えい!
「いた!モンスターだ!あれは……」
大型犬サイズのアリがいる。あれには見覚えがある。冒険者の心得に載っていたモンスターだ。確か……。
「ハニーアント!幻属性だ!」
足元の石を拾った。しかし、投げようとしてある事に気付いた。ハニーアントは花びらのような物を咥えている。
「もしかしたら巣に戻るところかもしれない……様子を見るか」
倒すのはやめて尾行を開始した。巣を見つければ大量の魔石が手に入るはずだ。木の影に移動して背中を貼り付けチラリと覗く。ハニーアントは迷う事なく進んで行く。
「間違いなさそうだな」
ボソリと呟き、次の木に移動した。しかし突然警報音が鳴り始めた。
「うおっ!……マジか」
画面にはCAUSIONの文字。変身解除10秒前だ。
「でもまあ、尾行してる間にクールタイムは終わるだろう」
どうせ尾行するだけだ。5分間のクールタイム中に巣を見つけたとしても、時間を待って変身すれば良いさ。
「次はどの魔石を使おうかな。どんなスキルが手に入るか楽しみだ」
警告音が10回鳴った後、変身が解除された。
「尾行続行だ」
スピードスターを駆使して素早く次の木に移動して隠れた。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
女性の悲鳴だ。
「何だ!?」
木から覗くと、ハニーアントの目の前に腰を抜かした女性がいる。超美人だ。しかもナイスバディ。いや、今はそれどころじゃない。
『ギギギ』
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
「襲われてる!」
牙を鳴らして威嚇を始めた。
「マズイ!今助ける!」
木から飛び出そうとしてピタリと止まった。
「……変身してない」
飛び出したところで変身していない。そしてまだ変身できない。ハニーアントの強さが分からない以上生身では危険だ。慌てて木に隠れた。
「くそっ!どうすりゃ良いんだ!」
再び木から覗くと、ハニーアントが今にも襲い掛かろうとしている。迷ってる場合じゃない。振りかぶって石を投げた。
「やめろ!投石!」
石はハニーアントの後ろ足に当たった。
「よしっ!今だ逃げろ!」
『ギギッ!』
動きを止めてこっちを向いた。触覚をクネクネと動かしている。
「おっと」
すかさず木に隠れた。
「ダメージ無しか。変身していないと威力が全く無いな」
「いやぁぁぁぁ!!」
『ギギギギギ』
木から覗くと、ハニーアントが再び威嚇している。
「逃げなかったのか!?こうなったら、もっと近くから投げてやる!」
体勢を低くしてスピードスターで転がるように隣の木に移動した。そしてしゃがんだまま木からチラリと覗いた。
「ん?」
『シュッ?』
至近距離で、厳つい顔のおっさんと目が合った。
「うわっ!」
驚いた拍子に尻餅をついた。慌てて後退りをする。
目の前には、キノコにおっさんのような顔のあるモンスターがいた。パニックマッシュだ。
「キノコかよ!驚かせやがって!」
『シュッ!シュッ!シュッ!』
パニックマッシュは険しい顔のまま、目の前でシャドーボクシングを始めた。
「こんな時に!おいおい!それで威嚇してるつもりか!顔の割に短い手足じゃ迫力に欠けるぜ!」
しかし以外と滑らかに動いている。足捌きもなかなかだ。スピードもそれなりに速い。悔しいがキノコのくせに様になっている。
『シュッ!』
「邪魔するな!投石!」
石を投げた。
『シュシュシュッ!シュッ!』
「なにっ!当たらない!?」
踊るようにステップを踏み難なく石をかわした。
『シュッ!シュシュッ!』
その場で素早くパンチを繰り出している。
「もしかしたら、格闘系のスキルを持っているのか!」
パニックマッシュの魔石を使えば、ボクシングとか覚えたりするのかも。
「来ないで!!」
女性の声だ。
「しまった!」
ハニーアントが立ち上がり今にも女性に襲い掛かりそうだ。パニックマッシュに気を取られすぎた。投石で気を引かなければ!
『マッシュッ!』
「うおっ!」
視線を戻すと、パニックマッシュが飛びかかり右拳を放った。かわせない。
「うっ!」
【ー1】
左頬に当たってしまった。『ぱふ』っと可愛らしい音が鳴った。だがそれだけだった。然程ダメージは無い。キノコの柔らかい拳の感触が頬に残る。
「ふぅ〜……ビビらせやがって!お返しだ!」
足元の石を拾い顔を上げた。すると、パニックマッシュが2匹に増えていた。
「仲間か……なにっ!」
更にもう1匹増えた。それは止まらず分裂するかのように次々と増えていく。
『『『『『シュシュシュッ!』』』』』
10匹以上のパニックマッシュがシャドーボクシングを始めた。
「おいおい……嘘だろ……」
どんどん増える。その数30以上。更に増え続けている。
「ど、どうなってるんだ!囲まれた!こんなの勝てる訳ない……」
視界一面に増えたパニックマッシュが一斉に飛びかかって来た。スピードスターで何度もかわす。しかし周囲を囲まれている。ジワジワと距離が詰まる。
「だめか!」
逃げ場がない。
パニックマッシュが一斉に飛びかかって来た。
『『『『『シュッ!』』』』』
無数の拳が頬に当たった。
「ぐふあっ!」
【ー1】
『ぱふぱふぱふ』と、まるで自転車のクラクションのようなラッパに似た音がした。ダメージは少ないが、このままではマズい。
「今度はこっちから……」
立ちあがろうとした途端、突然視界が大きく揺れ始めた。
「な、なんだ!」
立ってられない。片膝をつき頭を振る。そして顔を上げるが世界が回転しているかのように回っている。パニックマッシュも増え続けている。
『『『『『シュシュシュッ!シュシュッ!』』』』』
「こ、このままじゃやられる……来るなぁぁぁ!投石!」
がむしゃらに石を投げるが、当たったかどうかも分からないほど視界が歪んでいる。
『『『『『シュシュッ!』』』』』
森を埋め尽くすほどのパニックマッシュが、雪崩の如く飛びかかって来た。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
これは詰んだ。
「えい!」
えい?女性の声だ。
『シュッ……』
突然全てのパニックマッシュが地面に倒れた。
「へ?」
しかし今度は、ハニーアントに襲われていた女性が無数に目の前に現れた。
「な、な、な、なんだ!?」
「「「「「落ち着いて!」」」」」
何人もの女性の声が響く。
「そ、それ以上近寄るなぁぁぁ!」
「「「「「も〜!世話が焼けるわね」」」」」
大勢の女性から拳で殴られた。
「ぐふぁっ!!」
【ー10】
「イテテ……な、何をす……る……あれ?」
すると大勢の女性は消えて1人になり、揺れていた視界も治った。
「んん?」
地面には1匹のパニックマッシュが倒れている。
「大丈夫?」
「え?ああ、大丈夫……みたい……パ、パニックマッシュの群れは?」
「倒したわよ」
「あんなにたくさんいたのに?」
「はぁ……元々1匹よ」
女性は、ため息を吐き残念そうに肩をすぼめた。
「ああ、元々は1匹だったよな。それが増えて……そうだ!ハニーアントは?」
「それも……ほら」
ハニーアントも倒れている。
「どう言う事?」
「だから、貴方はパニックマッシュのスキルで混乱していたのよ」
「え?どう言う事?」




