シャロンにゼルバリウスまで
「僕達が隙を作る。君は何としても逃げるんだ」
ギャリーは良い奴だ。しかし逃げ場なんて無い。
「俺が合図したら走れ!必ず道を作る!」
エールも良い奴だった。だがそんなにボロボロの武器で何が出来る?満身創痍だ。この状況は既に詰んでいる。
自然と笑顔になってしまう。
対するドルフィーノは、つまらないと言った表情に変わった。
「何を笑ってる?死ぬのがそんなに嬉しいか?それは困るな。死にたい奴を殺すのはつまらん。……が、安心しろ。ちゃんと苦しむように殺してやる。くく……貴様にはアジトの場所を知られてしまったからな」
笑いたくて笑ってるんじゃない。
「何っ!?アジトの場所を知ってるのか!!」
エールが、悪魔でも見たかのような目で俺を見てくる。長髪の隙間から見える目が怖い。
「た、たまたま通りかかったんです」
頭を下げるしかない。それで状況が変わらないのは分かっている。こうなったら、心苦しいが一度この場を離れて変身して戻ってくるしかない。
「皆さんを巻き込んでしまってごめ……」
「でかした!!」
エールがサムズアップをしている。
「え?でかした?」
どう言う事だ?困惑する中ギャリーを見ると、同じくサムズアップをしている。
「聞こえたか?シャロン隊長!」
え?隊長?ギャリーは誰に何を言ってるんだ?御者が隊長?いや違う。頭を押さえてガタガタと震えている。他には誰もいないはず。
「シャロン隊長だと?ここにいるはずがない!」
ドルフィーノが口角を上げて吐き捨てた。そして続けた。
「その名を出せば、俺達が怖気付くとでも思ったのか?ハッタリは……」
その時女性の声が聞こえた。
「残念です……」
その声を聞き、盗賊団がザワリと動揺する。そして静まり返った。
「こ、この声は!?」
口を開いたのはドルフィーノ。あからさまに動揺している。
「……全て聞こえました」
甘美な女性の声だ。声の後に、荷台の奥にある布が勢い良くめくれ上がり、中から1人の騎士が飛び出して来た。
長いブロンズヘアーが太陽の光を浴びてスパンコールのように輝いている。パラオのロングビーチのように澄んだ青い瞳。真夏の雲のように眩しい白い肌。夏が良く似合いそうだ。整った美しい顔立ちは、怒りを忍ばせより美しく見える。超美人だ。流石ゲームの世界。世界中の美女のデータの結晶だ。オークが荷台に乗り込もうとした原因は彼女だな。間違いない。
「クオリティー!」
アホみたいな声を出してしまった。しかしそれには誰も反応しなかった。シリアスなシーンにつき、俺の声は誰にも届いてないみたいだ。……僥倖。
超美人は盗賊の頭を睨んだ。
「ドルノ副隊長……いえ、盗賊ドルフィーノ!貴方が盗賊団の頭だったのですね?」
え?今なんて?ドルノ副隊長?盗賊ドルフィーノじゃないのか?何が起きてるんだ?状況がさっぱり分からない。
「シャ、シャロン隊長!何故ここに!?」
ドルフィーノが慌てて聞き返す。
「アリス様はご無事ですか?」
それには答えず、シャロン隊長と呼ばれた美人騎士が聞き返した。それよりも、アリス様?誰の事だ?俺の知らないストーリーがどんどん進んでる気がする。
「た、只今捜索中です!」
ドルフィーノが青ざめた顔で答えた。
「捜索中?この状況で、まだしらを切るつもりですか?」
「何をおっしゃっているのですか!我々はアリス様の身を案じて……」
「我々?時に、1番隊の皆さんは、どうしてそのような格好を?」
「こ、これは……騎士の格好のままでは盗賊に警戒されると思ったため、皆で冒険者を装う事にしたのです」
盗賊が1番隊?どういう事?
「この期に及んで良くもまぁぬけぬけと……もう一度聞きます。アリス様はご無事ですか?」
「シャロン隊長!隊長は人質交換の場所に向かわれたはず!何故ここに居るのですか?」
ドルフィーノは何を言ってるんだ?人質交換?俺の知らない所でイベントまで発生しているのか?
「質問をしているのはこちらです。ドルフィーノもう逃げ場はありませんよ」
「ドルフィーノなんてとんでもない!そのような名で私を呼ばないでください。勘違いです!そうだ!そこにいる男は盗賊の一味です!今直ぐ始末してください!!」
「えっ!?」
俺に罪をなすりつけるつもりか。ドルフィーノの野郎!とことん汚い奴だ!
「先程、貴方が自ら名乗ったではありませんか。もう言い逃れは出来ません」
「……ちっ!……あ〜あ……ゴチャゴチャうるせぇ!俺を嵌めやがったな!!」
とうとうキレた。口調が戻ったな。
それよりも、嵌めたとはどう言う事だ?俺が知ってるドルフィーノは盗賊団の頭だ。さっき知ったばかりだが。
でも、彼女が知っているのは副隊長ドルノで、今は盗賊団の頭ドルフィーノ。やはり、俺の知らない所でストーリーが進んでいたのは間違いない。だとしたら俺は主人公じゃない?物語の途中で現れた脇役?そんなはずは……。
「話になりませんね」
シャロンが剣に手を掛けた。
「ま、待て!俺達に手を出したら人質の命は無いと思え!」
「つまり、アリス様はまだ生きているのですね」
剣を抜いた。
「待てと言ってるのが聞こえないのか!!」
「これ以上の問答は皆無」
「俺を殺せば人質は返ってこないぞ!例え拷問を受けてもアジトの場所は吐かない!こいつらも同じだ!訓練を受けているのは知ってるだろ!万が一にも喋りはしない!そうなれば、お姫様の命は無いだろうな!」
姫様???
「つまり、盗賊団のアジトにいらっしゃるのですね」
「黙れ!!……くくく……いや、そうだ。人質は無事だ。今のところはな。だが、俺達はアジトがどこにあるのか死んでも喋らん!そこで取引だ……くく……見逃してくれ。見逃してくれたら人質は解放する。頼む!約束は必ず守る!」
ドルフィーノが下卑た笑みを浮かべる。約束は守らないだろう。
ため息を吐いてシャロンが俺を見た。
「アジトの場所を知っているのでしょ?」
言われてみればそうだった。
「あ!はい知っています!」
「クソガキこの野郎!!」
「であれば、貴方との取り引きは皆無」
「くそっ!……こうなったら殺ってやる!!野郎ども!あのクソガキを狙え!」
やっぱそうなるよな!
ドルフィーノの後ろに居る5人が弓を構えた。
「死人に口無し!矢を放てぇぇっ!!」
「やばっ!」
5本の矢が風切り音を立てて俺に向かって来る。どうすれば良い?恐怖で頭が回らない。このままだと死ぬ!
「させません!アイシクルダンス」
シャロンが目にも止まらぬ速さで剣を振ると、全ての矢が真っ二つに斬れ、その斬り口は凍り地面に落ちた。助かった……。
「くそっ!それならシャロンからだ!」
「貴方に私が倒せますか?」
「はっ!ここは訓練場じゃない。1対1だと思うなよ!例え貴様でも、この人数相手にクソガキを守りながら戦う事など出来まい!」
「でしたらその役、私奴が務めさせていただきます」
声が真後ろから聞こえた!今度は誰だ?振り向くと声の主と目が合った。いつの間に……。
「貴方様は私奴がお守りいたします」
御者?さっきまでガタガタ震えていた御者が、背筋を伸ばし凛とした表情で俺の後ろに立っている。
「ほざけ!御者風情など恐るるに足りん!」
ドルフィーノの言う通りだ。
「御者……さん?」
つい声が出てしまった。守ってくれるのはありがたいが、年老いた白髪の御者は戦えないでしょ?
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。私奴、執事長のゼルバリウスと申します。お気軽にゼルとお呼びくださいませ」
右手を胸に、左手は腰に添えて、流れるようにお辞儀をした。紳士だ。
「は……はい」
言葉や態度は丁寧だが目の奥は笑っていない。執事長とは執事の長で偉いんだろうけど……そもそも戦う事はできるのか?
「貴様が執事長のゼルバリウスだと?はっ!笑わせるな!顔が全く違うじゃないか!奴には髭が……」
ゼルバリウスが乱れた髪を整え、鼻と口の間に人差し指を置いた。
「なっ!ゼルバリウスなのか!?命の次に大切だと自慢していた髭はどうした!?」
「命よりも大切なアリス様の為に切り落としました」
「ば、馬鹿な……シャロンにゼルバリウスまで」
ドルフィーノがたじろいでいる。ゼルバリウスは強いのかもしれない。
「くそっ!二手に分かれるぞ!最優先はクソガキだ!」
ドルフィーノ盗賊団が戦闘態勢に入った。
「私の側から離れないでください」
「は、はい!」
「ゼルいけますか?」
シャロンが声をかける。
「1番隊相手となると少々手厳しいですな……しかしやるしかございません」
執事長のゼルバリウスが懐からペーパーナイフを取り出し逆手に構えた。
「くくく……そんなおもちゃで俺達の相手が出来るかな?」
俺もそう思う……。




