万策尽きた……
それにしても綺麗な人だ。並んで歩くだけでこの優越感。きっと町を歩くと、すれ違う男達がこぞって振り向くだろう。そして俺を見て悔しがるのが目に浮かぶ。そんな女性がまさか仲間になるとは思いもしなかった。
「……どこ……ねぇ」
顔の右半分を隠すようなウェーブがかった髪。左肩から手の先までフリルが着いた長袖で手は隠れている。そして右足の付け根から足首にかけてフリルが着いた長ズボン。右左右と見えない部分が不思議と魅力的だ。何かで聞いたことがある。女性の仕草は交差すれば魅力的だとか。例えば、左耳を触る時は右手で触る、歩く時はモデルのように足を交差させる。ランの格好もきっとそうなのだろう。
「……バング……のよ」
更には、この子守唄のような甘い声。
「ちょっと聞いてるの?」
「え?あ?何か言ったか?」
「私に見惚れるのは仕方ないけど、ちゃんと話は聞いてよね」
「見惚れていたわけじゃ……」
ない事もない。反論できないな。
「……まあ、良いわ」
「で?何て言ったんだ?」
「王都ギャリバングはどこ?って聞いたのよ」
「この先に真っ直ぐ進めば着くよ」
MAPを見つつ、ギャリバングのある方向を教える。
「ふ〜ん。どうしてわかるのよ?」
MAPがあるとは言えない。
「これがあるからさ」
冒険者の心得を渡した。
「こんなので良く分かるわね」
「ランはモンスターに聞いたりできないのか?」
「モンスターの言葉が分かるわけないでしょ!」
モンスターを誘惑しても会話はできないみたいだ。当たり前か。
「だよな……そういえば、さっき聞きそびれたんだけど、どうしてランはここにいるんだ?」
「ある物を探してるのよ」
「ああ、白馬の王子様か?」
「違うわ。それはある物を手に入れるために必要な物よ。私はトレジャーハンターなの」
「トレジャーハンター?宝探しか?」
「そんなとこ。それより見て」
ランの視線の先に1匹のオークがいる。こちらにはまだ気付いてないみたいだ。
「オークだ。迂回するか?」
「しないわ。貴方が倒すのよ。ほら行って」
「無理だよ。投石しかないんだから」
「私の言う事が聞けないの?」
「さっきの見ただろ。攻撃が当たらないんだ」
「そうよね……それじゃあ迂回するわよ」
『ブフォ』
あれは!オークが見た事も無い幻属性の魔石を持っている。
「いや、ちょっと待ってくれ」
欲しい!どうにかして奪えないだろうか。
「私の言う事を何一つ聞かないのね」
「それはすまん。レイピアを貸してくれ!」
「良いけど倒す算段はあるの?」
「やるだけやってみるさ」
レイピアを受け取り、ショルダーバッグからポーションを取り出しポケットに入れた。万が一の時に、直ぐ使えるようにしておきたいからな。そして、気付かれないようにオークへと近付いた。
「ラン今だ!オークを誘惑してくれ!」
止まってる相手から奪うだけなら出来るだろう。
『ブフォ?』
オークに気付かれた。しかし、ランのテンプテーションをかければ動きを止められる。そこをただ奪うだけだ。その後、突いて突いて突きまくる。アクセルビーよりもオークは的がデカいから数打ちゃ当たるはず。
「そういう事は早く言ってよね!」
『ブフォォォォ!!』
オークが斧を横に振り抜いた。
「うおっ!スピードスター!!」
しゃがんで間一髪かわした。髪の毛が数本斬られた。続いて縦に斧を振り下ろして来た。それを横に飛んで避ける。
「くっ!スピードスター」
服をかすめた。
「まだか!?早くしてくれ!」
「無理!」
「は?こんな時に何言ってるんだよ!」
「MPが足りないわ」
「MP!?そんな大切な事はもっと早く言ってくれよ!」
「その言葉そっくりそのまま返すわ!」
『ブフォッ!』
「うわっ!」
言い争ってる場合じゃない。斧を縦横無尽に振り回してくる。スピードスターを使用して避けるので精一杯だ。
「エーテルは!?」
「持ってるように見える!?」
確かに!裸に近い格好だ。何も持っていない。
「これを飲んでくれ!」
ショルダーバッグからエーテルを取り出した。若干手間取った。エーテルもポケットに入れておくべきだった。
「投げて!」
「行くぞ!受け取れ!」
振り向いてランに投げた。
『ブヒッ?』
はずだったが、後ろにいるオークへと飛んで行き、パクリと飲み込んでしまった。
「何ぃ〜!!」
「こっちが何よ!!モンスターを攻撃しないくせに回復はするのね!!ヒモこそモンスターの仲間なんじゃないの!!」
「違うわ!!」
「どうするのよ!」
『ブヒブヒ』
「くそっ!こうなったら!でやぁぁぁぁ!!」
何度も突きを繰り出すが、レイピアがオークを紙一重でかわしている。世にも奇妙な現象だ。
『ブフォフォッ!』
「ぐっ!」
斧が頬を掠めた。血が流れ落ちる。
「きゃ〜〜〜〜!!」
ランの叫び声だ。まさか他にもモンスターがいたのか!?
「どうした!?」
振り向くがモンスターはいない。ランだけだ。
「いや〜〜〜〜!!」
俺を心配してくれているのか?それとも血を見て気が動転してるのか?
「大丈夫だ!ただの擦り傷だ」
「きぃ〜やぁ〜〜〜〜!!」
「大丈夫だって言ってるだろ!」
「やっと聞こえたみたいね」
「ずっと聞こえてるよ!!うおっ!危なっ!」
斧をジャンプしてかわす。
「しまった!」
着地に失敗して体勢が崩れて転倒してしまった。
「チャームフォグ!」
桃色の靄が発生したが、簡単にかわされた。
「くそっダメか!チャームフォグ!……なっ!出ない!MP切れか!?」
『ブヒブヒッ』
MPが切れてしまった。
「当たれ!」
咄嗟にレイピアを投げた。しかしそれはオークへと向かわず真上に飛んで行った。
「万策尽きた……」
オークが嘲笑い、覗き込むように顔を近付けてきた。鼻息が顔に当たり、自然と笑顔になっていく。もうダメか……途方に暮れ空を見上げると、何かが光った。
「あれは!」
上空に投げたレイピアだ。落下して戻って来ている。良いぞ。ファントムドラゴンに刺さったみたいに、このままオークに突き刺さってくれ!
『ブフォォォォ!』
オークが斧を振り被る。
『ブフッ!』
「いっ!!」
落下したレイピアがオークの眼前を通過して、俺の股の間の地面に刺さった。オークは斧を振り被ったため、偶然避けた形になった。運が良いヤツめ。
「今度こそ万策尽きた……」




