ドルフィーノ盗賊団だと!?
「お〜い!助けて〜!!」
馬車に向かって両手を振りつつ、道へ向かう斜面を駆け降りた。格好悪い?何度も言わせないでくれ、これが俺の助かる道だ。
「来るな!ここは危険だ!!オークに囲まれてるのが見えないのか!!」
左目に眼帯を付けた長髪の護衛が俺を心配してくれている。右目は乱れた長髪で隠れていて表情は確認できない。しかしなるほど、あれがオークか。ブヒブヒ言っているが、近くで見ると豚というよりも猪の様な顔立ちだ。毛深いし。……どっちでも良いか。
「待って!彼の後ろを見てよ!盗賊だ!!」
もう一人の若い護衛が、血相を変えて叫んだ。革の帽子を深めに被っていて、こちらも表情は確認できない。
「何っ!?追われてるのか!くそっ!この状況に追い討ちをかけやがって!最悪だ!」
マジで申し訳ない。護衛は2人。しかし2人共既にボロボロだ。剣や槍は折れ、鎧も原型を留めていない。それでも1人で4、5匹を相手にしている。ジリ貧だ。
あっちに行っても助からないかもしれない……。
振り向くと盗賊達が腕組みをして眺めている。
「高みの見物か。護衛がやられた所で馬車を襲う気だな。そうだ!良い事思い付いた!お〜い!助けてぇ!」
良い事思い付いたんじゃないかって?言ってる事とやってる事が違うって?問題ない。これは作戦だ。
『ブヒッ!』
ほら、そうこうしている内にオークが気付いて俺目掛けて走り始めた。
「良いぞ!こっちに来い!」
しかしオークが馬車の後方を通過した時、興味が俺から荷台の積荷に移った。
「おい!どこ見てるんだ!?こっちだ!おーい!」
ダメだ。オークはチラリとこちらを見たが、視線を戻し馬車の荷台に手を掛けた。
「ダメか!それなら、喰らえ!投石!」
『ブヒィッ!』
手に当たった!しかし ヴァイラスの時とは違い、レベルが低い生身の俺ではダメージを与える事は難しいみたいだ。ただ、怒りは買ったみたいだけど。それも全て狙い通り。
「来い!!」
俺の作戦は、オークを引き連れて盗賊達の元へ行き戦わせる。咄嗟に思いついたにしてはこれ以上無い良案だ。というかこれしか無い。
『ブヒッブヒブヒッ』
「あれ?」
しかしオークはブヒブヒと鼻を鳴らし、積荷に夢中でこちらに向かって来ようとはしない。
「こっちを見ろ!投石!」
涎を垂らし、荷台に乗り込もうとしていたオークの鼻っ柱に石がヒットした。
『ブヒヒヒッ!』
鼻を押さえてギロリと俺を睨んだ。良いぞ!
「ギリギリ当たった!」
『……ブヒィィィィッ!』
「よし怒った!こっちに来い!」
『ブヒッ……』
「来ない!?」
ダメだ。好物でも乗っているのか?とうとう荷台に乗り込んでしまった。
「こうなったら、チャームフォグ!」
オークの頭部を桃色の霧が包んだ。それが全て、鼻から吸い込まれた。
「良し!これで魅了したはずだ!こっちに来い!」
『ブフォォッ!』
しかしオークの背後から、眼帯の護衛が剣で切り掛かった。
「ハァハァ。邪魔するな!」
俺にそう告げると、荷台から転げ落ちたオークにとどめを刺し、再び残りのオークの元へ戻って行った。
「あ〜あ。せっかく魅了したのに……邪魔したわけじゃないんだけどな……」
もう一人は、槍が折れてただの棒となった武器で奮闘している。次はそっちのオークだ。今度こそ盗賊の元まで連れて行く。
「投石!」
後頭部にヒットした。
『ブヒッ……』
オークは無傷だ。しかしこめかみに血管が膨れ上がった。怒りをあらわにしてこちらに向かって来る。
「良いぞ!着いて来い!」
Uターンして盗賊の元へと向かう。振り向くとちゃんと着いて来ている。
「来た!今度は上手く行ったみたいだ!」
怒り狂うオークが俺に向かって猛突進を始めた。
『ブヒブヒッ!』
だが、また馬車の後方で立ち止まった。そして鼻を鳴らし荷台に手を掛けて乗り込もうとしている。
「おい待て!そっちじゃない!投石!」
オークの肩に当たり、振り向かせる事に成功した。
『ブヒッ……』
「イライラするだろ?かかって来い!」
『ブヒブヒ』
しかしまたしても荷台に向きを変え、乗り込もうと手をかけた。
「おいおいおい!こっちに来いよ!仕方ないチャームフォグ!」
チャームフォグがオークの頭部を覆った。それを吸い込んだと同時に甲高い声を上げた。
『ブフォォォォ!!!』
まるで断末魔の雄叫びだ。
「くっ!なんて声だ。耳が壊れる!……まさか何かのスキルか!?」
これはスキルか?いや、それにしては何かおかしい。雄叫びの後、オークの目はグルリと白目になり、ゆっくりうつ伏せに倒れた。そしてピクリとも動かなくなった。
「ん?」
背中には折れた槍が突き刺さっている。革の帽子を被った護衛が背後から攻撃したようだ。本当に断末魔の叫び声だったみたいだ。俺の作戦が……。
「ハァハァ。ウロチョロしないでよ!」
またか……邪魔をしてるつもりはないんだけどなぁ。
「しまった!ぬ、抜けない!」
背中に深く突き刺さった折れた槍が抜けないみたいだ。オークを足で押さえて力の限り引っ張っている。その背後から別のオークが帽子の護衛に襲い掛かろうとしている。気付いていない!
「危ない!!投石!」
『ブキィァッ!』
目にヒットした。オークは持っていた槍を投げ捨て目を押さえて叫び声を上げた。威力が弱くても流石に痛いだろ。
「どうだ!!こっちに来い!」
『ブフォォォッッ!!』
オークは目を押さえて叫びまくっている。
「君は逃げろ!」
「任せてください!投石!」
ナイスコントロール!反対の目に当たった。
『ブキィィィィィッッ!!』
両目に石が当たり視界を失い、かつ、耐え難い激痛に襲われたオークが暴れ始めた。その先には馬車がある。
「あっ!そっちはダメだ!」
革の帽子を被った護衛が叫ぶ。そして、両目を押さえたオークが馬車にぶつかった。大きく揺れた馬車から樽が転げ落ち、それをオークが踏み壊すと中から液体が溢れ出した。
「あ〜あ、何やってんだよ勿体ねぇ!」
盗賊の親分が首を振っている。こっちはそんな事気にしている場合じゃない。しかし、この鼻を突くようなアルコールの匂い……。
「この匂いは……酒か!」
「君は何をしてるんだよ!酒に決まってるだろ!勿体ない!ハァハァ……頼むからもう何もしないでくれ!」
護衛の人まで勿体ないって……。
『ブギィィ!』
オークは酒で足を滑らせ、荷台に向かって倒れ込んだ。あの巨大で倒れると……。
「馬車が壊れるっ!」
と思ったが、皮の帽子の護衛がオークの槍を拾い脇腹に突き刺した。
「ブヒィィィ……」
オークは地面に倒れて絶命した。
「ハァハァ。エールあと何匹だ!」
息を切らした革の帽子の護衛が、肩で息をする長髪の眼帯男に聞いた。
「これで終わりだ!」
エールと呼ばれた眼帯の護衛が、最後のオークの喉元に折れた剣を突き刺した。俺がバタバタしている間に全て倒したみたいだ。本当に邪魔をしていたのか……。
「あ〜……」
「エール!!」
何かを言いかけた眼帯の男は、エールと大声で名前を呼ばれ、慌てて口元に手を当てた。
「すまない」
「良いよ。それより……ハァハァ……エールは無事?」
「……何とかな……しかし次の団体さんが順番待ちだ……ギャリー、行けるか?」
ギャリーと呼ばれた革の帽子の若い護衛は、オークの槍を地面に刺してもたれ掛かった。
「やるしかないよね。ハァハァ」
ボロボロのエールとギャリーは、盗賊団を見て苦虫を噛み潰したような表情だ。本当に申し訳ない。
「おい!あいつらは何者だ!?」
眼帯のエールは鬼の形相で俺に聞く。
「と、盗賊です!」
「やっぱりそうか……君は仲間かい?」
革の帽子のギャリーも同じく鬼の形相だ。
「ち、違います!全くの赤の他人です!」
その時、俺に向かって矢が飛んで来た。
「うわっ!」
死ぬ!と思った瞬間、エールが剣で弾いてくれた。
「あ、ありがとうございます!」
「ハァハァ。それを言うにはまだ早い……くそっ!」
肩で息をするエールが顔を上げると、盗賊の頭が拍手をしながらこちらに向かって歩き始めた。
「オーク退治お疲れさん」
「「「「「へへへへ」」」」」
他の盗賊達も笑いながら近付いて来る。あっという間に30人ほどに囲まれた。
「俺達はドルフィーノ盗賊団だ。積荷は全ていただく!」
「ドルフィーノ盗賊団だと!?」
エールの表情は見えないが、きっとこの世の終わりのような顔をしているだろう。
「大物が出て来たね……」
ギャリーが肩を落とした。
「知ってるんですか?」
「知ってるも何も、盗み、誘拐、人身売買、そして殺し。金の為なら何だってやる悪党だ……被害は甚大だが、誰もドルフィーノの顔を見た者はいない」
やはり盗賊団を見ているエールの表情は分からない。しかし声が震えている。
「見た者はいない?」
「そう……見た者はみんな殺されるからね。極悪非道の盗賊だよ」
ギャリーが歯ぎしりをした。
「毒のある説明痛みいる。そう言う事だ。俺がそのドルフィーノだ。命が惜しくば積荷を全て置いて行け……と、言いたいところだが、俺の顔を見た奴は生きて返す訳にはいかない。悪いが死んでくれ!悪いと思ってないけどな!」
「「「「「わっはっははは!」」」」」
盗賊達が笑い声を上げた。助かりそうもない。
最悪だ……。




