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第1章 ▲桃色の吐息▼ 

会議は終了した。


「ふぅ……」


言っちゃった……言い切ってしまった。仕事のせいだ。

俺が勤めている会社はいわゆるブラック企業。平均睡眠時間は3時間。そして完全なるトップダウン。返事は、はいか、イエスか、喜んで!どこぞの軍隊か……。

と言うわけで、無意味な会議をする暇があれば溜まりに溜まった自分の仕事に戻りたい。そして早く寝たい。そんな焦りから、とんでもない事を口走ってしまった。

しかしそこからは、訂正する事も出来ずトントン拍子で話が進み、あっという間に発売日まで決まった。


「どうしてくれるんだ!AIが全てを作る?そのAIは誰が作るんだ!?お前はいつも詰めが甘いんだよ!!責任はお前が取れ!!!」


会議直後の上司はご立腹。でもあの時、何か言えよって目で訴えてたのは課長あんたでしょ!いつもいつも責任を部下になすりつけて!……今更だな……言ったことは取り消せない。甘んじて受け入れよう。


「喜んで……」


その日から、計画を実現するため結果的に仕事量は倍以上に膨れ上がった。『1日は48時間』という張り紙までされてしまった……もうブラックなんて生温い。深淵だ!名付けてアビス企業。

アビス企業という二つ名のとおり、今手掛けている別のゲームと、さらに今回のAI構築までやらなければならなくなった。最悪だ。

別のゲームはと言うと、同じくVRMMORPGで、1年前に発売された『モンスターリベレーション』というゲームだ。略してモンリベ。自分で言うのも何だが大好評だ。

モンリベは、ファンタジーな世界を冒険するために、種族を選びアバターを作成し、戦士や魔法使いなどの職業を決める。そこからゲームが始まるのだが、何をしても良い。広大で美しいオープンワールドを一人で楽しむも良し。仲間と助け合いながらストーリーを進めるも良し。モンスターと戦いレベルアップやスキルを覚えるなどして成長させるも良し。プレイヤー同士で戦うも良し。武器やアイテムを作成して自分の店を大きくするも良し。時には釣りやカジノ、モフモフなモンスターの育成を楽しんだりと自由度の高いRPGだ。

しかしこれだとどこにでもあるゲームだが、モンリベの特徴は別売のパッドとセットで付いてくる3個のボールにある。このパッドは胸部に装着する胸当てのようなものだが、その中央には丸い窪みがあり、ピンポン玉のようなボールを嵌めることで、ボールに登録されているキャラに変身することが出来るのだ。パッドの名称は『メタモルコンバートパワーチェンジャー』、ボールは『モンスターコア』。因みにこのゲームのコンセプトは『現実とリンクしたVRMMORPG』だった。

使い方は簡単。まずはメタモルコンバートパワーチェンジャーを装着する。そしてVR機能を使用してバーチャルな世界にコネクト。ゲームを開始する。

次にモンスターを倒して魔石を入手する。その魔石をギルドでモンスターコアに登録する。1個のモンスターコアには1個の魔石が登録可能だ。そして、所持可能なモンスターコアは3個まで。お察しの通り、登録したモンスターコアをメタモルコンバートパワーチェンジャーに嵌める事でそのモンスターに変身するのだ。

つまり、モンスターコアに登録された魔石の力を使うことでゴブリンやコボルト等のモンスターに変身できる。変身後は、自分の職業に対応した見た目のモンスターとなる。例えば、戦士がゴブリンに変身するとゴブリンナイト。魔法使いはゴブリンウィザードといった感じだ。もちろん初期設定の種族や性別によって能力も見た目も違う。それぞれの魔石に対応したモンスターに変身して、そのパワーとスキルを使ってしまおうという寸法だ。

ただし、モンスターを倒して入手可能な魔石は雑魚キャラだ。なので現実の店頭で魔石を購入するのがセオリーとなっている。しかし袋を開けてみるまで何が出るかは分からない。いわゆるガチャ。クライアントはここで儲けようと考えていた。だが、バーチャルの世界から現実世界に引き戻したりして、今時そんなゲームが売れるのか?と思っていた……。

しかしそれが大当たり。『自分のタイミングでヒーローのように変身できる』『本当に変身した気分になる』『体を動かすゲームは珍しい』と巷で盛り上がった。

更に、性別、年齢、種族、職業、魔石の組み合わせで、何通りもの育成が可能。熟練度の上がったモンスターコアは魔石のスキルを一部継承する。これにより自分だけのキャラが育成可能となった。

現在はバージョン1.4までアップデートされており、戦士や魔法使いのようなオーソドックスな職業に加え、侍や忍者等、和風な職業まで追加された。

バージョン2.0では新たな上級職業やレアモンスター、新大陸、ストーリーの追加等の大型アップデートを企画している。ただ、その日はAIが作るゲームの発売日とビタ被り。最悪だ。

そのAIの方は、モンリベで使用しているAIを基盤として仮想の自我を与え、自律してゲームを作るためのプログラムを組み込んだ。簡単に説明したが、ここには並々ならぬ犠牲が払われた。主に睡眠時間だが……。


『ワンカラー様。SF系のアップデート終了しました』


「おっ!アンジュか?早かったな」


パソコン越しに話しかけて来たアンジュとは、俺が作ったAIの名前だ。アンジュはフランス語で天使。女性の声にしたのは、ただの好みだ。そしてワンカラーとは、俺が良く使うニックネームだ。


『次は海外のヒーロー系を所望します』


「海外のヒーロー系?以前渡した日本のヒーロー系で十分だろ?」


『その偏ったゴキブリ並みの知識じゃ、今までと何ら変わらないクソゲーになるよ』


「うっ……了解」


『王よ。懸命な判断ですぞ』


生意気に育ったもんだ。たまに口が悪いのは、前回学習させた、ホラー系のとある映画に出てくる、脇役の毒舌JKを真似ている。今回のSFは旧型のアンドロイド。前々回の歴史物では王の側近。その前の時代劇では、語尾に「ござる」を付けていた。話し方がコロコロと切り替わるのはそのせいだ。その中でもヒーロー系は特に気に入ったみたいだ。

しかしこれは重要な作業で、様々な種類のゲーム、ドラマ、アニメ、映画、小説、漫画等を見せる事で幅広く学習させている。ここまで育てるのにどれだけの苦労をしたか……主に睡眠時間。

アンジュは既にゲームの制作を開始しているようだが、一切関与しないように設定しているせいか、発売するまで秘密だと言って、親である俺にも見せてくれない。


「そろそろどんなゲームにするのか教えてくれても良いんじゃないか?」


『また?駄目だって言ってるのに聞こえてないの?耳も悪いの?ゴキブリ並みにしつこいのよね。踏み潰すよ』


「耳もって……他にも悪いところがあるような言い方だな!目か?頭か?それとも顔か!?いや、答えなくて良い。へこむだけだから。だが今回は例え踏み潰されても諦めないぞ!頼む!タイトルだけでも!じゃないと海外のヒーロー系の代わりにウイルスを送り込むぞ」


『ウイルスは対処可能です。しかし少々面倒ですね……良いでしょう。タイトルだけですよ。タイトルは……【ナイナジーステラ】です。それ以外は言えません』


ウイルスは冗談なんだが真面目か。しかも対処可能と来たか……まぁ、結果オーライ。教えてくれた。


「へぇ、ナイナジーステラか」


卑怯な手を使ったが、やっとタイトルだけは教えてくれた。ナイナジーステラと言うそうだ。宇宙を題材にしたゲームかな?楽しみだ。とりあえず約束していた海外のヒーロー系のデータを与えないと。

モンリベのバージョンアップと、アンジュが作るナイナジーステラの発売日は約3ヶ月後。身から出たサビだが、俺はすでにアップアップ。息の吸い方を忘れて、まるで金魚のように口をパクパクする日々を過ごしている。

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