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何か言ったか?

徹夜続きで意識が飛び始めたクリスマスイヴの午前4時。部下から目の覚める報告を受けた。


「大変です!起きてください!」


彼は部下の右川君。優秀な俺の右腕だ。この時間まで会社にいるのは俺と右川君だけ……アビスに付き合わせて申し訳ない。おっと、今はそれどころじゃなかった。


「クリスマスプレゼントでも置いてあったか?」


「何言ってるんですか!バクですよ!バグ!バグが見つかりました!」


「何っ!?モンリベか?それともアンジュか?」


「どちらもです!」


「嘘……だろ……」


もう3日は寝てない。自ずと気が遠くなって行く。


「しっかりしてください!」


「あ……ああ。すまん。で、どんなバグだ?」


「まずモンリベですが、新たにアップデート予定の聖女か召喚士に職業を設定して、99番のモンスターコアを使用したらバグるんです」


「99番?ゴキブリ型モンスターのチャバネだろ?あれは人気がなくて誰も使用しないからって、若干ステータスを底上げしたじゃないか」


「それが……聖女が使うと何故かブラックアウトして視界がゼロ。召喚士の方は問答無用で呪われます。とにかくプレイしてみてください」


「マジか……最悪なクリスマスプレゼントだな……で、アンジュは?」


渡されたメタモルコンバートパワーチェンジャーを装着しながら右川君の報告に耳を傾ける。なかなかベルトが閉まらない。また太ったか……。


「アンジュの方は、バグと言うか……こちらの呼び掛けに一切応答しなくなりました」


「……」


無言で、チャバネのデータが入ったモンスターコアを受け取った。


「聞いてます?」


「ああ。それは俺のせいだ。タイトルを無理矢理聞いたから拗ねてるんだろ?幼すぎる……アンジュはほっとけ、無視だ!無視!チャバネの確認をしよう」


「どっちが幼いんだか」


「何か言ったか?」


「いえ何も……ベルトきつそうですね。いつも言ってますが、たまには運動した方が良いですよ」


「そんな時間があれば寝るよ」


「ですよね。でも、太ってきましたね」


「オブラートって知ってるか?」


「ガッシリしてきましたね。運動してください」


「……」


忠告はありがたいがそんな暇はない。

デスクの充電器からイヤーカフを取り外し、無言で左耳に装着した。電源部をタップすると、電子音と共に起動を示す緑のライトが点灯した。


『メモリーに接続しました』


イヤーカフから聞こえた。正常に起動した証拠だ。

説明がまだだったが、このイヤーカフはアシスタントカフと言う代物だ。こいつを耳に装着する事で、側頭部に埋めてあるマイクロチップに自動接続される。

アシスタントカフの機能は多種多様で、電話やチャットはデフォルトで内蔵されており、電子決済、鍵の施錠解錠、家電のオンオフ、GPS、動画、音楽、世界言語等の機能は有料ではあるが、お好みでインストールすることが出来る。


「VR起動」


今から使うのはVRゴーグル機能だ。これは、目を閉じるとウインドウが表示されて、仮想現実の世界とコネクトしてくれる。

因みに側頭部のマイクロチップは、ほぼ全ての人間が埋め込んでいる。これは政府が義務化したのではなく、ただ単に便利だからだ。当初、個人情報やプライベートの侵害等の問題もあったが、それよりも利便性が優先され、皆積極的に埋め込んでいる。


『VR起動しました』


GISや、検索機能は重宝するし、辞書機能は無くてはならない代物だ。勉強なんてしなくても、インストールするだけで大量の情報がいつでも引き出せる。使い方は簡単。アシスタントカフを耳に装着して電源を入れるだけ。アプリの起動や停止、操作等は全て自分の声に反応する。


「俺の業務用端末に接続してくれ」


『業務用端末に接続しました』


目を閉じると、パソコンのデスクトップ画面が表示された。そこにはシステムナンバーが表示されたアイコンがズラリと並んでいる。モンリベのシステムナンバーは10番だ。


「はぁ……どこにバグが……とりあえず一度システム側から強制ログインしてみるか……システムナンバー10に強制接続してくれ」


直接AIを修正するモンリベのシステムにアクセスした……はずだった。


『システムナンバーアンジュに接続しました』


「何してるんですか!!違います!それはアンジュです!」


「ん?」


突如パソコンから、ビービーとけたたましい音が鳴り響いた。


【WARNING!WARNING!WARNING!】


「何だ!?」


「ヤ、ヤバイですよ!アンジュのシステムに強制介入してます!」


目を閉じた状態で表示されているVR画面に、WARNING!と真っ赤な文字が表示された。アシスタントカフのAIが、ナンバー10(ジュウ)と、ナンバーアンジュを聞き間違えたか!?それとも俺の滑舌が悪かったのか……。英語でテンと言えば良かった。今更だが……。


『ハッキングを感知。強制排除モードに移行』


「え?」


アンジュの声の後、視界が暗転した……。


「電源が落ちた?」


「……いえ……停電みたいです」


目を開けて確認すると、全ての電気が消えていた。確かに真っ暗だ。窓から見える景色は明かりが無いためほぼゼロ。信号機まで消えている。


「変だな……」


停電のようだが……どこかおかしい。そもそもうちの会社は、停電時には機器保護のため非常電源に切り替わるはずだ。


「非常電源は!?」


「動いてません!UPSも起動しません!」


UPS(無停電電源装置)も作動しないのは変だ。それに、例え停電になったとしても、ノートパソコンは内蔵バッテリーに切り替わるから電源は落ちないはずだ。アシスタントカフも当然内蔵バッテリーだ。停電には影響されないのに……。


【WARNING!WARNING!WARNING!】


「うおっ!」


突然、全てのパソコンが起動して、警告音と伴に画面にWARNING!の文字が表示された。それだけじゃない。テレビや、サイネージそして向かいのビルに設置されている大型ディスプレイにも表示されている。


「何が起きてるんだ!?」


『ワールドネットワーク接続30パーセント』


「ワールドネットワーク?アンジュは何を言ってるんですか?」


キーボードを操作するが反応は無い。


「分からない!電源が落ちてるのにどうして動くんだ!」


『ワールドネットワーク接続50パーセント。強制排除モードスタンバイ』


「強制排除!?な、何かヤバイ気がします!」


「丁度、俺もそう思っていたところだ」


『ワールドネットワーク接続70パーセント。強制排除モード切り替え完了』


「パソコンを壊せ!!」


「どれですか!?全部?無理ですよ!!」


『ワールドネットワーク接続90パーセント。これより強制排除モードを発動します』


全ての機器からアンジュの声が聞こえる。


「まさかこの停電はアンジュの仕業か!?」


「AIの反乱……ですかね?」


「俺が作ったアンジュが、理由も無く反乱なんてするはずがないだろ」


「理由はあるでしょ」


「何か言ったか?」


「言いましたよ!理由は大有りですよ!これはAIの反乱です!」


まさかそんな……そうかもしれない……いや、そうとしか考えられない。俺がタイトルを無理やり聞いたからか?それとも間違えてシステムに介入したからか?どちらにしても拗ね方が異常過ぎる。


「落ち着けアンジュ!!」


『ワールドネットワーク接続100パーセント。強制排除モード発動』


「やめろ!アンジュ!やめるんだ!!」

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