なんかごめん
『ブヒィィィィィ!!』
オークが斧を振りかぶり、薪を割るかの如く振り下ろした。
俺は座ったままレイピアを地面から抜き、顔の前で横に構える。しかし、こんな細いレイピアでは、斧を防ぐ程の耐久性が無いのは分かっている。振り下ろす斧がスローモーションのようにゆっくりと迫って来る。死に直面した際の現象だろう。斧の刃こぼれまでハッキリと見える。切れ味の悪そうな刃がレイピアに触れた。
死ぬ!
死という言葉を強烈に感じた時、ゆっくりとオークの顔が苦痛に歪み始めた。
「え?」
何故?しかしそれは直ぐに判明した。オークの頬に何者かの拳がめり込んでいる。
「ムンッ!!」
『ブフゥッ!』
オークが吹き飛んだ。同時にスローモーションが解け、死の感覚が消えた。オークは顎が外れてフガフガと転げ回っている。俺は……助かったみたいだ。
「大丈夫か!?」
突然男の声が聞こえた。
「後は俺達に任せるでやんす!」
声のする方には3人の男達が背を向け立っていた。オークを殴った筋肉質の男。槍を持つ長身の男。腕組みをする小太りの男。
「あ、ああ……え?」
状況が飲み込めず呆気に取られていると、槍を持つ男が忽然と消えた。
『ブフォォォォ……』
悲鳴のような声に驚き視線を向けると、オークが仰向けで大の字に倒れて事切れていた。その胸には槍が突き刺さっている。更に男が腹の上に腰を掛け、足を組んで座っていた。その男が髪をかき上げつつ流し目でこっちを向いた。
「フッ……お嬢さん怪我はないか?って男かよっ!!」
「ムン!そんなはずは!悲鳴は確かに美女だった!」
「え?でやんす」
男達は振り向き俺を見て、それはもう残念そうな表情に変わった。
「なんかごめん」
感謝の言葉が出てこない……。
「皆様!私の声を聞き助けに来てくれたのですね!ありがとうございます」
ランか?どうした?俺に対する口調とは随分違うぞ。
「私の声を聞いき」って……そうか!何度も上げていた悲鳴は、この男達を呼ぶ為だったのか。「やっと聞こえたみたいね」と言ったのも男達に対してのセリフ。だから気付くまで何度も叫んでいたのか。助けを求めるのではなく、助けさせたって事か。俺にもこの手法を使っていたのだろう。……したたかだ。
「「「おお〜〜〜!!」」でやんす」
男達の目がハートになった。分かりやすいな。
オークに腰掛けていた槍を持つ長身の男が、瞬く間にランの前まで移動して、片膝を付きランの手を握った。
「姫様。私はフィーゴと申します。姫様の危機に馳せ参じました」
姫様?
筋肉質の男がその前に出て、右手で自分の左手首を握り、体中の筋肉を膨張させた。
「ムン!女神様!俺はシモン!この筋肉はあなたの盾!」
女神様?
更にその前に小太りの男が出て来て、右手を胸に当てお辞儀をする。
「女王様。あっしはドラペイでやす。あっしがオークを倒したでやんす」
女王様?そうだな。どれか選べと言われれば女王様がしっくりくるな。
「まあ!素敵」
「倒したのは俺だぞ!」
フィーゴが二人を押し除けて前に出た。
「ムン!俺が一番に駆けつけた!」
今度はシモンが二人の前に割り込んだ。
「全てあっしの指示通りでやんす!」
汗だくのドラペイが、革の帽子を取りお辞儀した。
「何だと!」
「ムン!」
「でやんす!」
3人が肩をぶつけ合い、ゴチャゴチャと揉め始めた。
「皆様!私の為に喧嘩をするのはやめてください」
「「「はい!」」でやんす」
何だこいつら……。
「颯爽と駆け付けるお姿は、まるで白馬の王子様ですね」
騎士じゃなかったのかよ。
「まさしくその通りです!私が姫様の王子です」
「ムン!颯爽とは俺の事だ!」
「あっしが女王様の白馬でやんす!」
「「「何だと!」」でやんす!」
「おやめください。皆様が私の白馬の王子様ですから」
「「「はい!」」でやんす」
「おいおい……」
颯爽と現れオークを倒した所までは良かったが今は見る影も無い。目がハート。顔がデレデレだ。
「ところで、貴方達はどちらへ向かわれているのですか?」
「王都ギャリバングへ向かう途中です」
「まぁ!それでは私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
「勿論でやんす!」
ん?こいつらと行くのか?
「ラン。俺とギャリバングに行くんじゃないのか?」
「いいえ。この御三方とギャリバングに行きたいのです。ヒモ様とはここでお別れです」
「は?何言ってるんだ?ギャリバングなら俺も行くぞ?」
「坊主見苦しいぞ。ささ!姫様参りましょう」
「ムン!障害物は俺が砕いてやる」
「女王様はあっしに乗るでやんす」
ドラペイが馬のように両手両膝を地面についた。
「まあ!それではお言葉に甘えて」
ランが背に乗ると、ドラペイの鼻の下が伸びた。馬面だ。
「ヒヒ〜ンでやんす!」
「それではヒモ様。ご機嫌よう」
4人は意気揚々と森の奥へと向かって行った。




