登録に来たんだよ
冒険者ギルドの扉を開けると、香ばしい肉や酒の香りが押し寄せて来た。俺は、一歩足を踏み入れて立ち止まった。
ギルド内は喧騒だ。昼間から酒を飲んでる奴もいる。
正面にはカウンターがあり、美人の受付嬢が厳つい男達に涼しい顔で対応している。その左右には湾曲した階段があり、それぞれ2階へと続いている。
左を向くと丸テーブルが幾つも置いてあり、それを囲んで食事をしたり、地図を広げて飲み物片手に作戦会議をしたりと食堂のようなスペースになってるみたいだ。
反対の右側は、突き当たりの壁に大きな掲示板が設置されている。そこにはいくつもの羊皮紙が乱雑に貼り付けてある。冒険者の1人が、その中の1枚を剥がして正面の受付に持って行った。あれが依頼のシステムなのだろう。いかにもここから冒険が始まると言う雰囲気に胸が躍る。
左側に視線を戻すと、入り口付近のテーブルに足を乗せ、椅子を傾けて座っている太々しい態度の冒険者と目が合った。
「そこで俺は言ってやったのさ!一昨日きやがれってな!」
「ギャハハハ!毎日来てる奴に言う言葉かよ!」
その冒険者二人は大きな声で笑い始めた。
「アスカこっちだ!」
「は、はい!」
お上りさん状態の俺を置いて、アーヴァイン達は受付まで進んでいた。
「よう!キャッシュ」
ジャックバッシュが話し掛けたのは眼鏡をかけたグラマーな美女だ。受付嬢と言うより秘書といった感じだな。ただ、アーヴァインとジャックバッシュを見る目が少し厳しい気がする。
「何しに来たの?まさかこの時間から飲みに来たなんて言わないでよね」
「そんな訳ないじゃないか。登録に来たんだよ」
さっきまでグロッキーだったアーヴァインは、背景に薔薇が咲き乱れるかのような最高の笑顔を作っている。切り替えが早い……。
「登録?誰の?」
「シャロンが仲間になったんだよ。だからパーティー登録をしようと思ってね」
「シャロン様が!?本当に!」
「はい。ご一緒する事になりました」
「良かった!この人達だけじゃ不安だったんです!シャロン様が一緒なら安心ですね」
シャロンに対しては声色が変わったぞ。
「シャロンは俺達の保護者かよ」
ジャックバッシュが口を尖らせた。
「そうよ!ズボラなあんた達には勿体ないくらいよ。ありがたく思いなさい!」
お!戻った。
「そ、そこまで言わなくても良いんじゃないかい?」
珍しくアーヴァインがしどろもどろだ。
「あんた達2人だと、お金とお酒に振り回されて、魔王討伐なんて永遠に無理だからね」
正論だ!
「相変わらずキャッシュは厳しいな……」
アーヴァインの笑顔が引き攣った。
「シャロン様!お金とお酒にだらしない2人ですが、どうぞよろしくお願いします」
キャッシュは2人の何なんだ?幼馴染って設定が脳裏をよぎる。が、俺にはどうでも良い話しだ。
「承知いたしました。1ギャリー、エール1滴までしっかりと管理します」
「「そんな〜」」
このおとぼけタイムは、お決まりなのか?
「それではシャロン様、この鑑定水晶に手を触れてください」
何だあれは?
シャロンが触れると文字が浮かび上がった。読めない……。
「素晴らしいステータスです!」
何っ!?あれに触れるとステータスが分かるのか!?
「それでは登録しますね。聖騎士、レベル18……。貴方達よりもレベルが上じゃない!シャロン様に迷惑かけちゃダメよ!もっと頑張りなさい」
「はは……相変わらずキャッシュは厳しいね」
マズい!あれに触れるとステータスが表示される?ヴァイラスだって事がバレてしまうんじゃないか?俺は消滅してしまう!
「冒険者登録は無理だ!」
「あら。貴方は?」
しまった!つい、口に出してしまった。
「あ、アスカです」
「アアスカ?変わった名前ね」
流石幼馴染……。
「ハハハ。そんな変な名前じゃないよ。アスカだよ」
どの口が言ってるんだよ。アーヴァインも間違えたくせに。
「あらごめんなさい。それでアスカは何しに来たの?」
「こいつも登録してくれ」
ジャックバッシュが俺の肩に腕を置いた。
「良いけど大丈夫?弱そうだけど」
失礼な……。合ってるから言い返せないけど。
「アスカはこれから強くなるよ」
お!アーヴァインは見る目があるな!
「ふ〜ん……それって誰にでも言えることじゃない?」
それもそうか。
「本当だよ。僕が保証する」
「いくら勇者だからって、そんな冗談はやめてくれる?冒険者に登録したら真っ先に死ぬのが目に見えてるわ」
「キャッシュ殿それは失礼です。アスカ殿はこう見えて、とてもお強いのですよ。私からもお願いします。登録してください」
「シャロン様もちろんです。たった今、彼の登録準備が終わりました」
シャロンへの評価は絶大だな。だが、この流れはマズい。あの水晶に触れなければならなくなる。ステータスが分かるのだろうか?
「こ、これは何ですか?」
「鑑定水晶と言って、ステータスを確認できるマジックアイテムよ。登録には名前と職業が必須なの。ただし、犯罪歴があると登録できないのよ。それを確認するためってのもあるわね」
やっぱりそうだ。職業が見られるとマズい。ヴァイラスだと知られると何かと面倒そうだ。一瞬で消滅する可能性もある。
アーヴァインに目をやると深く頷いた。助けてくれそうにない。俺の事情を知らないから仕方ないが他に方法は無いのか?
「でも……ちょっと……」
「怖がらなくても大丈夫だよ。死にはしないよ」
それが死ぬんだよ!
「いや……それが……そのぉ……」
「気楽に行こう!」
アーヴァインに背中を押された。と言うよりも叩かれた。
「うわっ!」
バランスを崩し鑑定水晶に触れてしまった。
「こ、これは……」
驚愕の表情で、ジャックバッシュが目を見開き固唾を飲んだ……。




