お前の魔石は何色だ?
「ここか!」
木を掴んで揺らした。葉っぱが大量に落ちて来る。
結局この方法が一番効率が良かった。蹴っても殴っても無駄だと学んだ。
「何も落ちてこない……」
戦闘音に驚いて逃げたのかもしれない。ゴブリンすら出てこない。
「残り9分……場所を変えて探してみるか」
ここから離れた場所で探す。ゴブリンナイフを拾い、全速力で駆け出した。スピードスターを使えばもっと速く移動できるが、使用ヒーローポイントが2なので変身時間を2秒失ってしまう。今は使う余裕がない。
「この辺りには居そうだな」
3分走ったが、そこそこの距離を移動した。景色はガラリと変わり、目の前には小さな湖がある。
「あれは……」
湖の辺で猪のような生物が水を飲んでいる。
「ナレーションあれは何だ」
『説明しよう!あれとは何を指しているのか分からないのである』
「おい!あれだよあれ!」
猪を指差した。
『説明しよう!あれでは分からないのである』
「あれじゃダメか……それなら、猪に似た……」
その時、猪の周囲に桃色の靄が発生した。
「何だ?」
『フゴフゴ』
猪は水を飲むのを止めて振り返ると、ドスドスと歩き始めた。
「様子が変だ」
猪の目は焦点が合っていない。鼻息が荒くなり、涎を撒き散らし始めた。
『フゴフゴ』
猪が進む先には巨大な岩がある。
「何だ?あの岩に何かあるのか?」
すると岩の影から二足歩行で歩くアライグマのような獣が2匹現れた。しかし尻尾は細長く、背中にはコウモリのような羽がついている。
『キキキキ』
猪は立ち止まり頭を低く下げた。それを登るアライグマ達。猪は無抵抗だ。
「何をしているんだ?」
アライグマ達が猪の背中に乗りキィキィ騒ぎ始めた。すると猪は後ろ足で地面を蹴り始めた。
『ブフォォォォ!!!』
雄叫びを上げ走り出す猪。直線上には岩がある。
「ぶつかるぞ!」
直後、激しい衝突音が響き、岩にヒビが入った。
「なんて石頭だ」
かと思ったら、猪は額から血を吹き出し、その場に倒れて動かなくなった。
「何がしたかったんだ?」
岩にぶつかる直前で、飛び上がっていたアライグマモドキは、翼を忙しく動かしてゆっくりと地面に降り立った。そして猪に駆け寄ると、おもむろに食べ始めた。
『キキッ!』
「うえっ!食ったぞ!!」
猪を食べ始めた事に驚き大声を出してしまった。
『キキィ〜!』
「やばっ!見つかった!」
俺の声に反応したアライグマモドキ達はこちらを向き牙を剥いた。そしてこちらに短い手を向けると、今度は俺の周囲に靄が現れた。
「さっきのと同じだ。ナレーションこの靄は何だ!?」
『説明しよう!チャームフォグである。チャームフォグを吸い込んだ者は術使用者に魅了されるのである』
「何だって!?もう吸っちまったぞ!!……くっ!なんだか気分が悪くなってきた……」
視界が歪む。握力が無くなり、ゴブリンナイフを落としてしまった。
『説明しよう!幻属性のヴァイラスピンクは、精神攻撃を無効化するのである。つまり、チャームフォグは効かないのである』
「え?ああ、そ、そうか。良かった」
確か、ステータスのピンクの欄に精神攻撃無効があったな。気分が悪くなったのは気のせいだった。雰囲気のせいだ。となると、あの猪はアライグマモドキに魅了されて岩に突っ込んだのか……可哀想に。
靄が晴れ腕組みをする俺を見るとアライグマモドキ達は慌て始めた。
「残念だったな。俺には効かないんだと」
『キキキィィ』
石を拾い俺に投げた。
【−1】
カツンと胸に当たったがダメージは皆無。
『キキキ……』
お互い顔を合わせバタバタと逃げ始めた。
「逃げるなよ!スピードスター」
逃げるアライグマモドキ達の目の前まで瞬時に移動した。
『キィ〜!!』
「捕まえた!」
攻撃はできないが捕まえることはできる。2匹の首根っこを両手でそれぞれ掴んだ。そして地面に投げつけようとして止めた。
「遠くに飛んで行ってしまったら魔石の回収ができなくなる……どうしよう……」
2匹は俺の手から逃れようと、噛んだり引っ掻いたりして暴れている。全く痛く無い。
しかし、どうしたもんだろう。倒し方が分からない。
「しまった!!」
突如けたたましく警告音が鳴り始めた。視界下部には【CAUTION】の黄色文字。残された時間は10秒。考えている余裕はない。
「変身が解除される!こうなったら、持ったままジャンプしてそのまま地面に激突させる!……とう!」
2匹を抱えて空高くジャンプした。跳躍距離約2メートル。まるでヒーローだ。
「悪く思うなよ!」
『キィ〜!!』
ヒーローってよりも悪役の所業だな……。
『キィ!キィ!』
「こら!暴れるな!俺も怖いんだよ!」
逃げられないように、アライグマ達を胸元にきつく抱きしめる。そしてそのまま地面に向かって胴体着地を決行する。迫る地面。手を出せない恐怖。
「うわぁぁぁ!!」
『キィィィィ!』
顔面を地面に強打した。
「ぐふっ!」
しかし全く痛みは無い。ダメージは無いみたいだ。
立ち上がってみると、2匹のアライグマモドキは鋼鉄の胸に押し潰され息絶えていた。
「ふぅ。名付けて、幸せボンバー」
両胸を押さえて決め台詞を言ったところで変身が解除された。
「……」
変身が解除された今の俺はただの変態……いや、ただの人間だ。慌てて胸を押さえるのをやめて、ゴブリンナイフを拾った。
「さてと、魔石魔石!」
何事も無かったかのように魔石の回収を始める。幻属性の魔石を手に入れないと、次にモンスターと出会ってしまったらアウトだ。
「お前の魔石は何色だ?」
アライグマから魔石を取り出した。
「ピンク色だ!助かった!!ナレーションこの魔石は幻属性だろ!?変身できるよな?」
『説明しよう!グレムリンの魔石は幻属性である。変身可能である』
こいつらグレムリンというのか。幻属性で助かった。
「猪はどうなんだ?」
猪からはソフトボール程の茶色の魔石が手に入った。
「一応聞くがこの魔石で変身できるか?」
『説明しよう!ニーボアの魔石は土属性である。変身不可能である』
「だよな。まあ、この魔石も何かの役に立つかもしれない」
猪はニーボアというのか。手に入れた魔石をポケットにしまった。
「喉が渇いたな……」
水面に映る自分の顔を見て驚いた。
「高校生の頃の俺だ!」
やはりヴァイラスとの融合で若返っていた。どうしてそうなったかは分からないが、体が軽くて動きやすいので助かった。若返りも転生になるのかな?
そう!若返ったんだ!決して生まれ変わったんじゃない!若返ったんだ!
「……ここの水は飲めそうだ」
湖の水はニーボアが飲んでいたからおそらく飲めるだろう。水を両手ですくい口をつける。
「大丈夫そうだ」
喉の渇きを潤しため息をつく。
「ふぅ……魔石も手に入ったし、まずは人がいる町を探そう」
超亜空間から放り出されて落下している途中で大きな街が見えた。中央には西洋風の城のようなものもあった。もしかしたらあれがギャリバングなのかもしれない。
「ヒトツメ……」
思い出すと笑顔が引き攣る。恐怖か絶望を感じているんだろう。両頬を叩き気合を入れる。
「よし!行くぜ!」




