体調が優れないみたいですが?
一張羅のスーツに着替えた所でドアをノックされた。
返事をすると、執事長のゼルバリウスが入ってきて食事の準備が出来たと告げられた。
部屋を出ると、丁度アーヴァインとジャックバッシュも部屋から出て来たので、軽く挨拶を交わして一緒に食道へ向かった。
朝食とは思えないほど豪華な食事をご馳走になった。二日酔いのアーヴァインはずっと水を飲んでいた。
食事を終えるとそのまま出発する事になった。
感謝の言葉を述べる皇太子達に見送られ、扉の前で待っていたシャロンと合流して外に出ると馬車が一台止まっていた。
扉を出た所で3人は立ち止まり、並んで空を見上げ、セリフめいた決意のようなものを順番に口ずさんだ。空には美しい虹が架かった。雨も降ってないのにおかしいだろ!なんて言わない。これは勇者一行のストーリーなのだろうと自己完結した。何故なら、俺の事は全く見えていないかのように、淡々と話が進んでいくからだ。
ちなみに、アーヴァインは『魔王を』と言う所を『お酒を』と言って慌てて咳で誤魔化していた。
3人がセリフを終えた頃、空には3本の虹が架かっていた。
「恥ずかしい……良かった。仲間にならなくて!テーマ曲が流れそうだな」
俺が皮肉を言った所で、シリアスな顔をしたアーヴァインが振り向いた。
「アスカは……うっぷ……これからどうするんだい?」
こちらを向いた瞬間、顔面蒼白になった。シリアスフェイスは、もって3分ってところだな。
「特に決まってません。とりあえず服を買いに行こうと思ってます」
二日酔いのアーヴァインに答えた。
「決まってないんだね……実はあのあと3人で話し合ったんだけどさ、アスカさえ良ければ一緒に行かない?」
「え?」
まさかこのタイミングで仲間の勧誘か?どうしよう。こんな展開は考えてもいなかった。
「シャロンが、まだギルドに登録していないそうだ」
ジャックバッシュが言うギルドって、もしかしてゲームで良く聞く冒険者ギルドの事かな?俺が知る冒険者ギルドは、アイテム採取やモンスター討伐の依頼を受ける場所だ。
「シャロンが仲間になったからね。これを機にギルドで登録して、ちゃんと『3人』でパーティーを組もうと思うんだよ」
「ん?」
3人?
「アスカ殿は認識票を持っていませんよね。今後『1人』で街を出入りする際には必ず必要になります。冒険者ギルドに登録してはどうでしょうか?」
1人ね……。勧誘じゃないのか。紛らわしい……。
「行きます」
「良かった!それじゃあ、僕達と一緒に冒険者ギルドへ登録しに行こう!」
最初からそう言ってくれよ!紛らわしい!
苛立ちを隠して馬車に乗り込むと、馬車は心地良い車輪の音を奏でながら進み始めた。
昨日とは違い、今日は町中に人がいる。この風景が当たり前なんだろうけど、昨日とは全く違う場所にいるみたいだ。遠くの方から鐘の音が聞こえた。
道中、ジャックバッシュとシャロンから、ギルドについての説明を軽く受けた。
アーヴァインについては、馬車の揺れが二日酔いに追い討ちを掛けてグロッキー状態だ。
「認識票は必ず必要になってくる。身分証は無理だ。手に入らない。あれは王族と貴族、それから聖職者にしか与えられないからな。ギルドで冒険者に登録すれば手っ取り早く認識票が手に入る。それに人助けの仕事も斡旋してくれる」
さすが勇者一行。人助けをするために……ジャックバッシュの目がGだ。全ては金のためか。
「なるほど……」
俺の知ってるゲームの知識と合っていれば、冒険者になるのはやぶさかではない。今後、認識票だけじゃなく金も必要になる。勇者ではない俺は、国からの援助金等は期待できない。自分で稼ぐしかない。
「ちなみに商業ギルドもありはするが、算術が出来なければ門前払いだ。アスカには冒険者が向いている。ククッ」
恥ずっ!ジャックバッシュこの野郎!話を蒸し返さないで貰いたい。
「冒険者になりますからっ!」
そうこうしているうちに馬車が止まった。
「着いたみたいだ。それじゃあ行こうか」
ゼルバリウスが外から扉を開けてくれた。
「おや?アスカ様。体調が優れないみたいですが?」
恥ずかしくて顔が赤くなってるだけだ。
「これは……大丈夫です!」
俺よりアーヴァインの心配をしてやってくれ。真っ青だぞ!俺は真っ赤になった顔を隠すように、真っ先にギルドへ入った。




