アップデートされたのである
次の日、目が覚めた俺は宿屋の食堂で朝食をとった。
女将さんも客達も、昨日の地震の話はしていない。
「夢だったのかな?」
朝食を済ませギルドへ向かった。
「よう!アスカ」
「おはよ!」
「おはようございますキュウ殿!」
「ご主……アスカ様おはようございます」
アーヴァイン達だ。昨日の地震の事を確認してみるか。
「おはよう!ちょっと良いか?」
「どうした?朝から狐に摘まれたみたいな顔をして」
「昨日の夜、デカい地震があったよな?」
「地震……な、なかったよ……ね?」
アーヴァイン?何だ今の間は?それに動揺しまくりじゃないか!まさか!
「やっぱりあったのか!?」
それをみんなで隠してる?
「ああ。確かに揺れたな。どこかの酔っ払いが、部屋の壁を叩き続けたからな!」
「あ……あはは」
そういう事か。それはアーヴァインだな?酒を飲んだ事を隠してるのか。
「全く揺れなかったか?」
「ええ、揺れは感じませんでした」
「そうですね。私もです」
シャロンとルゥルゥが言うならそうなんだろう。
「そうか……」
あれほどの大地震だ。気付かないわけがない。嘘をついているようにも見えない。本当に俺が寝ぼけていただけだったみたいだ。
「それより、アスカは今日出発するんだろ?」
「……ん?ああ、そうだ。特に行く当てはないけどな。近くに村でもあればそこに行ってみようかと思ってる」
「それなら東にあるピングリンブリッジを渡って、グリーンザス大陸に行っみたらどうだ?」
「へ?橋?……大陸を渡る?」
東に橋なんてあったか?そもそも大陸はただ一つのはずだが?
「何大陸だって?」
「グリーンザス大陸だよ」
「知らないのか?」
「し、知らない!大陸は今いるこのピンキスト大陸だけじゃないのか?ど、どういう事だ?」
「何をそんなに慌ててるんですか?……この地図を見てください」
「なっ!」
見たこともない地図だ!いや、東に大陸が増えている?
「どうして大陸があるんだ!?」
「ちょ!そんなに大声を出さないでよ。他の客が見てるよ」
「そうです。落ち着いてください」
ステータスのMAPを表示すると、今見た新たな大陸が更新された。やはり始めてみるマップだ。
「これが落ち着いてられるか!他のマップはあるか!?」
「あるが、どれも同じだぞ?」
出されたマップを見比べるが、どれも同じだ。
「本当だ……大陸が……増えた……」
どうなってる?
「何言ってるんだ?元々あったぞ」
「嘘だ!そんなはず…………そうか!昨日の地震が原因か!?」
「だから、昨日は僕が酔っ払って壁を叩いただけだよ」
「アーヴァイン殿。今何と?お酒は禁止していたはずですが?」
「あ、いや、あれ?……アスカ!シャロンが怖いよ〜」
「……新しい大陸……」
みんなは当然のように言ってるが、今までは確かに一つの大陸しかなかった。それが正方形のセルで囲まれていた。海も途中で切れていたはず。それが長方形に変わってる!?
「アスカ!助けてくれよ〜」
明らかに地図の形も違う。
「シャロン!この大陸はいつからあるんだ?」
新しい大陸を指差した。
「いつからでしょうか?私達が生まれる前からありますが?」
「そんなはずは……この他に大陸はあるのか!?」
「いいえ、ピンキスト大陸とグリーンザス大陸の2つだけですが?」
「一つじゃないのか!?」
「今も昔も大陸は二つです」
「……そんな……大陸が増えた……しかも、みんなの記憶まで変わってる?」
「まぁ、これでも飲んで落ち着けよ」
ジャックバッシュに渡された水を一気に飲み干した。
「ぷはぁ……でも昨日の夜、確かに……」
「昨日の戦いで地割れが起こったからな。あれが原因で悪夢でも見たんじゃないのか?」
「……そうかもしれない」
違う!地震はあった!それは俺しか知らないみたいだ!つまり、ゲームの住人は知らない。外部から来た俺だけにしか分からない事なんだ。……嫌な予感がする。
(ナレーション!昨日の大地震は何だったんだ?)
『説明しよう!アップデートされたのである』
「アップデートだって!?」
「アスカ様!落ち着いてください」
アップデートされたから大陸が増えたのか!だからアーヴァイン達のようなゲームの住人は気付かなかったんだ。気付いたのは俺だけ……いや、俺と従魔のキュウ。そしてナレーションだけかもしれない。これはまさかプライマリーの仕業か!?だとしたら……。
「もう一つ聞いても良いか?」
「何だい?」
「これは何か知ってるか?」
プライマリーの左腕を机に置いた。
「何だいそれは?杖かな?」
「っ!?」
記憶を消された!?
「何だろうね?ジャックは知ってる?」
「そんな汚ねぇ棒っきれなんて知らんな」
「ジャックバッシュ殿。確かにそうですが、その言い方は失礼ですよ」
「私も知りません」
ルゥルゥまで!……間違いない!プライマリーの記憶が消去されてる!だったらゼルバリウスの事も覚えてないのか?
「ゼルは?ゼルバリウスはどうした!?」
「執事長は長期休暇で故郷に帰っています」
シャロンが当然だと言わんばかりに答えた。
「おいおいおいおい!それは反則だろ!」
「休みぐらい良いだろ?」
「そうじゃない!システムが操作されて……いや、おかしいぞ……左腕はここにある……どうやってシステム操作が出来たんだ?……そんな力がどこに…………妖精樹か!!」
プライマリーは妖精樹の力を使ってシステム操作をしたのか!?
(ナレーション!妖精樹を使ってシステム操作は可能なのか?)
『説明しよう!一部のシステム操作であれば可能である』
「くそっ!」
机を叩いて立ち上がった。
「どうしたんだよ?」
アーヴァインが驚いた顔で見上げてくる。
「今日はおかしいぞ」
ジャックバッシュもだ。
でもそれに答えている余裕は無い。
(ナレーション。幻想のダンジョンにあった妖精樹はどこに行ったか分かるか?)
『説明しよう!気配が消えているのである』
昨日の兵士の報告通りだ。もっと早くにナレーションに聞いておくべきだった。
「奪われたか!?それを使ってアップデートしたのか……」
そして、新たな大陸を作って、その大陸に逃げ込んだのか!?いや、待てよ、逃げるだけなのか?他に目的があるとしたら?……回復するためか?違う。それは、妖精樹を使ってできるかもしれない。そうせずにはいられなかったんだ。わざわざ新たな大陸を作る必要があった……左腕はここにある……力をつけるため?……だとしたらやっぱり妖精樹が目的か?……しかし既に持っているはずだ……わざわざアップデートまでして別の大陸を作ったのは…………。
まさか!次の妖精樹が現れたのか!?
(ナレーション!妖精樹は他にもあるのか?)
『説明しよう!新たな妖精樹の気配を感じるのである』
(ナレーション!その妖精樹の場所は分かるか?)
『説明しよう!分かるのである』
MAPが表示され、新たな大陸の中央付近に赤丸が表示された。
「何てこった……」
プライマリーの目的はこれだ!きっと奪いに行くはず!先に手に入れないとマズイ事になるぞ!
「みんな!俺はグリーンザス大陸に行く!」
「お、おお、そうか」
「気を付けてよ」
「しっかり準備をしてくださいね」
「分かった!ありがとう!」
急いで出口へと向かった。
「アスカ様!」
ルゥルゥに声をかけられた。駆け寄って来たルゥルゥは、笑顔で泣いている。引き攣った笑い顔だ。
「ルゥルゥ……」
「私は……ヒトツメに泣き顔を奪われました……あなたと同じように……」
やはり俺が一色飛翔だと気付いている。
「ルゥルゥ……あの時言った事は本当だ。君を助けるって言ったろ?」
「……はい」
「あの時は本当に……勇者だったんだ」
「……はい」
「俺はヒトツメに表情を奪われたから、恐怖や絶望を感じると笑ってしまうんだ」
「……はい」
「信じてくれるか?」
「……いいえ……あなたのお名前をまだ聞いてません」
「そうだったな……俺はアスカ。イッシキアスカだ」
「アスカ様!」
ルゥルゥが駆け寄り抱き付いた。
「あなたは間違いなくあの時の……約束を守ってくれたのですね……」
「みんなには内緒にしててくれ」
「はい!あなたには一生を賭けても返せない恩ができました!魔王を倒したら……その時は私の恩を必ず受け取ってもらいます!」
「絶対に死ぬなよ!また会おう!!」
「はい!お元気で!」
涙を溜めた美しい瞳で見つめられ、恥ずかしさのあまり目を逸らした。すると、入り口付近のテーブルに足を乗せ椅子を傾けて座っている、いつもの冒険者と目が合ってしまった。
「そこで俺は言ってやったのさ!恩を仇で返す奴は二度と来るなってな!」
「ギャハハハ!それじゃあ貸した恩は一生受け取れねぇな!」
「こいつら……アップデートされてやがる」