3回変身可能である
「ハァハァ……危ないところだった」
何とか撒いたようだ。スピードスターには助けられるな。それと、逃げるを取得していてマジで助かった。
それにしても盗賊に出会すとは運が悪かった。しかもあのタイミングで変身が解除されるなんて。生身の俺が勝てる相手じゃない。
「ナレーション。そろそろ変身できるんじゃないか?」
『説明しよう!変身可能である』
「よし!これで安心だ。いつでも来い!」
振り向いてファイティングポーズを取った。……追い掛けて来る気配が無い。誰もいない。
「そう言えば、獲物がどうとか言ってたな……」
盗賊達は何を狙ってたんだろうか?この近くに村でもあるのかな?
「探してみるか」
進路上の邪魔な蔦や木の枝をゴブリンナイフで斬ろうとするが当たらない。ここでもやはりスキルが必要みたいだ。避けて歩いた方が早いな。
しばらく歩いていると腹の虫が鳴り始めた。
「ゲームの世界でも腹は減るのか。どこかに食い物はないかな」
視線を落とすと、木の根本にカラフルなキノコを見つけた。これは絶対毒キノコ……無理だ。見上げるとドングリのような木の実が見えた。硬いだろうな……あれも無理だ。
『フゴフゴ』
「ん?」
猪型のモンスター、ニーボアだ。地面に落ちたドングリのような木の実を食べている。まだこちらには気付いてないみたいだ。
「さっきのニーボアよりも大きい。逃げた方が……」
ニーボアが後ろ足で地面を蹴り始めた。
「気付かれてた!」
『ブルルォォォ!!』
猛スピードで突進して来る。
「スピードスター!」
突進をヒラリとかわした。しかし、すれ違う瞬間ニーボアが膝を出した。膝には、鋼鉄のように硬そうな黒光りしたスパイクが付いている。これが名前の由来か?
移動速度は速くなったがダメだ、かわせない!
「ぐふあっ!」
スパイクが右足に当たり吹き飛ばされた。
強い。そして速すぎる。スピードスターを使っても追いつかれてしまう。しかも今の突進で受けた傷が深くて走るのは無理だ。
「くっ!ハァハァ……うっ!!……あ、足が折れてる」
痛すぎる。魔石を温存している場合じゃない。躊躇していたら殺られる。左手を胸に添えようとして気が付いた。
「しまった!魔石が!」
突進の衝撃でデーモンスパイダーの魔石を落としたみたいだ。
『ブルルルル』
後ろ足で地面を蹴り始めた。突進して来る!
「待て待て待て!」
慌ててポケットからグレムリンの魔石を取り出し胸に添えた。
「ハァハァ。ヴァイラス!」
胸のアザから銀糸が伸びて魔石を取り込んだ。
『説明しよう!グレムリンの魔石に秘められたスキル、【MP+2】【チャームフォグ】の中から1つ取得可能である』
【投石】の表示が無くなってる。1度取得したスキルは選択肢から消えるのか?だとしたら、今回使うとグレムリンの魔石での変身は残り1回かもしれない。
おっと、今はそれよりも変身だ。
「チャームフォグだ!」
『説明しよう!チャームフォグを取得した』
胸のアザからピンク色の帯が幾重にも飛び出し俺を包んだ。足の痛みが引いていく。骨折が瞬く間に完治した。
「I’m ready!」
ポーズを取った。しかし既に、ニーボアが目前に迫っていた。
「しまった!」
咄嗟に顔の前で腕をクロスして防御しようとした。防御……のつもりだった。しかし依然棒立ちのままだ。
「防御もできないのかよ!!」
ドアップのニーボアの顔。避けられない。
『ドォン!!』
ニーボアの体当たりを受けてしまった。衝突音の直後、胸に軽い衝撃を受け何かが砕ける音がした。
『ブフィィ……』
「お?」
牙が片方折れている。額には2つの窪みが……。
「良い夢見ろよ」
ニーボアは白目を剥きその場に崩れ落ちた。流石ヴァイラスピンク。幸せボンバーは健在だ。
「魔石はいただくぜ」
ゴブリンナイフで胸に穴を開けた。
「これは!デカいな」
土色の魔石を手に入れた。土属性だ。だがこれを持って移動するのは手間だ。変身が解除されてもポケットはもうパンパンだな……やっぱり袋が欲しい。
「咄嗟に変身したけど、幻属性の魔石は残りデーモンスパイダーの1個だけだ。しかもグレムリンのスキルは残り1つ。グレムリンの魔石を手に入れても、あと1回しか変身できないかもしれない。……確認してみるか。ナレーション!グレムリンの魔石で何回変身できるんだ?」
『説明しよう!3回変身可能である』
「やっぱりそうか。だとすると、同じモンスターの魔石からスキルを全て取得したら、その魔石では変身できなくなるのか?」
『説明しよう!その通りである』
「マジか!急いで他のモンスターの魔石を手に入れないと」
静まり返っている。ニーボアとの戦闘で近くのモンスターは逃げたんだと思う。ここで待ってても来るのはゴブリンか盗賊位だろう。このまま進んでみよう。
「こっちかな?」
次のモンスターとの遭遇を願って走り始めた。
しかし、モンスターと出会わないまま数分が経過した。かなり走ったが景色が変わらない。
「くそっ!モンスターはどこだ!街もない!」
周りの景色はどこも同じに見える。違う所と言えば大きな花が幾つか咲いている。
「ここにもいないか……ん?」
突然視界が靄で覆われた。攻撃を受けている!
「これはチャームフォグ!?」
姿勢を低くしてチャームフォグの範囲から外に出た。変身中の俺に効果は無いが、あまり吸いたい物ではない。
「グレムリンがいるのか!」
しかし再び新たなチャームフォグが頭部を覆った。転がりチャームフォグを回避。周囲を見回すがグレムリンの気配は無い。隠れてるのか?と、その時、視界の端で何かが動いた。
「嘘だろ!花が口を開けた……食虫植物か!」
足元の石を拾った。すると新たなチャームフォグが頭部を覆った。これじゃキリがない。おそらくチャームフォグを使用しているであろう花を倒す!
「投石!」
砲弾が着弾したかのような音が響き、巨大な花に風穴が空いた。クリティカルヒットという表示が出そうだ。
『ジョ〜……』
変な音を発して花が萎れた。同時にチャームフォグが霧散した。
「チャームフォグを使ったのはやっぱりお前か……だったら幻属性!?」
ゴブリンナイフで穴を広げるとピンク色の魔石がこぼれ落ちた。
「よしっ!これでまた変身ができる!」
再び視界が靄で覆われた。
「しつこいな。だが、ついでにあと2個手に入れよう」
チャームフォグの範囲から出ても、次から次へとチャームフォグが俺を包む。もう、面倒なので避けるのはやめた。どうせ俺には効かないんだし。石を投げて花に穴を空けた。
『ジョ〜……』
次の石を拾う為に数歩進むと、その度にポンポンとチャームフォグが発生した。
「邪魔すぎる!投石!」
『ジョ〜……』
「3個あれば十分だ」
どんなスキルを覚えるのだろう。花のスキルを覚えても使えるかは微妙だけど。
「この花の魔石で変身できるか?」
『説明しよう!変身可能である。ダゾレシアの魔石は幻属性なのである』
「ダゾレシア?この花の名前か……ちなみにダゾレシアの魔石を使うとスキルは何を覚えるんだ?」
『説明しよう!スキルは変身の際にランダムで決定されるため、一度使用してみなければ分からないのである』
「保有スキルは3個だけじゃないのか……まぁ、そりゃそうだよな。じゃあダゾレシアの保有スキルを教えてくれ」
『説明しよう!ダゾレシアの保有スキルは【丸飲み】【悪食】【光合成】【チャームフォグ】【誘惑耐性(小)】である』
「使えそうなのが少ない……他を探そうかな」
ヒーローポイントを確認すると、残り12まで減っていた。
「うおっ!のんびりし過ぎた」
ここで変身が解除されたらダゾレシアに丸飲みにされて胃袋の中だ。花に胃袋があるのかは知らないが……。
今度はモンスターがいない場所を探して走り出した。




