ようこそ!ギャリバングへ!
森を抜け、見晴らしの良い草原が広がるエリアに出た。
「ギャリバングはもう直ぐだよ」
道に沿ってキラキラと輝く川が流れている。その向こうを、鹿に似た生物が群をなして移動している。空を見上げると鷹のような鳥が気持ちよさそうに輪を描いている。
そして進路上の水平線には、建物が集まった場所が見えてきた。きっとあれが王都ギャリバングだろう。
「あれはモンスターですか?」
「そう。あれはボトジカだよ。草食で大人しいモンスターだから特に危険はないよ」
「あの鳥は?」
「鳥?ああ、レッドイーターと言って、赤い物を好んで食べる習性があるんだ。赤い物が無ければ襲って来ないから大丈夫だよ」
「へ〜……あっ!レイビだ。やっぱり尻尾が無い」
レイビは知ってる。逃げるのスキルを手に入れた、ありがたいモンスターだ。
「レイビは最弱のモンスターだよ」
「最弱?」
「そう。直ぐ逃げるんだよ。それに甘噛みしかして来ないからね」
「へぇ……」
やっぱりこの世界はスキルが何より重要だ。甘噛みじゃなくて、逃げるが手に入って良かった。
「アスカは見たところ何も持ってないみたいだが金はあるのか?」
ジャックバッシュから聞かれた。
「いえ、実は一円もありません」
「いちえん?」
「あ、いや……お金の単位って何でしたっけ?……はは」
「何言ってるんだ。ギャリーだろ。記憶喪失になってもそれだけは忘れるな!ほら。これが百ギャリーだ」
ジャックバッシュが銅のコインを俺に弾いた。
「ギャリー?それはアーヴァインさんが使ってた偽名ですよね?」
「あれは慣れない名前を付けると、うっかり間違えるかもしれないから、自分の好きな物を相手につけようとアーヴァインが言い出したのさ」
アーヴァインがギャリーと呼ばれていたと言う事は、ジャックバッシュは金が好き。
「それでギャリーか……エールはどう言う意味ですか?」
きっと、エールを送る。とかかな?勇者だから応援するって意味だろうな。
「エールは酒の名前だよ。僕は酒が大好きなんだ!」
酒の名前でした……。だから、オークが酒樽を壊した時、勿体ないと声を荒げて俺を睨んだのか……。てか、酒好きの勇者ってどうなの?聞いた事ないんだけど……。
「今はエールにハマってるんだけどさぁ、まだ見ぬ銘酒を求めて僕は旅を続けるよ!」
「魔王討伐は?」
「おい!もう良いだろ百ギャリー返せよ!」
「あ、はい」
酒好きの勇者に、金に目のない魔拳闘士……。この勇者一行は本当に大丈夫か?
「宿に泊まるには幾ら必要ですか?」
「宿の相場は食事付きで二千ギャリーだな」
「エールは別料金だよ」
「ソーデスカ……」
「飯を食うならギルドがお勧めだ。味はともかく五百ギャリーで腹一杯食える」
「エール付きでね」
「へー。ソレハイーデスネ……」
「文無しは何かと大変だろうから、一万ギャリー貸してやる」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「返す時は味を付けて返してくれよ」
利子を取るのか?勇者一行がそんなケチ臭いことする?
「はは……冗談でしょ?」
「本気だが?ちゃんと返せよ」
ケチだな。でも無一文だから断れない。
ジャックバッシュから、ドラゴンの絵が描いてある金貨を一枚受け取った。
「これが一万ギャリー?」
「金貨自体に一万ギャリーの価値があるんだ」
なるほど。でも、これで宿に5回泊まれる。
「これで宿に12回泊まれますね」
ん?5回と言うつもりが12回と口から出た。訂正しないと。
「間違えました9回ですね」
違う!5回だ!どうして言えないんだ!?
「ははは。5回だろ。算術スキルは商人の専売特許だからな。まぁ俺は算術スキルを持ってるけどな」
何っ!?計算するにもスキルが必要なのか!頭の中で分かってても口に出すことができないなんて……スキル恐るべし。算術スキルは必ず手に入れたい!でも流石にモンスターは持ってないだろうな……。
二人とも笑ってる。話を変えないと。
「へ、へぇ〜、そうなんだぁ〜。一万ギャリーだと、ギルドの飯が100回食べれますね」
しまった!
「そんなに食えないぞ。20回だ」
「アスカは食いしん坊だなぁ」
「いや違……」
「記憶を取り戻す前に算術の勉強をしないとな」
「うぐっ……」
二人共、大声で笑い出した。スキルは恐ろしい。そして恥ずかしい……。
それはともかく、彼らと出逢わなければ間違いなくゲームオーバーだった。これで無事にギャリバングへ行ける。
なんだかんだで助かった。
〜〜〜
日が沈み始めた頃、ギャリバングに着いた。近くで見ると以外と広い。と言っても、街を囲むように石を積み上げた外壁で、街の中はほとんど見えない。
「凄い!……城ですか?」
「ふふ。違うよ。ここはまだ城じゃないよ」
「石の壁に囲まれてますよ!」
「外敵が攻めてこないようにね。主にモンスター対策だよ」
門の前と、上の見張り台には、それぞれ兵士が2人立っている。
「勇者様!ご無事でしたか!」
「うん。平気だよ」
「話は聞いてます!お通りください!」
「おい!ちょっと待て!……勇者様!そいつは手錠をしてないみたいですが?」
俺の事みたいだ。
「彼はさっき知り合ったんだ。盗賊じゃないよ」
「そうですか……念の為、身分証か認識票を見せてもらえますか?」
え?身分証?認識票?そんな物は持っていない。それが無いと入れないのか?免許証もポイントカードも無い。マズイな……。
「持ってません」
門番が眉を顰めた。
「……変わった格好だな。冒険者か?」
旅をしてるから冒険者かな?違うだろうな。
「違うと思います」
「怪しいな……」
門番の兵士が剣の柄に手を添えた。
「待て待て!こいつは俺達の知り合いだって言っただろ」
「身分は僕が保証するよ」
「勇者様がそこまで言うなら……なぁ」
「そうだな。お通り下さい。おい!異常なしだ!門を開けてくれ!」
「了解!」
ふぅ〜。アーヴァインとジャックのお陰で、何事も無く入れそうで良かった。見張り台の門番が内側に合図を送ると、固く閉ざされていた門が口を開き始めた。
「お〜!!」
門の奥には、中世ヨーロッパのような街並みが広がっていた。まるで映画のセットだ。
大通りには皮の鎧を纏った戦士や、弓矢を背負った狩人。とんがり帽子を目深に被り、ホウキにまたがる魔女等が行き交い、酒場の店先では酒に酔った男達が怒号を浴びせ殴り合う。そんな映画のオープニングのイメージに良く合う街だ。
しかし実際には人の姿は無く、ガランとしており本当に映画のセットみたいだ。
「ようこそ!ギャリバングへ!」
笑顔のアーヴァイン。しかし、ギザールと同じセリフに、奴隷の記憶がフラッシュバックする。
「うっ……」
笑顔が引きつる。戻って来てしまった……恐怖か、あるいは絶望を感じているのだろう。二度と捕まるものか。あの時の痛み、屈辱、恐怖、絶望……。忘れない!許さない!必ずあの三人に……。
「そんなに緊張することはないさ」
「はっ!」
アーヴァインに肩を叩かれ我に帰った。
「ひどい顔だな。田舎者丸出しだぞ」
「そ、そうですね。こんな大きな街は初めてで。はは……」
「さあ行こう」
門を通過して街に入ると、右の壁に沿うように馬車が5台止まっていた。その先頭にシャロンが立っている。
「乗って下さい」
シャロンの一言で、盗賊達は自分がどの馬車に乗るのか知っていたかのように素早く無言で乗り込んだ。
「行くぞ、俺達はあっちだ」
門の左には一際豪華な馬車が止まっている。
「俺もですか?」
「勿論だよ。今回の立役者だからね」
アーヴァインに背中を押されて馬車に乗り込んだ。
「報酬は期待して良いと思うぞ」
ジャックバッシュの目がGになってる。ギャリーの頭文字だな。などと考えていると、馬車が静かに動き始めた。




