心の声が漏れてやがる!
「という事だよ」
アーヴァインが俺の肩に手を置いた。
「いやいやいや!どう言う事だよ!説明は!?ちゃんと説明してくれ!説明が無いと分からないだろ?」
ルゥルゥがシャイニングダブルモフに加入する?何故?
「俺達も驚いてる……しかしルゥの決意は固いようだ」
「そのようです。私達も何度も会話を重ねましたがルゥ殿の気持ちは変わらないようです」
はぁ!?何度も会話を重ねた?俺とは一度もその話をしてないのに?ルゥルゥの気持ち?俺の気持ちは?
「という事だよ」
反対の肩にも手を置かれた。目の前に立つアーヴァインでルゥルゥが見えなくなった。
「ちょ!まだ途中だろ?ルゥルゥの決意が固いのは分かった!で?」
「で……ルゥちゃんの目的は僕達と同じなんだよ」
「魔王討伐か?」
「はい……私の両親は……魔王に殺されました」
「そうか……」
ルゥルゥの両親が?今にも泣き出しそうな悲しい声だ……てか、アーヴァインが邪魔でルゥルゥの表情が見えない。
「という事だよ」
勇者ウィンクをされた。
「うぉい!邪魔だよ!しかも、動けるのかよ!」
アーヴァインの手を振り払った。すると崩れるようにその場に倒れた。そしてジャックバッシュに担ぎ起こされた。無理するからだ。
「で?……アスカどうするんだい?」
「おいおいおい!こっちが、で?だよ!」
「ルゥちゃん。アスカは納得してないよ」
「そりゃそうだろ!俺が聞き分けが悪いみたいに言ってるけど、まだ話の途中だろ?ルゥルゥの気持ちを聞きたいんだよ」
「だってさ。命令みたいだよ。ルゥちゃんの気持ちを伝えなよ」
「いや、命令ってわけじゃ……命令……か」
「……私は……この手で魔王を討ちたい!我儘なのは分かっています!アスカ様に救って頂いた命です。アスカ様の為に使う事が正しいのでしょう……。ですが、夢にまで見た勇者様がここにいらっしゃいます!私がいなくても魔王は討伐されるでしょう!でも!どうしても私の手で魔王を討伐したいのです!無理なのは分かっています!一撃でも与えられたら本望なのです!両親の仇を討たせてください!だから……無理を承知でお願いします!」
「……確かに魔王の元まで辿り着く為には、アーヴァイン達と行動を共にする事が最善の方法だと思う。俺の目的は違うからな」
魔王の居場所なんて見当も付かない。それどころか、名前すらも知らない。俺の目的はプライマリーの討伐だ。
「それでは!許可していただけるのですか?」
「……」
「アスカどうするんだ?許可するのか?」
許可……か……。
「いや、許可は出さない」
「え?この流れでよくそんな事が言えるなぁ」
アーヴァインめ。心の声が漏れてやがる!
「やはり……ダメですか……」
「待ってくれ!そうじゃない。俺は許可を出したくないんだ。命令したくないんだよ。だから命令しなくても良いように、奴隷契約の解除ってできないかな?と思って」
「えっ!?」
「奴隷契約を解除するのか?」
目を見開くルゥルゥとジャックバッシュに答えた。
「だって、何をするにも俺の許可がいるのは変だろ?椅子に座るのも、飯を食うのも、馬小屋から降りるのも……ルゥルゥには、自分の意思で自由に決めてもらいたい。何故命令しなくちゃいけないんだ?奴隷だから当たり前だと言われるなら、奴隷を辞めれば済む話だ」
「やっぱりアスカは最高だね」
「その心意気、感服致します」
「い、良いのですか?」
「勿論だ!それで少しでもルゥルゥに笑顔が戻るなら」
「あ……ありがとう……ございます」
うつむくルゥルゥの目から涙がこぼれ落ちた。
その後、早速、教会に向かった。
奴隷契約は呪いの一種らしく、教会で解除してもらうそうだ。
本当に良いのですか?とルゥルゥに何度も聞かれるが、最初からそうするつもりだったから気にするなと何度も答えた。
教会に着き、出迎えてくれたシスターに奴隷契約の解除を伝えると、大層驚かれ何度も聞き直された。
そして、大慌てでシスターが奥に行くと、入れ替わりで神父が飛び出して来てまた何度も聞かれた。このような事は今まで一度もないと言われ、おお!神よ!と涙ぐんで天を仰いでいた。
教会の中へ通す時には、聖者様どうぞと、それはもう王族を出迎えているのかという程の高待遇をされた。
奥の部屋に着くと、真っ白な台にルゥルゥが寝かされ、神父が何やら長い詠唱を唱え始めた。するとルゥルゥの胸の奴隷紋が輝き始め、次の瞬間には跡形もなく消え去っていた。
「これにて奴隷契約解除の儀式を終了いたします」
「……私は……自由なのですね……」
ルゥルゥが涙を流した。
「良かったな。アスカに感謝するんだぞ」
「はい!アスカ様。ありがとうございます。このご恩は一生忘れません!」
「気にするな。これからは好きに生きるんだぞルゥルゥ」
「はい!」
1億5千万ギャリーで買ったルゥルゥだが、これで良かったんだ。何ひとつ後悔していない。
「ルゥちゃん。これからよろしくね」
「宜しくお願いします!」
アーヴァインとルゥルゥが固い握手を交わした。
後光が二人を照らす。
これが勇者のメインストーリーなんだろうな。テーマ曲が流れてそうだ。
……それにしても、二人とも動かない。いや、アーヴァインがプルプル震え始めた。無理をしていたんだろう。シリアスシーンはそろそろ限界みたいだ。アーヴァインが膝から崩れ落ちた。と思った瞬間、すかさずジャックバッシュが肩を支えた。
「今日はもう遅い。宿に戻るとするか」
流石ジャックバッシュ。
「ルゥルゥ元気でな」
「はい!アスカ様も」
ルゥルゥ。最高の笑顔だ。これで良かったんだ。
めでたしめでたし……。
と、そこへ神父が話しかけて来た。
「それでは教会にご寄付をお願いいたします」
「ん?」
寄付?そうか、流石に無償じゃないよな。
「奴隷契約解除の寄付金は百万ギャリーです」
「ひゃ、百万!?」
「はい」
高すぎる!俺の持ち金が、ほぼ無くなるぞ!聞き間違いか?
「百万ギャリーで間違いないか?」
「はい。百万ギャリーです」
神父もシスターも満面の笑みだ。
だから何度も聞かれて、聖者様と呼ばれ、高待遇だったのか……。現金な聖職者だ。
「これに丁度百万ギャリー入ってる……」
国王からもらった報奨金が……。
神父が、ひったくりのように素早く金の入った袋を奪った。
「確かに!ご馳走様です!」
神父め!心の声が漏れてやがる!
それから宿屋で受付を済ませ、シャイニングダブルモフと別れた。