守るって決めたんだから
シャロンは、流れるような美しい動きで、盗賊達とすれ違い様に剣の腹で顔面を叩いている。倒れた盗賊の顔は、真一文字に赤くなっている。峰打ちならぬ腹打ちだ。
ゼルバリウスは、飛んで来る矢を掴んでは投げ、掴んでは投げて射手の左肩を寸分違わず射抜いている。弓部隊を一人ずつ確実に戦闘不能にしている。ペーパーナイフの使い道は?
ジャックバッシュは、空高く跳躍して魔法部隊の前に降り立った。直後、キロファイアが集中砲火された。10発を越えるキロファイアの威力は絶大で、爆炎と砂塵がジャックバッシュを飲み込んだ。しかし次の瞬間、爆炎の中から突風が吹き荒れ、一瞬で爆炎と砂塵を拭き飛ばした。現れたジャックバッシュは無傷。その体には風の幕が吹き荒れている。おそらく魔法だ。これに慌てたのは魔法部隊だ。杖を突き出し詠唱を始めたが既に手遅れ。風を纏ったジャックバッシュが飛ぶように駆け回り、魔法使いの首筋に手刀を放ち、立ち所に意識を刈り取って行く。
そんな中、アーヴァインは俺に向かって槍を伸ばした。
視線を戻すと、怒鳴り声を上げるドルフィーノの剣も俺に向かって降りて来ている。
「死ねぇぇぇ!!」
「うわっぁぁぁぁ!」
悲鳴と共に目をつぶった。
痛みが襲って……来ない?
恐る恐る目を開けると、アーヴァインの槍が、ドルフィーノの剣を受け止めていた。
「おのれ勇者!邪魔をするな!!」
「邪魔はするよ。守るって決めたんだから」
素敵……。俺が女だったら今ので落ちてるぞ。
「ならばそのくだらん邪魔をし続けてみろ!!」
ドルフィーノが剣を横に薙いだ。
「はっ!」
今度は首の手前で槍と剣がぶつかった。
「くくく……いつまで持つかな?」
ドルフィーノは、アーヴァインとは戦おうとはせずに、俺に向けて剣を振って来る。卑怯な野郎だ。
「はっ!」
胸の前で槍が剣を止めた。
「これはどうだ?」
そう言うとドルフィーノが消えた。
「させないっ!」
直後、アーヴァインの声が聞こえたかと思うと、背後で金属音が鳴り、股間の直ぐ下に剣の切っ先きが見えた。ドルフィーノが後ろに回り込み下から斬り上げたみたいだ。
「くくく……ギリギリじゃないか。どんどん行くぞ!」
そこから目にも止まらぬ攻防が始まった。
俺を中心に二人が武器を交える。
目の前に剣が迫って来たかと思うと、金属音と共に槍が受け止める。左脇腹に風圧を感じたかと思うと、蹴りを足でいなしている。耳元で弾ける音が聞こえたかと思うと、拳を手の平で掴んでいる。
ドルフィーノはフェイントを織り交ぜつつ、アーヴァインと対角になる位置に移動して俺を攻撃して来る。
俺はただただ立ちすくむだけだ。
「正義の味方は大変だな!守りながらじゃあ力の半分も出せやしない!」
「そのための力だ!」
このままでは、俺が邪魔でアーヴァインが本領発揮できない。
「俺のせいで……ごめんなさい!」
意を決して、その場から逃げるように走り出した。
「どこへ行く!」
背後から斬りかかってきた。それをアーヴァインが弾く。それでもドルフィーノは、俺と並走して斬りかかる。またしてもそれを弾くアーヴァイン。
「ほらほらほら!こっちだ!」
走る俺を軸にして、周囲を回りながら無尽蔵に斬りかかるドルフィーノ。
対するアーヴァインは、俺の反対側から防いでくれる。
走っていては余計に戦い辛いだろう。逃げる作戦は失敗だ。俺は立ち止まった。
それでも二人は足を止めない。至る所から金属音が聞こえ、火花が散る。生きた心地がしない。
俺はどうすれば良い?使えるスキルは投石だけだ……。
そうか!2対1になれば良いじゃないか!ゆっくりと石を拾った。その手にドルフィーノが斬りかかるが、アーヴァインが弾いてくれる。
俺も力になる。目の前に現れたドルフィーノに向けて石を投げた。
「投石!」
「うっ!」
ヒットした!……アーヴァインに……。
石を投げた直後、ドルフィーノとアーヴァインの位置が入れ替わってしまった。
「くくく……足手纏いだな」
「たいした事じゃないよ。ドルフィーノこそ動きが悪いんじゃないかい?」
左目をつぶっている。瞼からは血が流れ始めた。
「減らず口を……そろそろ終わりにしよう!スラッシュ!!」
ドルフィーノの剣筋が見えない。スキルを使ったのか!
「くっ!」
金属音が響き渡る。受け止めてくれたみたいだ。
「あ……」
槍が折れた!防ぎきれず剣が向かって来る。
「うわっ!」
もうダメだと思った瞬間、アーヴァインに襟首を掴まれ後ろに引かれた。剣の切っ先が、目と鼻の先を通過して行く。前髪が少し切れた。切れた髪が目に入る。咄嗟に目を閉じた。そしてすぐに開けたが、その一瞬でドルフィーノの姿が消えた。
「そう来ると思っていたさ!」
背後からドルフィーノの声が聞こえた。既にドルフィーノは俺とアーヴァインの背後に回っていた。
「しまった!」
そう言ってアーヴァインが振り向いた。しかし片目が見えていない。ドルフィーノはその死角から剣を振り降ろす。
「もらった!スラッシュ!!」
アーヴァインが気付いた時には、既に剣が俺の額に当たろうとしていた。折れた槍を伸ばすが届きそうもない。
これはもうダメだ……。




