キャッスリンズ♡ベア
ギルドを出て、アーヴァインに教わった通りを歩いているとそれは直ぐに見つかった。
西洋風の甲冑や、鱗で覆われた盾や兜が店の前に並べられている。ここで間違いなさそうだ。
「これピカピカで格好良いな!」
腰に手を当ててポーズを取っている甲冑を眺めていると、その腕の隙間から店の奥のカウンターが見えた。そこには女性が座っている。
「お!店番か?」
薄暗いカウンターには、髪の毛を二箇所お団子にした女性がいる。カウンターに肘をつき、ヒマそうに顔を乗せているが表情までは確認できない。しかし口元には朝日が当たっており、唇が艶やかに輝いている。色っぽい。
白のキャミソールに似た薄手の服を着ている。それをはち切れんばかりに押し上げる双丘。ダイナマイトバディ。セクシーだ。
笑顔を向けるが、その女性は気付いてないのか動く気配はないみたいだ。閉まってるのか?
「入って良いのかな?」
店の看板を見上げると、何やら文字が書いてある。が、読めない……。端の方には、ピンク色をした熊の顔が描かれている。尖らせた口には真っ赤な口紅が塗ってある。
「ピンクの熊?まぁ、入ってみるか」
店内は独特な香りがする。皮や鉄、手入れ用の油の匂いが入り混じっている。防具屋特有の匂いだろう。防具は全て手入れが行き届いており、埃ひとつ乗っていない。
「へぇ……凄い!まるで博物館だな。骨董品でも見てるみたいだ」
兜や鎧が店に並んでいる事が不思議でたまらない。まるでコスプレ用みたいだ。
「あら〜♡『キャッスリンズ♡ベア』へようこそ♡うちの子たちは骨董品じゃないわよ〜♡」
カウンターに座る女性が妖艶な声で語りかけてきた。
「すみません!そう言う意味じゃないです。初めて見る物ばかりで圧倒されてたんです。綺麗だし」
「綺麗?ありがと♡よく見ればあなた良い男じゃない!うふふ♡」
カウンターに座っていた女性が投げキッスを飛ばした。何度も言うがセクシーだ。ゾクゾクと身震いをする。
「珍しい格好してるわね♡もっと良く見せてくれない?」
何だあのエロい唇!お近付きになりたい!スキップをして店の奥へと入って行くと、カウンターの女性がゆっくり立ち上がった。
「あら〜♡私の好みだわ〜♡何だか良い事ありそう♡」
ムクムクと立ち上がる女性を見上げた。デカい!オークと同じくらいの身長だ。
「あわわわ」
慌てて止まろうとしたが、足が滑り空回りしてその場に尻餅をついてしまった。
「そこ滑るから気を付けて♡メンテ用の油をこぼしたのよね♡」
女性はカウンターを軽くまたぎ、そのまま一歩で近寄ると前屈みになり手を伸ばしてきた。ゴツゴツしている。
化粧をしてはいるが、よくよく見ると口の周りには青カビが生えている。いや、髭を剃った跡だ。頭はスキンヘッド。その顔は完全に男だった。
「お!お!おと?男!?」
「失礼しちゃうわね♡キャッスリンよ♡」
ヤバイ!立ちあがろうとするが足元が滑る。もはやトラップだ。バタバタともがいていると、川を泳ぐシャケを捕獲するかのように、素早い動きで足首を掴まれた。
「離せ!」
キャッスリンが立ち上がるのと同時に俺は逆さ吊りになった。
「大丈夫?怪我はしてないかしら?」
「こっ、これは!?」
目の前には、ハイレグに収められたキャッスリンズ♡ベアがモッコリと主張としており、それが徐々に距離を詰め始めた。
「ギャ〜〜〜!!」
先手必勝!迫り来る急所を殴ろうとしたが全く違う方向に手が動く。【殴る】等の攻撃スキルを所持していないからか。こんな危機的状況に対応出来るスキルが無いのは命取りだ。そして更にピンチだ。殴るどころかハイレグに手を掛けていた。
「あら、せっかちさん♡」
逆さ吊りの状態で抱きしめられた。
「ギィヤァァァァ〜!顔に付いた!ひぃ〜!やめてくれ!尻をモニモニ揉まないでくれ!」
「見かけによらず良い体してるじゃない♡」
体の至る所を入念に触られながら、素早く上下を回転された。目の前に現れたのは、口周りが青い男の顔だ。
「そ、それは!!」
頭にある二つのお団子は髪の毛じゃなくて耳だ!
「く、く、くま、熊男ぉ〜!?」
スキンヘッドの天辺には、丸い熊の耳が付いている。
「キャッスリンズ♡ベアへようこそ♡」
熊男の獣人のキャッスリンは、クネクネと体を揺らすと口を尖らせ顔を急接近させた。
「ん〜〜♡」
「ギャ〜〜!!危ねぇ!即死攻撃だな!ハァハァ」
迫り来る唇を間一髪で回避する事に成功した。脱出しないと!しかし動けない。なんて力だ。
キャッスリンが着ている服はキャミソールではなく、タンクトップだ。ダイナマイトバディもとい、マッスルボディ……ムキムキだ。
「グッタリして大丈夫?元気出して♡ん〜〜♡」
再び唇を近付けてきた。
「ギャ〜〜!!! ヴァイラス!!」
パニック状態に陥り、手に持っていたパンを胸に当てて叫んだ!
「あらまぁ♡それはアーヴァインのじゃな〜い?」
「そ、そうだ!アーヴァインからこれを渡すように言われてたんだ!」
パンをキャッスリンの目の前に出した。
「嬉しい!大好物なの!いただくわね♡ん〜〜♡」
「何で唇を尖らすんだよ!あ〜んだろ」
「あら食べさせてくれるの?いいの?あ〜ん♡」
男は俺が持つパンをひと齧りした。指まで食べられた。
「チュパッ♡」
「ひ〜〜!」
鳥肌が羽ばたいて行きそうだ。
「自分で持てよ!気色悪い!」
「貴方アーヴァインのお友達?だったらサービスしちゃうわ♡その前に、ちょっと待っててねん♡これにはコーヒーが会うのよね♡」
キャッスリンは俺を下ろすとカウンターをまたぎ奥の部屋に消えて行った。助かった。アーヴァインありがとう。
「今のうちに逃げた方が……」
しかし逃げる間も無く、キャッスリンが両手にコーヒーを持ち戻って来た。
「はいど〜ぞ〜♡キャッスリン特製のベアコーヒーよ〜ん♡」
持っていたパンと引き換えに、コーヒーを受け取った。
「この世界にもコーヒーはあるんだな……」
「何か言ったぁ?」
ん?パンとコーヒーを持つ熊男?どこか懐かしい感覚を覚えた。
「どこかで会った事ないか?」
「それはナンパね?クマっちゃうわ♡」
「違ぇよ!そんな事するか!」
「そのコーヒー飲んでみて♡美味しいわよ♡」
「ん?ああ。いただきます」
「私の愛が詰まってるでしょ?」
「ぶーーーーーっ!飲めるか!!怖ぇな!なんて恐ろしい物入れてんだよ!」
吹き出したコーヒーを頭から被るキャッスリン。
「勿体無いわねぇ……蟻蜜を入れたにクマってるじゃない♡これはどんなプレイ?」
コーヒーまみれの熊の獣人……これは……。
「ああぁぁぁぁ!!思い出した!夢に出て来た熊のパン屋だ!!」
パン屋のキャッスルだ。
「嬉しいわ!夢にまで見たってこの事ね♡」
「違うわ!!」
「いやん!そんなに怒らなくってもい〜じゃない♡失礼しちゃうわね♡ベアベア♡」
「ぷんぷん、みたいに使うな!」
深いため息を吐いた。ため息しか出ない。
「しかし本当に居たんだな……スキンヘッドの熊の獣人」
「いるにクマってるでしょ♡」
「無理矢理、言葉の端々にクマを入れんなよ!!」
「熊の獣人なんだもん♡仕方ないベア♡」
「もう黙っててくれ!」
「ハイハイ♡お口にベアベア♡」
キャッスリンは口元にニャンニャンと猫の真似をするように、ゴツい拳を当ててウインクをした。
「がはっ!……クリティカルヒット……悪夢よ!早く覚めてくれ!!!」
『説明しよう!夢ではないのである』
「知ってるよ!」




