隠れてたんだ
俺は今、隠れている。
「静かにしててくれよ」
『キュウ!』
「し〜!」
ここは食堂。現在クールタイム中だ。
『カツン……カツン……カツン……カツン』
そして今、何者かが近付いて来ている。
「ヤバイ!何か来る!あの樽に隠れるぞ!」
『キュウ!』
タルの中身はジャガイモだ。全て出して中に入る。
『カツン……カツン……カツン……ガチャ……キィ……バタン!』
(入って来た!静かにな!)
(キュウ)
この足音はモンスターじゃないはずだ。となると誰だ?味方か?それとも敵か?
足音は真っ直ぐこちらへ近付いて来る。
(キュウ変化出来ないか?)
(キュウ……)
ヴァイラスピンクに変化して欲しいところだが、何故か変化出来ないみたいだ。俺と同じようにクールタイムでもあるのだろうか?あとでナレーションに確認しよう。
『カツン……カツン……カツン……』
足音は二人分。まさか、プライマリーとゼルバリウスじゃないよな?
足音が止まった……。
樽の蓋が開いて声をかけられた。
「おい!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
悲鳴が自然と出た。
「ここにいたのか」
声をかけて来たのはジャックバッシュだった。
「……お、おう!ジャックバッシュじゃないか……驚かすなよ」
キュウはショルダーバッグに飛び込んで身を隠した。
「こんな所で何してるの?」
アーヴァインだ。ジャックバッシュが背負っている。
「見て分かるだろ?隠れてたんだ」
俺の答えに、シャロンは足元に散らばるジャガイモを見てため息をついた。
「中身が外に出ているので、中に入りましたと言ってるようなものですよ」
シャロンは相変わらずの無表情だ。
ジャックバッシュがアーヴァインを背負ってるから、足音が2人分しかなかったのか。
「い、良いんだよ!相手はモンスターだからさ」
「それもそうだね。ずっと見つからなかったみたいだから作戦成功だよね」
「ずっとじゃないぞ!」
ずっととは心外だ。俺が何もせずに、ただ隠れていたって事になってしまう。
「ところで、他に誰か来なかったか?」
ジャックバッシュが効いているのは、ヴァイラスピンクの事だろう。誤魔化さないと。
「ん?ああ……来た……かな?ピンク色の女の人がモンスターと戦ってた」
「で?彼女はどこに行った!?」
「えっと……役目は終わったとか言って……その裏口から出て行ったけど……」
「……そうか……行ってしまったか」
「一言お礼を言いたかったね」
「私達……いいえ、ギャリバング全ての恩人です」
気にするな。
と言ってやりたい。でも言ったら消滅してしまう!
「何者だったのでしょうね?」
「そうだね。見たこともない格好だったよ」
「一目素顔を見たかった……」
それ俺だよ!
と、言いたい!でも言ったら消滅してしまう……。
「それじゃあ、ここはもう安全だね。モンスターもいないみたいだし、王様に報告しに行こうよ」
「私が行きます。アーヴァイン殿とジャックバッシュ殿はここで待っていてください」
「いや、俺達も行く。アスカも来いよ」
「お、俺はいいよ。何もしてないし」
「そうですね。見た所、ずっと樽に隠れてたみたいですし」
シャロンは無表情だが、悪口のように聞こえる。
「だから、ずっとじゃないって言ってるだろ!」
「ふふ……無事で良かったよ……」
アーヴァインが目をつぶり、ガクリと頭を垂れた。
「アーヴァイン!」
「……大丈夫。気を失っただけだ」
「急ぎましょう」
「分かった。行くぞアスカ」
「俺は行かないって……」
『キュウ』
ショルダーバッグからキュウが顔を出した。
「ん?何か言ったか?」
「い、いや、なんでもない!早く行けよ」
(隠れてろ)
(キュウ……)
「それは!」
「嘘でしょ!」
ジャックバッシュとシャロンがショルダーバッグを見て驚愕している。キュウが見られた!?
「こ、これは!ち、違……」
「「プライマリーの左腕!」」
「ん?」
ショルダーバッグから、ミイラのようにカラカラになったプライマリーの左腕がはみ出ている。キュウが潜り込んだ時に押されて出て来たみたいだ。
「やっぱりお前は最高だな!」
「それがあればまだ勝ち目はあります!絶対に渡さないでください!あれ以上強くなられたら……」
「その時は俺達が強くなればいい」
「そうですね」
良かった。キュウは見られてないみたいだ。
「それじゃあアスカも行くぞ!そいつを持ってるんだから断れないぞ」
「……分かったよ」
何か忘れている気がする……が、まあ良いか。