アーヴァインとジャックバッシュ
「隊列を組め!前衛部隊は城壁の陣!弓部隊、魔法部隊、攻撃用意!」
ドルフィーノの号令を受け、素早く陣形を整えた。前衛は盾を、弓部隊は弓を、魔法部隊は杖を構えた。良く訓練されている。
「弓部隊はガキを狙え!シャロンとゼルバリウスは魔法部隊!死に損ないの二人は後回しだ!」
ドルフィーノが剣を抜いた。それに合わせて盗賊達も剣を抜く。しかしそこに、折れた剣が回転しながら飛んで行った。早い!
「なっ!!!」
たまらずドルフィーノが上体を反らして避けた。
「死に損ないとは誰の事だ?」
剣を投げたのは眼帯のエールだ。
「……くくく。馬鹿が!武器を自ら手放したな。どうやら早く死にたいらしい。良いだろう。死に損ないからとどめを刺してやる!やれ!!」
ドルフィーノが指示を出した男が、ブツブツと何かを呟いてエールに杖を向けた。
「キロファイア!」
そう叫ぶと魔法陣が現れて、杖の先から火の球が飛び出した。
「魔法だ!」
火の球は真っ直ぐエールへ向かって行く。あれが直撃したら火傷どころじゃ済まない。それなのに避けようともしない。もしかしたらダメージを受け過ぎて動けないのかもしれない。助けたいがしかし、この距離だとスピードスターでも間に合わない。
直撃する!
「よいしょっ!」
殴った!?エールが火の球を殴り飛ばした。
「なんだとっ!?素手で魔法を撃ち落とすとは!貴様何者だ!」
その時、エールの眼帯がハラリと落ちた。
「おっといけねぇ」
エールが慌てて左目を押さえる。
「もういいんじゃない?」
そう言ってギャリーがエールの肩に手を置いた。
「それもそうだな」
エールが左目から手を離して目を開けた。見えてるみたいだ。どう言う事だ?そして、乱れた長髪を後ろで束ねた。それを見たドルフィーノが青ざめる。
「そ、その顔は!」
どの顔?またお知り合い?それよりも、見えるのにどうして眼帯を?
「何故ジャックバッシュがここにいる!……ま、まさか!隣にいる貴様は!?」
ジャックバッシュって誰?エールじゃないのか?
「そのまさかだよ」
ギャリーは口角を上げた。笑っているようだが、目元は革の帽子で見えないから分からない。ただ、今のやり取り何だか格好良い。ヒーローの登場シーンみたいだ。
誰もが固唾を飲んで見守っている。まるで主人公。そのギャリーが、おもむろに皮の帽子を取り、隠れていた目元が露わになった。イケメンだ!ギャリーも執事なのか?
「き、貴様は!勇者アーヴァイン!!」
勇……。
「えぇぇぇぇぇぇ!!」
大声を出したのは俺だけかよ!いや、みんな驚いて声も出ないみたいだ。
「アーヴァインとジャックバッシュ!貴様らは、人質交換の場所に向かっただろ!この目で見た!」
分かりやすく動揺するドルフィーノ。
「あれは僕達の格好をした騎士の人だよ。勿論シャロン隊長の装備も渡してある」
ギャリー改め勇者アーヴァインは、キラリと白い歯を見せた。勇者スマイルだ。
「なっ!ふざけやがって!」
ドルフィーノの眉間に血管が浮き上がった。それを見て鼻で笑う、エール改めジャックバッシュが口を開いた。
「どうしてって顔してるな?まだ分からないのか?一芝居打ったんだ。それにしても、眼帯と髪の毛が邪魔で戦い辛かったぜ。おまけに変装の為にと、使えもしない剣を持たされたんだ」
芝居……。あの格好は変装で、瀕死に見えていたのも芝居だったのか……。俺が石を投げて気を引き、チャームフォグで魅了して必死にオークを盗賊の元へ向かわせようとしていたのは、本当に邪魔をしていただけだったみたいだ。これまでの過程を知らないから仕方ないが、ストーリーの中核を知らないってことで俺の脇役が確定した。いや、まだ確定していない!もしかしたらこの流れは、勇者一行に勧誘されるかもしれない!
無理かも……生身の俺は弱過ぎる。何か方法が……。
「さあ、どうする?」
勇者アーヴァインは、地面から槍を抜きビュンビュンと回転させた。
「次のセリフは決まってるだろ?」
ジャックバッシュが白い歯を見せて指をポキポキと鳴らしている。
さっきまで息絶え絶えだったはずの二人は、10時間睡眠を取ったかのようなスッキリとした表情をしている。なんならジャックバッシュは、食後の運動でもするかのように腕をブンブン回してヤル気満々だ。
「「「騙したな!」」」
ドルフィーノのセリフに、アーヴァインとジャックバッシュが被った。
「ほらな、言ったとおりだ」
ジャックバッシュが首を窄めた。
「だね」
アーヴァインが笑顔で返す。
なんだよ、この人達格好良い。まるで主人公だ。いや、勇者だから主人公か……。
ドルフィーノのセリフを、あらかじめ予想していたんだろう。そのやり取りのシーンを知らないけど。
「君も何か言ってやりなよ」
君って……俺?それじゃあ、お言葉に甘えて。
「騙される方が悪いんじゃなかったか?」
「ひゅ〜。言うねぇ」
ジャックバッシュが口笛を吹いた。
「ぐぬぬぬ……クソガキが舐めやがって!」
ドルフィーノの顔が怒りで歪んだ。
俺の肩にアーヴァインが触れる。
「アジトまで案内してくれるかい?」
爽やかだ。笑顔が眩しい。
「勿論です!」
元気良く答えてしまった。これが勇者のオーラなのか。ウイルスとの違いなのか……。
「行かせるものか!何としてもクソガキを殺す!放てぇぇぇ!!!」
ドルフィーノの合図で、弓部隊と魔法部隊が攻撃を開始した。視界を埋め尽くす、矢と魔法の一斉射撃だ。あれはヤバイ!
「うわぁぁぁ!」
「甘いよ!」
アーヴァインが、槍をビュンビュンと回転させて矢とキロファイアを弾くと、ジャックバッシュも拳と蹴りで次々と落としていく。シャロンが剣を振ると全てが凍り落ち、ゼルバリウスに至っては、素手で矢を掴んでいる。
勇者だけではなく、ジャックバッシュ、シャロン、ゼルバリウス、全員強い。俺とは全くレベルが違う。
「これなら……」
助かりそうだ。おっと!口にしてはダメだ。フラグが立ってしまう。と思った瞬間、ドルフィーノが目の前に現れた。
「死ねぇぇぇ!!」
俺に剣を振り下ろした。どうやら知らないうちにフラグを立ててしまっていたようだ。




