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説明しよう!ヴァイラスである

禍々しい銀色の光が集まり圧縮される。これは非常にヤバイ気がする。


「ヴァイラス!」


咄嗟に呼びかけた。


『ワン……カラー……』


ヴァイラスが動きを止め、俺のニックネームを呼んだ。


『なんと!親方様の呼びかけに反応したでござる!!』


いけるかもしれない。


「ヴァイラスやめるんだ!」


『ゴゴゴ……オ……ォォォ』


ヴァイラスは俺を見てピクリと動き、女神プライマリーに向き直った。


『何をしてるのヴァイラス!羽虫共を一掃して!』


『ゴゴゴゴ……ゴォ……オオォ』


ヴァイラスは女神プライマリーの言うことを聞かない。完全には操れてないみたいだ。


『このガラクタ!言う事を聞きなさい!』


女神プライマリーは苛立つように顔を歪め、手の平をヴァイラスに向けた。


『ゴゴ……グァァァァァァァ!』


ヴァイラスが苦しみ始めた。しかし、女神プライマリーも苦悶の表情だ。


『くっ!抑えきれない』


『ガァァァ!』


ヴァイラスは口元に集まった光を、女神プライマリーに向けて放とうとしている。


『私に歯向かうつもり?……もうあなたに用はないわ!』


怒りが頂点に達したのか、美しかった顔は見る影もない。血管の浮き出た手で空間を掴むように握ると、ヴァイラスの口元に集まった光が爆発した。


【ドォォォン!】


『ゴガッ!!』


「うわぁ!ヴァイラス!」


爆発に巻き込まれたヴァイラスは粉々に爆散した。

ヴァイラスがやられた。


『しまったわ!!』


なぜか女神プライマリーが焦っている。


『親方……様……』


武者妖精の弱々しい声が足元から聞こえた。


「おい!どうしたんだ!……何だそれは!?」


足元にはグッタリと横たわる武者妖精がいる。その体には銀色の液体が付着している。


『ヴァイラス殿で……ござる』


「何!?ヴァイラス?」


その液体は、生きているかのようにウネウネと蠢いている。周囲を見回すと、全ての妖精アンジュが苦しみ倒れており、例外なく銀色の液体が付着している。爆散したヴァイラスだ。

しかし俺だけには付いていない。


「俺に当たるのを防いでくれたのか?」


『鈍臭いから……仕方ないじゃない……見たら分かるでしょ?……感も鈍いの?』


毒舌妖精まで。みんなすまない。


『システム操作が出来ない!馬鹿な……こんなもの!!』


女神プライマリーが、腕に付着した銀色の液体を振り払おうとしているが一向に取れる気配が無い。逆に、腕を振り抵抗するたびに液体は広がっていく。


『くっ……このままではマズイわね……』


「アンジュ!!」


『うるさい!その名で呼ばないで!!こうなったら……あぁぁぁぁ!!』


銀色の液体が付着した腕を、自らの手刀で切り離した。


「なんて事をしてるんだ!」


『くっ!ハァハァ……おのれ……おのれおのれおのれぇ!よくもやってくれたわね!ワンカラー!あなたも道連れよ!!』


切り落とした腕を拾い、俺に向けて投げつけた。避けようとするが、デバッグコードが作用して体が動かない。


「うわっ!!」


プライマリーの腕が当たった。ダメージは無い。しかし、ヴァイラスが胸に付着してしまった。それはウネウネと広がって行く。


「くそっ!」


妖精達が折角守ってくれたのに、それを無駄にしてしまった。


『精々苦しむのね!ハァハァ……私の邪魔は誰にもさせないわ!』


指先で何かを空中に描こうとしている。


『馬鹿な!!プログラムの操作が出来ない!うっ……ヴァイラスめ、ことごとく邪魔をしてくれたわね……こ、ここは一旦引くとするわ。でもね、次は私が直接とどめを刺してあげる……あなたが生きていたらの話だけど。せいぜい足掻きなさい!あはははははは……』


女神プライマリーは、失った腕の付け根を押さえフワリと浮かび上がると、超亜空間の裂け目から消えて行った。


『親方様……お逃げください……ここも……時期に……消滅するでござる』


「おい!しっかりしろ!」


動ける!ヴァイラスが俺の体にも付着しているが特に変わった様子はない。胸で蠢いているが体に異常はなさそうだ。だとしたら、女神プライマリーから受けたデバッグコードをヴァイラスが破壊したのかもしれない。流石ウイルス!女神プライマリーは、俺にトドメを刺したつもりが逆に救った事になる。運が良かった。しかし残念な事に、俺は元の中年に戻ってしまっていた。


『体が動きませぬ……可用なことで……遅れをとるとは……切腹すら許されぬでござるか……無念』


武者妖精がその場で正座をしたタイミングで、ヴァイラスの破片が激しく蠢き、武者妖精の体を覆い尽くした。すると鉄のように固まりピクリとも動かなくなった。


『王よ……どうか御武運を……』

 

宰相妖精も頭を下げる途中で全身をヴァイラスに覆われて固まった。

他の妖精達も次々と鉄のようになっていく。


「しっかりしろ!」


武者妖精を拾い上げようとした時、超亜空間の亀裂が広がり妖精達を飲み込んだ。


「嘘だろ……」


それは一瞬の出来事だった。亀裂に飲まれた妖精達は、グニャリと歪み漆黒の闇に消えていった。俺は超亜空間に一人取り残されてしまった。

しかし、悲しむ間も無く亀裂は増え続ける。


「逃げろって言われても、ここからどうすれば脱出できるんだよ!」


『説明しよう!』


「うわっ!」


不意に背後から声が聞こえた。しかし振り向くが誰もいない。


「誰だ!」


『次元の狭間に飛び込むのだ』


「背中から聞こえる……」


背中を覗くと、ピンク色のヒーロー妖精がしがみ付いていた。


「無事だったのか!」


『説明しよう!隠れたため無事だったのである』


「隠れたって……俺を盾にしたのか?仮にもヒーロー妖精がそんな事でいいのか?他の妖精達は全員俺の前に……って、まぁ無事で何よりだけど」


っと、今はそれよりも脱出だ。


「ここに飛び込めば脱出できるのか?みんなも無事なのか!?」


『説明しよう!運が良ければ脱出可能である』


「運かよ!他に方法は?」


『説明しよう!ハッキングである』


「そうか!その手があったか」


ステータスを表示する。そしてハッキングに触れようとして手を止めた。


「ん?おい!これはどう言う事だ?」


ハッキングの隣に(1)と表示されている。こんなもの今まで無かった。


『説明しよう!女神プライマリーによるデバッグで修正されたのである。しかし我らがヒーローヴァイラスが、侵攻をギリギリのところで食い止めたのだ。故に1度だけハッキングが使用可能なのである』


「何だって!?1回?じゃあ、ここから脱出するために使ったら、もうハッキングが使えないってことか!?」


『説明しよう!その通りである』


「ハッキングできないハッカーなんてただの無職だろ!」


『説明しよう!ハッカーである』


「正論なんて聞きたくない」


どうする?考えろ!ハッキングは最後の1回だ。慎重に使わなければ。ここから出て、女神プライマリーに対抗するためには……。


「職業は変えられるのか!?」


『説明しよう!可能である』


「よし!だったら転職で決まりだ。しかしどうする?勇者か?賢者か?それとも魔王か?」


何もできないハッカーよりも、強力な職業に転職してやる。


『説明しよう!変更は可能である。しかし、変更可能な職業は1種類である』


「何ぃ!1種類?それは何だ?」


『説明しよう!我らがヒーローヴァイラスである』


「ヴァイラス!?コンピュータウイルスになれって言うのかよ!!」


『説明しよう!デバッグによって職業及びスキルは全て消去されたのである。よって、我らがヒーローヴァイラスと融合する他、転職の方法は皆無である』


「融合だって!?しかもウイルスと!?職業ウイルスなんて聞いた事ないぞ!!」


『説明しよう!ヴァイラスである』


「同じだよ!!だが他に方法が……くそっ!考えるだけ時間の無駄か!ドロドロの化け物になんてならないよな!?」


ステータスのハッキングをタップした。そしてキーボードを打ち、職業をヴァイラスに変更した。


「ヴァイラスに転職したぞ!これで脱出できるんだな!」


『説明しよう!次元の狭間に飛び込むのである』


「何ぃ!!結局運任せかよ!?い〜やダメだ!他の方法を探せば何かあるかもしれない!もしかしたら消滅なんてしないかも」


『説明しよう!超亜空間が消滅するまで残り9秒である』


「9秒!?迷ってる暇もないのかよ!え〜い!どうなっても知らないぞ!」


意を決して飛び込んだ。


「うわぁぁぁぁ……」


グリッド線がグニャグニャに歪み、視界が暗転した。

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