チートタイムだ!
「チートタイムだ!行くぜ!!」
勢い良く駆け出した。かなりのスピードだが前回より随分遅い。しかしゴブリン程度なら問題なさそうだ。
「喰らえ!」
ゴブリンの頭部を目掛けてハイキックを放った。轟音が響き渡る。
「んな?」
しかしハイキックは見事に空振った。ゴブリンは風圧を受けて腰を抜かし座り込んだ。
「おっと。なかなか慣れないな。今度こそっ!」
独楽のように回転して、流れるように回し蹴りを放った。
「は?」
しかし、明らかに狙った所とは違う場所を攻撃している。
「回し蹴りは難易度が高かったか?」
だったら基本に戻ろう。相手に正対し腰を落として正拳突きを放った。
「せいっ!……え?」
狙いを定めた正拳突きが、動きもしないゴブリンの遥か頭上を通過した。当たらない!!
「ナレーション何故当たらないんだ!?」
『説明しよう!体術系のスキルは保有していないのである』
「そりゃそんなスキルは持ってないが、狙いを澄ませたパンチは当たるだろ!せいやっ!」
反対の拳を突き出すが、大きく左にずれて空を切る。
「まさか!スキルが無いと攻撃すらできないのか?」
『説明しよう!攻撃はできるが当たりにくく、攻撃力も下がるのである』
「なんて事だ……」
このゲームの世界はシビア過ぎる。これは当たりにくいなんてもんじゃない。当たらないんだ!
「こうなったらダッシュでぶつかって体当たりしてやる!行くぜ!」
腰を抜かしているゴブリンにダッシュした。
「何ぃ!」
これも当たらない。
ぶつかる直前で俺の意思とは関係なくゴブリンを上手に避けた。
「体当たりすらできないのかよ!」
『説明しよう!体当たり系のスキルは保有していないのである』
ぶつかるだけでもスキルが必要なのか。前回ゴブリンに馬乗りになったのは、直前でたまたま転んだからだ。俺の意思で飛びかかっていたら当たってなかったのかもしれない。
「クソゲーだな!」
ターン制のバトルでは「戦う」のコマンドがあるが、このVRMMOにはそれが無い。
「この世界はみんなそうなのか?」
『説明しよう!マスターだけである』
「何で俺だけなんだよ!」
『説明しよう!この世界の住人は、レベルアップや鍛錬等によりスキルを取得するのだ。しかしマスターは女神プライマリーのデバッグによって、全てのスキルを消去されたのである』
「くそっ!鍛錬しないとスキルは手に入らないのか」
『説明しよう!マスターは女神プライマリーのデバッグにより、レベルが上がらなくなったため、鍛錬をしてもスキルは取得できなくなってしまったのである』
「レベルが上がらない!?そんな馬鹿な話があるか!じゃあどうすれば良いんだよ!」
『説明しよう!我らがヒーローヴァイラスに変身する際に魔石から取得するしかないのである』
「何だよその縛りは!それならさっき取得したスピードスターは使えるんだな!ってかスピードスターって何だよ!」
『説明しよう!使えるのである。スピードスターとは、1秒間、素早さの値が二倍に上昇するのである』
「了解!そうと分かれば早速使うぜ!スピードスター!」
ゴブリンに向かって猛スピードで走り出した。トリックラットが素早く動いたのはこのスキルを使ったからだな。これなら当たると思った直後、器用に避けてゴブリンの後ろで停止した。
「おいおいおい……強くなってもゴブリンすら倒せないのか……」
『ゲギャギャギャ』
飛び跳ねておちょくっている。頭にくるがどうすることもできない。
『ゲギャッ!』
不意にゴブリンが背中に張り付いた。それを引き剥がし地面に投げつける。
「このっ!」
しかしと言うか、やはり思った通りには投げる事ができない。ゴブリンは空の彼方へと飛んで行った。
「どうして地面に投げたのに空に飛んで……ぶふっ!」
今度は顔面に張り付いた。それを剥がして地面に投げつけるが、何故か後ろに飛んで行った。
「おいおい……何のギャグだ?」
ナイフがなかなか当たらなかったのも、槍と弓矢が前に飛ばなかったのもスキルを所持していなかったからだった。
「何がチートタイムだ……俺弱ぇ〜……」
肩を落とすのと同時に、ゴブリンが振った棍棒が足に当たった。ダメージは微々たるものだ。そのゴブリンを捕まえて地面に投げつける。だが今度は、空でも後ろでもなく前方に飛んで行く。
『ゲギャ〜!』
投げたゴブリンが他のゴブリンに当たり、2匹まとめて森の奥へと消えて行った。
「投げるのもダメか……倒せないなら逃げるが勝ちだ」
『説明しよう!倒せているのである』
「倒せてる?と言うことは、今までに投げたゴブリン達がどこかにぶつかって……それで倒したって事か?」
『説明しよう!そう言う事である』
なるほど。その手があったか。投げればどこかに激突させて倒す事ができる。
「よし!かかって来い!」
『ゲギャゲギャ!!』
『ゲギャ〜〜!』
ゴブリン達は回れ右をして走り出した。
「お前らが逃げるのかよ……」
勝てないと悟ったゴブリン達は、蜘蛛の子を散らすように森の奥へ消えて行った。
「ふぅ……まぁ何とかなった。倒し方も分かった。でもこれは、ヴァイラスに変身しているうちに幻属性の魔石を手に入れないと詰むぞ」
生身の体では投げつけても倒すことはできない。それどころか、相手を投げることすらできないだろう。
ステータスを確認すると、ヒーローポイントは残り805。805秒か……あと13分ちょっとで変身が解けてしまう。
「魔石を探すぞ!ナレーション!トリックラットはどこにいる?」
『説明しよう!森の中にいるのである』
「了解!分からないって事だな」
『説明しよう!森の中にいるのである』
「了解!!」
ここは森の中だ。分からないならそう言えばいいのに。とりあえず、さっきの木を蹴ればトリックラットが落ちて来るかもしれない。
「落ちて来い!」
八つ当たりをするように木を力任せに蹴り付けた。
しかし豪快に空振りをして一回転すると、バランスを崩し顔面を木に強打した。ゴブリンが見てたらピョンピョン跳ねて、おちょくられていたな。
「木を蹴ることもできないなんて……」
しかし結果的に頭突きで木が激しく揺れて、無数の木の実が落ちて来た。
「結果オーライ!」
この木にはトリックラットはいなかったようだ。
「次!」
しかし、その後トリックラットは見つからなかった。




