必ず助けてやる!
クローゼットの中で息を潜めること5分。
『説明しよう!変身可能である』
「待ってました!それじゃあ行こうか!」
3階で最後だ。
「気配感知!……1箇所に集まってるな。手間が省けた!」
階段を駆け上がり目的の部屋の前に辿り着いた。
「ヴァイラス!」
『説明しよう!デーモンスパイダーの魔石に秘められたスキル、【素早さ+2】【MP+2】【糸】を取得可能である』
「糸?」
『説明しよう!糸を取得した』
「あ!いや!違うんだ」
つい声が漏れてしまった。それに反応して、ヴァイラスピンクに変身した。
「俺も糸を出すようになったのか……モンスターに一歩近付いてしまったな。でもこれは使えるかもしれない。相手を見えない糸で捉えたり、糸を伝って高所から降りたりできるんじゃないか?……待てよ、糸はどこから出るんだ?まさか尻からじゃないよな!試してみるか」
試しに手の平を突き出した。
「糸!」
手の平から糸が飛び出した。
「おぉぉぉ!……お?」
ただ、思っていたよりも太い。
「まるでロープだな……っていつまで出るんだよ!」
幾つもの細い糸が絡まり、ロープのような太い糸が手の平から勢い良く出続けている。それは、通路の端まで届きそうだ。
「おいおいおい!ストップ!ストォップ!」
糸の精製が止まって地面にドカリと落ちた。
「ヴァイラスだからスキルの威力が増し増しだ。糸は使えないな……さてと、ヒーローポイントは1000か。15分もあれば余裕だな」
空いているドアを除くと、10匹のウインドウルフが集まっていた。
「何してるんだ?」
ウインドウルフが邪魔でよく見えないが小さな何かを繰り返し攻撃している。
「誰かが襲われてる!子供か!?今助ける!」
しかし1匹のウインドウルフが、ひと鳴きして子供にジャンプして襲いかかった。このままじゃ救助には間に合わない!
「スピードスター!」
俺だけが、まるで早送りでもしているかのように素早く動き、瞬く間にウインドウルフとの距離を詰めた。しかし既に、床とウインドウルフとの距離は残りわずか。攻撃対象の人物は無事か?……人物じゃない!!
「レイビ!?」
中央でうずくまっているのは、人ではなく白くて小さなレイビだった。あれは確か、オークションで見た亜種とか言う、珍しい種類だ。
白いレイビは、複数の爪痕があり、体の殆どが血で真っ赤に染まっている。あと一撃でも受ければ死んでしまうだろう。牙を向き出し飛びかかっているウインドウルフは、弱りきって動けないレイビを噛み殺すつもりだ。
「させるか!」
体勢を低くして拳を放つ。
「喰らえ!パニックスマッシュ!」
低い体勢からのパニックスマッシュは、拳が床に触れてしまった。しかし、そのまま爆音と共に床を削りつつウインドウルフの顎を捉えた。『ぱふ』という可愛らしい音が鳴ったかと思うと、大きく開けていた口が激しく閉まり、牙と血を撒き散らしながら天井を破壊して空の彼方に消えて行った。相変わらず、効果音とエフェクトが全く噛み合っていない。
「結果オーライ!間に合った!大丈夫か!?」
『キュ……キュウ……』
弱々しく鳴いた。傷だらけのレイビは、全身に大量の瓦礫を被っている。
「うわぁぁぁ!ご、ごめん!!」
パニックスマッシュで削った床が盛大にかかったみたいだ。慌てて瓦礫を払い両手に乗せて抱き上げる。小さい。片手サイズ。まだ子供みたいだ。
「ひどい傷だ。可哀想に、こんなにやられて……尻尾が無い!?食いちぎられたのか!」
『キュウ……』
尻尾を食い千切られたのかと思ったが、その痕跡は無い。
「そうだった。レイビには元々尻尾は無かったな」
変わった生き物だ。よく見ると狐のような顔をしている。
しかし、人間だと思って助けようと飛び出したが、モンスターとなれば助ける必要は無いのかもしれない。足元には傷だらけのレイビが数匹生き絶えている。
『キュ……』
可愛い……俺を見て安堵したのかレイビは気を失った。決して瓦礫が当たったからじゃない!俺がとどめを刺した訳ではない!出血のせいで気を失った……はずだ。
「おい!しっかりしろ!」
心臓は動いている。まだ生きているみたいだ。良かった。しかし血を流しすぎている。左目も潰れている。このままでは危険だ。死んでしまう。何度も言うが、決して瓦礫が当たったからじゃない!
「ポーションはもう無いし回復スキルも持ってない。俺の体力を分けてやれたら良かったんだが……ポーションを探しに行くしかない。待ってろよ!必ず助けてやる!」
モンスターだろうが関係無い。助けると決めたんだ。しかし、レイビは虫の息だ。時間が無い。
「死ぬな!」
その時、突如レイビが淡く輝き始めた。