御意
それから、結局俺も一緒に国王の元へ向かい事の顛末を報告した。
ランが国王達を操っていた事。
ギャリバングの民衆をも操っていた事。
左腕の事。
それを探させようとしていた事。
妖精樹の事。
モンスターが暴れた事。
地下にドラゴンがいた事。
ヴァイラスピンクが現れた事。
ランがモンスターになった事。
そして、ゼルバリウスがモンスターになった事……。
勇者一行は、謎の女性ヴァイラスと強力して、プライマリーを退けた事を評価され多額の報奨金が支払われた。
そのアーヴァインは今、ジャックバッシュに担がれている。酔剣を使った反動で、体が一切動かないそうだ。本人曰く、酒を飲んで寝れば治るとのこと。ドラゴンを倒したんだ。今日ぐらいは好きなだけ飲ませてやりたい。
そして何故か、俺が影の功労者だとさ。プライマリーの左腕を持っていたため、最悪の事態は免れたという事だ。
そしてそのまま緊急会議が開かれた。何故か俺もそこに呼ばれている。この時、嫌な予感がしたんだ。
会議の議題は、今後その左腕を誰が持つかという事だ。
勇者一行が持つべきだ。と、宰相や大臣達が言う一方で、プライマリーと戦うのであれば奪われる可能性がある。城で封印を施し厳重に保管するべきだ。と、アーヴァイン達が反発した。しかし騎士団長は、城での保管は論外だとし、会議は平行線を辿った。
勿論、俺も持つのは嫌だ。俺はこの先必ずプライマリーと戦う。その時、ポロリと落としてしまった。では洒落にならない。ま、その心配も無いだろう。話は振られないし、意見を求められる事もない。俺が持つ事になるとは到底思えない。静観を続けよう。
しかし、長時間の会議で疲れが見え始めた頃、静まり返ったタイミングでキュウが鳴いた。
『キュウ』
「ん?今のは?」
「えっ!?す、すみません……え〜と……お腹が鳴りました!はは……お腹すいたなぁ……はは……」
「そうだ!アスカが持ってたら良いんじゃない?」
アーヴァインこの野郎!俺を巻き込むな!
宰相が髭に触れつつ俺を見た。
「ほう……それも一理あるな。あれ程の力を持つプライマリーが、探し当てる事が出来なかったのには何か理由があるやもしれん」
何も無いよ!
「しかし、出自も分からぬ小僧に持たせるのですか?」
そうだ!騎士団長もっと言ってくれ。
「それに弱い!」
うぉい!
「だから良いんじゃないかな?そんな人が持ってるとは思わないでしょ?」
「左腕は俺たちが持っていると噂を広めれば問題ない」
ジャックバッシュやめてくれ!
「それは名案ですな!」
どこが名案だよ!
「アーヴァインが持ってた方が良いだろ?」
勇者が持てよ。
「さっきも言ったけど、戦うとなれば負ける可能性もあるんだよ。それに、マジックバッグに入らないんだよ」
「生きてるって事か?」
「そうみたいだね。だからアスカ。よろしく頼むよ」
……仕方ないか。まぁでも考えてみれば、一番強い俺が持つのが妥当だろうな。
「分かったよ」
「決まりじゃな!それではアスカとやら、それを持って、どこへなりとも好きな所へ行くのじゃ」
今のは要するに、宰相が言いたいのは、左腕を持ってさっさとこのギャリバングから出て行けと言いたいのだろう。体の良い厄介払いができたな!言われなくても出て行くさ。そして、プライマリーを見つけてサクッと終わらせる。
そうと決まれば、言ってみたい言葉がある。言わせて貰おう。
「御意!」
この狭い世界で、逃げる場所は限られてくる。おそらく妖精樹があるダンジョンだ。
あ!そうそう、ナレーション曰く、この世界に来た時に初めて見たミニ世界樹が妖精樹で、その妖精樹が自己防衛のためにダンジョンを作ったらしい。
ちなみに、その妖精樹のある場所は既に伝えてある。調査員を向かわせたらしいから、もう直ぐ報告に戻って来る頃だろう。
「失礼致します」
噂をすればだな。騎士が戻って来た。口元を手で隠し、騎士団長の耳元で囁いた。
「何っ!?妖精樹が……無い?」
「えっ!?」
妖精樹が無くなっただって?
「妖精樹が無いとはどう言う事だ?」
「アスカとやらが嘘をついていたのか?」
「嘘じゃありません!俺は確かにこの目で見ました!」
そう、嘘じゃない。本当にダンジョンの奥にあったんだ。
「実は、彼が言う通り妖精樹の痕跡はありました。しかしながら、既に抜き取られていました」
「何っ!?プライマリーが持ち去ったのか!?」
「誰が抜いたのかは分かりませんが、おそらく……」
「何のために持って行ったんだろうね?」
アーヴァインが俺を見た。
「そこでどうして俺を見るんだよ!俺は知らない!」
「ですよね。ずっと隠れてたんですから」
シャロンが俺から目を背けた。
「うぉい!その言い方は棘があるぞ!」
「でも方向性は決まったんじないか?」
ジャックバッシュが宰相を見た。
「そうじゃな……妖精樹はプライマリーが持ち去ったと考えて良さそうじゃ。何のために持ち去ったのかは分からぬが、可能性があるとすれば、傷付いた体を癒すため、若しくは自身の強化のため……であれば、急ぎ騎士団はプライマリーの痕跡を辿るのじゃ。必要であれば、ギルドへの強力依頼を出すとしよう。そして、勇者一行は独自にプライマリーを探すのじゃ。こちらで得た情報は適宜伝える。魔王討伐と並行しての重要任務となる。アスカとやらは、どこへなりと好きなところへ行くのじゃ。決してプライマリーと戦おうなどと思わぬ事じゃな」
「御意!」
会議は終了。解散となった。
「ふぅ……お疲れ様だったね」
「本当だよ!どうして俺が、プライマリーの左腕を持ってないといけないだよ!」
「それが一番良いからだろ?」
「私もそう思います。ところでルゥルゥ殿はどちらですか?」
「あっ!!」
何か忘れてると思っていたのはルゥルゥの事だった。
俺は猛ダッシュで城の外に出た。地面には大穴が空いているが、敷地の端にある馬小屋は無事だった。ルゥルゥは、俺の指示通り屋根の上で待っていた。
平謝りをしたが、冷たい視線を向けるだけで何一つ喋ってはくれなかった。