手で取り出すのか……」
背に腹はかえられない。気持ち悪いが、ハニーアントの死骸から硬い殻を剥がし、胸に手を突っ込み魔石を取り出しポケットに入れた。続けてパニックマッシュからも取り出した。感触が気持ち悪い。町に戻ったら絶対ナイフを買おう。
「うっぷ……こ、これだけあれば何とかなる」
パニックマッシュの魔石を握り締める。
気を取り直してモンスターを探そう。これで気を取り直すのは本日何度目だ?
まぁ良い。早いとこスキルの入手だ。
「よし!出て来いモンスター!」
〜〜〜
気合いを入れて走り出したものの、モンスターが全く現れない。
「ハァハァ……いないな……ダンジョンに行ってみるか。地図は取られてしまったから、自分の位置がどこなのか分からない……そうだった!MAP!」
右の握り拳を、左の手の平にポンと落として、閃いた時のお決まりのポーズ。
「うおっ!?」
突然、右上の逆三角形が選択されMAPの画面が表示された。ステータスウインドウに触れてないのに……。
「まさか!わざわざ触れなくても声に反応するのか?」
『説明しよう!その通りである』
「スキルを声で発動するのと同じか。だとしたら逆にステータスを表示させてスキルの欄に触れてみたら……」
試しに石を拾い、ステータスのスキル欄にある【投石】に触れた。
「お?お?」
体が勝手に動き、流れるような美しい投球フォームで石を投げた。
「自分の意思とは関係なく動いた……これはこれで使えるな」
声が出せない状態でもこれでスキルが使える。となると、手も使えない場合はどうなる?考えただけでもスキルは発動するのか?
「試してみるか」
石を拾い【投石】を頭の中で繰り返してみる。
「ん〜……」
投げようとはしない。
「ダメか。ステータスのスキル名を触れるか声に出さないとスキルは発動しないみたいだ」
残念だ。思っただけでスキルが発動できたら良かったんだが、それでも言葉に反応するのはありがたい。今後は時と場合で使い分けよう。
「そろそろ変身できるな。次の魔石は……パニックマッシュにしよう」
キノコの形をしたパニックマッシュの魔石を胸に添える。そしてステータスを表示させて職業のヴァイラスに触れた。
「……変身しないぞ?」
『説明しよう! 我らがヴァイラスに変身する為には、ヴァイラスに呼び掛ける必要があるのだ』
「呼び掛ける……か……声にしか反応しないって事だな。仕方ない。ヴァイラス!」
胸から無数の銀糸が伸びパニックマッシュの魔石を取り込んだ。
『説明しよう!パニックマッシュの魔石に秘められたスキル、【攻撃力+2】【素早さ+3】【パニックスマッシュ】の中から1つ取得可能である』
パニックスマッシュ?これは俺が受けて混乱したパンチか?
「パニックスマッシュが欲しい!」
『説明しよう!パニックスマッシュを取得した』
ピンク色の帯に包まれ、ヴァイラスピンクに変身した。
「I’m ready!いざダンジョン!」
MAPを表示させて、シャロンから教わった場所を目指し気合いを入れて走り出す。
モンスターと出会わないまま、あっという間に深い森の奥へと来てしまった。木と木の間隔が狭くなり、走りにくく次第に薄暗く光が届かなくなってきた。
ダンジョンが記された位置まで到着したが、ラフデッサンの地図をスキャンしたMAPでは、詳細な場所が分からない。
「この辺りのはずなんだけど……」
そう思った時、右前方に光が射す場所が見えた。
「あそこだけ明るいな」
針路を変えて向かってみると、密集していた木々が唐突に無くなり、土の地面が広がる場所に出た。
「あれは……」
土の地面の中央にポッカリと穴が空いている。と言うよりも、何かの入り口のように、人工的な階段が地下へと続いている。
「ビンゴ!!ナレーションこの穴は何だ?」
『説明しよう!ダンジョンの入り口である』
「よしよし。ダンジョンについて説明してくれ。もちろん宝箱があったりするんだろ?」
『説明しよう!ダンジョンとは、洞窟や迷路、神殿や草原等、様々なエリアの階層で形成された構造物なのだ。トラップやモンスターも配置され、先に進むにつれて強くなる傾向があり、最奥にはボスモンスターが待ち構えているのだ。宝箱があるかどうは運次第なのである』
「良いね!魔石取得には最適だ。あわよくば宝箱があるかもしれない。行かない理由は無い!」
『ゲギャギャギャ!』
穴に入ろうとした時、背後からいつもの声が近付いて来た。
「またお前達か!」
木の影から顔を出したのは2匹のゴブリンだ。
『ゲギャギャギャ!!』
牙を剥き出して飛び跳ね始めた。こちらに気付いたようだ。
「手に入れたスキルを早速使わせてもらうぜ!」
右拳に力を込めて素早く距離を詰める。
『ゲギャッ!』
何度見ても、至近距離で驚くゴブリンの顔には慣れないな。
「混乱しろ!パニックスマッシュ!」
その顔に向けてパンチを放つ。
『ギャッ!』
轟音と共に放たれた超高速のスマッシュは、驚きの表情で穴という穴が開いているゴブリンの顎にクリーンヒット。その瞬間『ぱふ』と可愛らしい音が鳴った。
「おいおいおい……」
と思った矢先、アッパーのようなパンチを受けたゴブリンは空の彼方へ飛んで行った。
「キラン……じゃねーよ!これじゃ投げるのと同じじゃないか!混乱は!?」
『ゲギャ……』
残ったもう1匹のゴブリンと目が合った。今度は力を押さえて。
「パニックスマッシュ」
『ゲギャ〜……』
下から突き上げるスマッシュはゴブリンの顎を捉えて、リプレイでも見ているかのように空の彼方へ吹き飛ばした。
「魔石は?」
ヴァイラスが強過ぎて、ただの強烈なスマッシュになっている。攻撃スキルを手に入れたのは嬉しいが、モンスターを強制退場させてしまうと魔石の回収ができない。よって、このスキルは使えない……。
「当分の間、投石で倒そうかな……」
何はともあれ、邪魔者は消えた。これでダンジョンに入れる。
変身時間は残り3分弱。このままダンジョンに入っても、モンスターが現れた時に変身が解除されると危険だ。ここで変身を解除してクールタイムを過ごすのが妥当だ。解除を試してみよう。
「ナレーション。解除してくれ」
『説明しよう!変身を解除するのである』
変身が解除された。任意で解除できるのは良かった。
それにしても、ダンジョンが地下だとは思わなかった。
「露天商から松明を買っておけば良かった……」
しかし、穴を覗くと、両壁にランタンのような物があり、等間隔で奥へと続いている。
「問題なさそうだな」
周囲を警戒しつつ5分経過するのを待つことにした。
『説明しよう!
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