今回の功績が認められたのよ!
ホッと一息付いたところで、唐突に背後から大声が聞こえた。
「見ろよ!あいつレイビをテイムしてるぞ!」
「お子様にはお似合いじゃねぇか!」
隣のテーブルに足を乗せて、椅子にもたれかかって座っている冒険者に笑われた。いつもの奴らだ。
「ご主人様……」
「ルゥルゥ相手にしなくていい」
「アスカの言う通りだ。気にするな」
「そうだよ。言いたい奴には言わせておけばいいよ」
ルゥルゥが男達を睨み付け、ジャックバッシュとアーヴァインが呆れ顔で首を振る。ここで突っかかればイベントが発生するのかもしれないが、わざわざ自分からそんな事はしない。今日は疲れたし……って、あれ?シャロンさん?ちょっと待って……。
止める間も無くシャロンが立ち上がり、ユラリと男達のテーブルの前まで移動して本日二度目の仁王立ち。しかしどこか変だ。何よりもシャロンの目が怖い。男達を冷ややかな目で見ているが、その奥には殺意が宿っている。
「貴方達……」
「シャロン大丈夫。俺は気にしてないから」
そう。俺が馬鹿にされただけだ。我慢すれば良い事さ。ここは穏便に済ませたい。
「貴方達、今……何か……ほざきまちたか〜?」
「俺の声が耳に入ってない!?また暴走してる?」
「え?シャ、シャロンどうしちゃったの?」
アーヴァインも困惑している。
「キュウ殿を愚弄するゴミは処分して差し上げまちゅ」
俺じゃなくてキュウの為に怒ってた。
「処分しちゃダメだよ!」
「そうだ!落ち着け!」
ちょっと茶化しただけの相手を処分するなんてやめてくれ!
剣に手を添えた。シャロンは本気だ!ジャックバッシュが慌てて止めるが怒りは収まらないようだ。周囲に冷気が集まる。
こぉぉぉぉ!とか言ってますよ!口から冷気が漏れ始めましたよ!男達が白くなってますよ!
「アスカ!何とかしてくれ!」
「えっ!り、了解!こうなったら、キュウ頼む!」
『キュウ!』
キュウをシャロンの目の前に掲げた。
「あ〜ら〜!キュウ殿ぉ〜!モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ」
「今だ!」
キュウに夢中なシャロンを、ジャックバッシュと一緒に担ぎ上げ、素早く自分たちの席へと戻った。
男達は無言で足をテーブルから下ろし、体中に付着した霜を振り払う事もせず、シャロンを見つめたままガタガタと震え始めた。
「か、勘弁してくれ!お前のモンスターが強いのは分かった!」
シャロンをモンスターだと勘違いしている……。
「こ、これは渡すから、あの恐ろしく冷たい目をしたモンスターを二度と近付けないでくれ!」
男は、銀色の首輪を渡して来た。
何かのクエストが発生して、勝手に終了したみたいだ。
おそらく、モンスターを仲間にした時に発生する緊急クエストだろう。しかしそれはシャロンの暴走で強制終了した。
「シャイニングダブルモフ……恐るべし」
しばらくするとシャロンも落ち着きを取り戻し、真っ赤な顔で平謝りされた。
そんなシャロンから、モンスターをテイムした場合は登録が必要だと教わり、早速受け付けへ行きキャッシュに手続きをしてもらう事にした。
受付では、キャッシュから黒革の首輪を提示され、他に無ければそれをキュウに着けるように言われた。首輪は、モンスターをテイムしている印とのこと。特に街中では必須なんだとか。そういえば、さっきの緊急クエスト?で手に入れた首輪がある。黒革の首輪は断り、銀色の首輪をキュウに装備させた。キュウはとても嬉しそうだ。
キャッシュに「本当にテイマーだったのね」と言われ、キュウの登録手続きをしてくれた。
「良かったなキュウ!」
『キュッキュ〜』
「ありがとうキャッシュ」
「いいえ、どう致しまして。ギャリバングの恩人さん」
アーヴァイン達から話を聞いたようだ。
「恩人だなんてよしてくれよ」
「そんなに謙遜しなくてもいいわ。アスカがいなければ、もっと大変な事になってたそうじゃない」
「いや〜そんな〜」
「頑張ったわね。そうそう、ギルドからアスカに報告よ」
何だ?報酬か?それとも、功績が評価されてランクアップって話か?この流れはそれしかないだろうな。
「どんな報告?」
「ええ、落ち着いて聞いてちょうだい」
「心の準備はできてるよ」
「実は、アスカが受けたクエストの期限が切れてるの」
「……は?」
薬草採取のクエストか?忘れてた……。
「だからアスカは、ペナルティとしてランクダウンする事になるわ」
「ランクダウン!?」
「ただ……アスカは今、最低ランクのGランクだからこれ以上は下がらないの」
「はあ……」
「正規では冒険者を剥奪されるんだけど、でも今回は特別にHランクが設定されたわ」
「え、Hランクゥ?最低より下が出来たって事か!?」
「そう!良かったわね!」
「良かぁないだろ!誰よりもランクが下って事じゃないか!」
「でも、剥奪じゃないのよ?」
「お、おう……それは……良かった」
「でしょ?今回の功績が認められたのよ!」
「おかしくないか?功績が認められたら普通ランクアップするもんだろ?」
「どの普通を言ってるのか分からないけど、剥奪されなかっただけ良いんじゃないかしら?」
「そりゃあそうだけど……」
「それに、ギルドがアスカだけのために、新しくランクを設定するなんて前代未聞だわ!凄い事なのよ!」
「前代未聞……」
こうして俺は前代未聞のHランクを獲得した……。
「トホホ……」
トホホって、何とも言えない気持ちになったら、心の奥底から自然と出るもんなんだな……。
『キュウ?』
「心配してくれるのか?……大丈夫だ!俺にはキュウがいるから」
心強い仲間だ。
こんな事で落ち込む必要は無い。顔を上げてみんなの元に戻った。
「登録は済んだみたいだな」
「ああ、これで俺にも仲間が増えた。よろしくなキュウ」
『キュ〜!』
俺の仲間は、ゴールドウルフ族のルゥルゥと、イチビのキュウだ。
「ルゥルゥに加えてキュウも仲間になったから、そろそろパーティー名を考えないとな」
「その事でちょっと話があるんだけど……いいかな?」
ん?どうしたアーヴァイン?柄にもなく神妙な表情で。
「実は……」
実は?……みんな黙りこくってどうしたんだ?キュウを仲間にしたらダメだったのか?
「私から話します!」
「え?ルゥルゥ?」
ルゥルゥが、意を決した表情で俺を見ている。
「どうしたんだ?そんなに神妙な……」
と言ったところで、ルゥルゥが被せ気味に言った。
「私は、シャイニングダブルモフに加入します!」
「ああ…………え〜〜〜!!?」