遊びだなんて馬鹿にしてごめん
トリックラットから、レイビに変更しました。
『ゲギャギャ!!』
気合を入れ直して湖を後にしようとした時、背後の森から緑のあいつが姿を出した。
「またお前達か!!」
『ゲギャ〜!』
ゴブリンが4匹現れた。
「お前達みたいな雑魚キャラは一撃で倒してやるぜ!」
ポケットからグレムリンの魔石を取り出した。それを見つめて思案する。
「……勿体ない」
そう勿体ない。幻属性の魔石は2個しか無い。つまり2回しか変身できないんだ。慎重に使わないと、いざという時に変身ができなくなる。そして、ゴブリンの魔石は使えない。しかも、レベルが上がらない俺は、こいつらを倒したところで何一つ旨味がない。
「逃げるか……」
ゴブリン相手に逃げるのは癪だが、残り少ない魔石を使うより遠くまで移動した方が利口だ。
「逃げるぜ!」
ゴブリンに背を向け走り出そうとした。
「って、おいおいおい!どうして前に向かって進むんだよ!」
逃げようとしたが、ゴブリンに向かって走り始めた。体が思うように動かない。
『説明しよう!逃走系のスキルは保有していないのである』
慌てて急ブレーキで止まる。
「逃げるのにもスキルが必要なのかよ!!これは流石にヤバイだろ!」
どうやら逃走系のスキルが無ければ、逃げる事も出来ないみたいだ。
「早く手に入れないと大変なことになるぞ!」
これは是が非でも逃げるのスキルを手に入れてやる!でも、どのモンスターが持ってるんだ?
『ゲギャギャギャ』
今は考えてる時間は無い。グレムリンの魔石を胸に添える。
「この場は仕方ない……変身だ!ヴァイラス!!」
アザから糸が伸び、グレムリンの魔石を包み取り込んだ。
『説明しよう!グレムリンの魔石に秘められたスキル、【投石】【チャームフォグ】【MP+2】の中から1つ取得可能である』
レベルが上がらない俺にはMPプラス2はかなり魅力的だ。ステータスを底上げするにはこれしか無い。しかし今はスキルを手に入れる事の方が最優先だ。
スキルは投石かチャームフォグだな。チャームフォグはさっきの桃色の靄だ。なかなか使えそうだ。
投石って?石を投げるだけだろ?遊びじゃないんだからこんなスキルは……だがもしかしたら、これは貴重な攻撃スキルになるかも。幸せボンバーをしなくても良くなるぞ。これにしよう。
「投石にする!」
『説明しよう!投石を取得した』
ナレーションの後に、胸のアザからピンク色の帯が幾重にも飛び出し俺を包んだ。変身完了!
「I’m ready!」
ステータスを確認すると、新たに投石のスキルを取得していた。
「ヒーローポイントは1000だな。時間が惜しい」
足元の石を拾った。ゴブリンまでの距離は約50メートル。
「この距離から当たるのか?試しに投げてみるか……投石!」
拾った石を振りかぶり力任せに投げてみた。石は恐ろしいスピードで飛んで行き、ゴブリンの頬をかすめ後方の木に穴を開けた。
「はは……すご……遊びだなんて馬鹿にしてごめん」
『ゲ……ゲギャ?』
ゴブリン達は風穴が空いた木を凝視した。
『ゲギャギャ』
『ゲギャ……』
『ゲギャゲギャッ!』
俺と木を交互に見ると、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「懸命な判断だ。おっと!悠長にしてられない。逃げるのスキルを探さないと」
時間が無い。逃げるゴブリンはほっといて変身している間に、何としても逃げるのスキルがある魔石を見つけないといけない。
「必ず手に入れるぜ!」
と、気合を入れ数分走ったところ、何かの鳴き声が聞こえて来た。
『キュウ』
「この声は……見つけた!」
木の枝に、リスサイズの狐のようなモンスターを見つけた。茶色い体毛がフサフサで可愛いが尻尾は無い。それが3匹いる。
「ナレーション。あの狐に似たモンスターの属性と名前、それと逃げるのスキルを所持しているか分かるか?」
『説明しよう!幻属性のレイビである。レイビは逃げるを所持しているのである』
「よっしゃ!完璧だ!!」
『キュ〜!!』
「ヤバイ気付かれた!」
さっきの投石は、概ね狙い通り投げる事が出来た。レイビまでは約20メートル。この距離だったら当たるはずだ。
『キュウ?』
木の上で首を傾げ、可愛い声で鳴いている。
「当たってくれよっ!投石!」
石は目にも止まらぬ速さで飛んで行き、枝を貫通してレイビを突き抜けた。
『ギィッ!!』
「仕留めた!」
距離が近ければ当たる。しかも威力が半端ない。オーバーキルだ。
「投石恐るべし」
残り2匹は今の一撃で木を飛び移り逃げ出した。
落ちてきたレイビを確認すると、胸にはポッカリと大穴が空いていた。
「しまった!!魔石が無い!石で吹き飛ばしたか!?」
マズイ。逃げたレイビの、まだ見えている方を追いかける。
「逃すか!!」
枝から枝へと飛び回り、ちょこまかと逃げ回るレイビ。スピードは俺の方が上だ。しかし、上を見ながら木を避けつつ追い掛けるのは難しい。それを知ってか、レイビは縦横無尽に逃げ回る。
『キュ〜』
「絶対逃さない!」
ここで逃がしてしまえば、【逃げる】のスキルを手に入れる事が難しくなる。何としても捕まえなければ。
『キュウキュウ』
しかし、焦れば焦るほど距離が離れていく。枝にジャンプしても、木を伝って降りて別の木を登り始める。
「くそっ!」
だったらと、木を登れば、登っている間に隣の枝に飛び移ってしまった。
「ちょこまかと!これじゃあ、いつまで経っても捕まえられないぞ」
投石を使うと、また魔石ごと破壊してしまう可能性がある。何としても捕まえる必要がある。
木を飛び回り、登ったり降りたり逃げ方が立体的だ。せめて地面を逃げて欲しい。
『キュッ?』
レイビは、背の高い木の枝の上で止まり首を傾げて俺を見ている。捕まらないと高を括りおちょくっているんだろう。
「そこを動くなよ!」
木を登ると枝を飛び移り逃げるはずだ。しかし投石を当てると魔石ごと吹き飛ばしてしまう。こうなったらこれしか無い。足元の石を拾った。
『キュウキュウ』
「可愛いふりをしても騙されないぞ」
その行為が命取りだ。石を振りかぶった。
「投石!」
投石でレイビではなく、隣の枝を破壊した。これでもう飛び移る事は出来ない。
『キュ〜!キュッキュッ!』
逃げ場を無くしたレイビは、枝の先でクルクル回り動かなくなった。
「残念だったな」
木に登り枝を伝ってレイビに素早く手を伸ばした。
「捕まえた!!ん!?」
『キュウ!』
「何っ!逃げられた!」
逃げるのスキルを使ったな。素早く俺の股下をくぐり抜け、木を降りて逃走を続けた。
「逃すかよ!!」
木から飛び降り追いかける。しかし今度は地上だから追いかけやすい。あっという間に距離を詰めた。そして今度はこっちの番だ。
「トリックスター!」
止めの加速。
『キュウキュ〜!』
「ふぅ。なんとか捕まえた」
レイビを捕まえた。
「お前の魔石が必要なんだ」
レイビを胸に添えて空を仰ぐ。
「I’m ready!」
その場でジャンプする。そして手を出さずに顔から着地した。
「うわぁぁぁ!」
『キュ〜〜!!』
勿論、胸に添えているレイビは、鋼鉄の胸と地面に挟まれた。
『キュ……』
レイビは静かに息絶えた。御愁傷様。
ゴブリンナイフで魔石を取り出した。
「良かった、これで【逃げる】のスキルが手に入るはずだ。けど悠長にしてられないな。このまま走って街を探そう」
ヴァイラスピンクに変身している間に距離を稼いでおきたい。しかし街がある方角が分からない。取り敢えず来た道とは逆に進んでみるかと、周囲を警戒しつつ走り始めた。
やはり軽く走っても速い。しかも、レイビを追いかけていた時もそうだったけどあまり疲れない。この調子だと、森を抜けるのもあっという間かもしれない。
「行くぜ!」
……と思っていたが、周囲の景色は変わる事なく変身解除の時間が来てしまった。
「くそっ!ここでモンスターが現れたらお終いだ」
逃げる事が出来ないと知ってしまった以上、生身の状態でモンスターに出会うのは危険すぎる。体勢を低くしてクールタイムの5分が経過するのを待つしか無い。
「何も出て来るなよ……」
魔石は残り2個。
こんなにジリ貧でこの先大丈夫なのだろうか……。




