なんだよその縛り!
「ここまでくれば安心だ」
ダゾレシアはいない。周囲にはモンスターの気配も無い。そして10回の警告音の後、変身が解除された。
「一先ず、今持っている魔石とステータスを確認しておくか」
ポケットから魔石を取り出した。
ダゾレシアの魔石3個。デーモンスパイダーの魔石1個。幻属性の魔石は全部で4個か。
そしてゴブリンの魔石3個、ニーボアの魔石1個。土属性は全部で4個。土属性の魔石では変身できないが、街で売れるかもしれない。
どれもピンポン玉サイズだが、ニーボアの魔石だけはソフトボールのように大きい。
「これ以上はポケットに入らないな……」
次はステータスだ。
レベル1。スキルはスピードスター、投石、逃げる、チャームフォグの4種類。やはり変身しないとこれだけでは戦えない。
「トリックラットくらいなら……」
「うわぁぁぁ!!」
突如、男の悲鳴が聞こえた。
「な、何だ!?」
周囲を見回すが何も居ない。
「確かに声が聞こえた……あっちか?」
声のする方へと向かうと、森が途切れ道が見えてきた。
「馬車だ!襲われてる!!」
幌付きの馬車が1台。御者台には商人風の初老の男が1人。顔面蒼白だ。大声を出したのは彼だろう。そして馬車を守るように冒険者風の男が2人いる。おそらく護衛だ。荷台には木箱や樽が積まれている。盗賊達が狙っていたのはこの馬車かもしれない。
『ブヒブヒ』
それを二足歩行の豚の群れが囲んでいる。
何だあのモンスターは。デカい!2メートルはありそうだ。しかも剣や槍で武装している。ハンマーを持ってる奴までいる。ざっと見て10匹だ。
多勢に無勢。ここは俺が颯爽と現れて、豚共をサクッと倒せば、お礼を兼ねて街まで乗せて行ってくれるだろう。
よくある話だ。多少ベタすぎる気がするが、まぁ異世界物の王道だな。大抵はここから物語が進展する。主人公は大物商人や貴族を救出して大きなコネクションを得るんだ。俺もそうなるみたいだな。良いだろう。アンジュが考えた主人公のストーリーに乗ってやる!
「く、来るなぁぁぁぁ!」
白髪の御者が叫ぶ。
『ブヒィィィィィィ!』
「今助けてやる!」
胸にデーモンスパイダーの魔石を添えた。
「ヴァイ……」
「いたぞぉ!!」
変身しようとした時、背後から声が聞こえた。
「ん?えっ!」
追いつかれた!盗賊達だ。こんな時に。
「くそっ!」
デーモンスパイダーの魔石を握る手に力を込める。
盗賊達に囲まれた。
「ヴァイラ……」
「待ってくれ!逃げるな!安心しろ。取って食おうって訳じゃねぇ」
盗賊の頭だ。両手を挙げて近付いて来る。
「あ、あんたら盗賊だろ?」
「ちょっと違うな。こう見えても、俺達は悪い奴からしか奪わない。そして奪った分け前の一部を貧乏人達に配ってるのさ。要するに義賊ってやつだ。役立たずのレッテルを貼られた俺達でも、誰かの役に立ちたいのさ」
「義賊だって?結局、盗賊と同じだろ」
「いいや全然違う!悪い事は何ひとつやっていない。だから少年も仲間に入らないか?」
少年?ああ、俺の事か。
「仲間に?どうして?」
「素早く動く変わったスキルがあるだろ。盗みに最適だ。そのスキル、俺達と正義のために使ってみないか?」
「正義をかざせば何でもして良いって事じゃない!義賊も泥棒だ!仲間にはならない!」
「そうか……残念だ。交渉決裂だな。だが何度も言うが悪い事はしていない」
「そうなのか?」
「ああ……悪いと思ってねぇからなぁ!!」
突然、懐から何かを出した。あれには見覚えがある。スキルが使えなくなる手錠だ!頭は俺に向かって手錠を振り下ろした。
「スピードスター!」
ギリギリでかわした。
「ちっ!すばしっこいガキだ!」
「騙したな!」
「騙される奴が悪いんだ」
「ふざけるな!」
「何もふざけてないさ。俺達のアジトを知った奴は生かしてはおかん。悪く思うなよ。ここで死んでもらう」
死ぬもんか。ヴァイラスの力を見せてやる。頭に向けて指を差してポーズを決める。
「もう逃げも隠れもしない!本当の正義とは何なのか!ピンクに輝くヒーローの力を見せてやる!」
ポーズの溜めを作り魔石を握り締める。手のひらを広げて魔石を見せた。頭達は首を傾げている。
「その魔石がどうした?」
「直ぐに分かるさ。行くぜ!」
魔石を真上に放り投げる。キラリと光って落下を始め、目の前に来た所をキャッチした。そしてそのまま胸に魔石を添える。……決まった。
最後に変身だ。
「ヴァイラス!!!」
俺の声に応えて、デーモンスパイダーの魔石を包むように、胸のアザから糸が無数に……。
「……ん?ヴァイラス!」
糸が出てこない!
「ヴァイラス!ヴァイラス!!……あ、あれ?おかしいな……はは……」
デーモンスパイダーの魔石じゃ変身できないのか?それならダゾレシアだ。ポケットから取り出し胸に添える。
「ヴァイラス!……ヴァイラスゥゥゥ!!!」
ダメだ、変身できない。他の魔石は無いぞ!
「おい!ナレーション!これで変身出来るはずだろ?ダゾレシアの魔石じゃダメなのか?何故変身しないんだ!?」
『説明しよう!我らがヒーローヴァイラスの正体を知的生命体に知られてはならないのである。つまり我らがヒーローヴァイラスに変身する場面を、知的生命体に見られていては変身できないのである』
人に見られちゃダメなのか?顔を上げると盗賊の頭と目が合った。ニタニタと笑っている。
「ナレーション!なんだその古臭い設定は!!だいたいモンスターも知的生命体だろ!さっきはゴブリンに見られていても変身できたぞ!」
『説明しよう!ここで言う知的生命体とは、言葉を理解し、それを伝える事が可能な者である』
「だったら人間って言えよ!紛らわしい!」
『説明しよう!言葉を理解する者は人間だけではないのだ。獣人、魔人、精霊その他にも言葉を交わす事が可能な者は多数存在するのだ。それら全てを総称して知的生命体なのである。我らがヒーローヴァイラスの秘密を理解し、それを広める事ができる者の前では、決して変身する事はできないのである。ただし、システム管理者は例外なのである』
「なんだよその縛り!どんだけ不便なんだよ!別に見られてても良いだろ!」
『説明しよう!我らがヒーローヴァイラスは無敵である。例え、システムが存在を感知したとしても干渉して来る事は皆無である。しかし、マスターは別である。我らがヒーローヴァイラスの弱点と言っても過言ではないのだ。したがって、弱点である正体を知られると、システムにウイルスとして感知されてしまい、自動迎撃システムであるウイルスバスターによって消去されるのである。つまり、我らがヒーローヴァイラスと融合しているマスターは消滅するのである』
「うぉい!何だよそのぶっ飛んだ設定は!俺はウイルスじゃないぞ!しかも俺が弱点って悪口じゃないか!」
『説明しよう!ウイルスマスターは消滅するのである』
「ウイルスとマスターを繋げて言うな!意味が変わってくるぞ!俺が悪の親玉みたいじゃないか!」
どんなに危機的状況でも、相手が知的生命体だと変身できないって事じゃないか。
「そろそろ独り言にも飽きてきたな」
そう言って頭が剣を抜いた。
「くっ……」
「それで?正義のヒーローさんは、いつ本物の力を見せてくれるんだ?」
「「「わはははは!」」」
盗賊達が一斉に笑い出す。
生身のままだとやられてしまう。笑顔が引き攣る。
「何笑ってやがる!恐怖で頭がおかしくなったか?」
違う!笑いたくて笑ってるんじゃない。
こうなったら……。
「投石!」
頭に石を投げつけた。しかし難なく剣で弾かれてしまった。
「はっは〜!鬼ごっこの次は石ころ遊びか?もう良いだろヒーロー少年。そろそろ死ね!」
頭が笑いながら斬り掛かってきた。
「スピードスター!」
紙一重でかわした。
「ちょこまかと!」
相手は体勢が崩れている。今が絶好のチャンス!
「スピードスター!逃げる!」
「おい待て!逃げも隠れもしないんじゃなかったのか!」
「騙される方が悪いんだったよな!」
「馬鹿にしやがって!」
逃げる先は襲われている馬車。冒険者達が豚の群れと戦っている場所だ。その冒険者に手を振った。
「助けてぇ〜!」
啖呵を切ったヒーローが助けを求めるのは格好悪い?そんな事言ってる場合じゃないだろ。命あっての物種だ。
「助けてくれぇ〜!」
助けようとしていた相手に助けを求めるなんてどうかしてるって?しょうがないじゃないか。これしか助かる道が無いんだ。




