ようこそ!ギャリバングへ
「ああ……うぅ」
なんて事だ。これで俺も奴隷……。
「これは今回の報酬です」
仮面の男ヒトツメが懐から袋を出してギザールに渡した。俺に対する興味を失ったのか全く見向きもしない。
「こ、こんなに!良いんですか?」
「最高に美しい物が見れましたので。次もまたお願いしますね。そうそう……」
ヒトツメが振り向いた。
「貴方は、自分の足で牢に入ってくださいね。そして絶対にそこから出ないように」
再びヒトツメはギザール達へと向きを変えた。
「さて……後はお任せします。それではさようなら」
仮面の男は踵を返し扉を開けて出て行った。
「だははは!笑いが止まらねぇなぁ」
「だな。こんなに楽な商売はやめられない」
扉が開きっぱなし。男達は金に夢中。チャンスだ!今のうちに逃げてやる!しかしやはり年には勝てない。体が思うように動かない。運動不足がここで足枷になるなんて。右川君の忠告を聞いておくんだった。
「どこに行くんだ?」
見つかった!だが追ってこない。良いぞ!このまま……。
「ぐわっ!」
胸に激痛が走り、その場に倒れ込んだ。
「ヒトツメの旦那の命令に逆らうと死ぬぞ。牢に入れって言われただろ?」
「奴隷の烙印を押された奴は、主人の命令が絶対だ。先に言えってか?聞かれてないからな!だははは!」
ぐっ!胸が焼けるようだ……ふざけやがって!痛みで動けない!
「ううっ!」
再び激痛が走る。
「おいおい死にたいのか?早くした方がいいぞ」
「ハァハァ……」
悔しいが仕方ない。這いつくばって牢屋を目指した。
「うわぁぁぁぁ!!」
胸の激痛が更に強くなる。何故だ!牢屋に向かっているのに痛みが止まらない。
「聞いてなかったのか?ヒトツメの旦那は、自分の足でって言ったよなぁ」
そんな!歩けって事か?立てるわけないだろ!
「ほらほら!早く立たないと死んじまうぞ」
立つしかない!
「ぐぅあああぁぁ!!」
死に物狂いで立ち上がり、ニタニタと笑う2人の間を通り、足を引き摺って牢屋に向かった。
「おっと悪い」
ギザールが俺に足払いをした。
「うっ!」
バランスを崩し顔から倒れてしまった。
「うわぁぁぁ!!」
再び激痛が走る。
「だははは!寝てちゃダメだろ」
くそっ!くそっ!死んでたまるか!
「がぁぁぁぁ!!」
涙と涎を撒き散らし、何とか立ち上がった。右の視界が赤くなった。きっと倒れた時に瞼を切ったのだろう。その血が目に入ったんだ。だがそんな事はどうでもいい。今は牢屋に入る事が先決だ。
「ハァハァ……」
「大丈夫か?辛そうだな?手伝ってやろうか?」
大丈夫な訳ないだろ!
「マルコイが心配してるだろ?聞こえないのか?」
うるさい!誰だよマルコイって!小太りの男の事か?見た目通りの名前だな。だが今はお前らの相手をしている場合じゃないんだ。
「手伝ってやるって」
マルコイが俺を支えると胸に激痛が走った。
「ぐぁぁぁぁ!」
「おっと悪い。自分の足で、だったな。だははは!」
マルコイを振り払う。
「マルコイが心配してるってのに。そうだ、これをやるよ」
突然左の耳に激痛が走った。
「ぐあぁぁぁ!!」
耳の中央に何かが突き刺さっている。抜いて確認すると、錆びた釘だった。
「いいぞギザール。耳に穴を開ければ後ろ向きでも聞こえるもんな」
「く、くそっ!」
「今度はマルコイの声がちゃ〜んと聞こえてるみたいだなぁ」
左耳を押さえるが血が止まらない。釘を投げ捨てた。
「気に入らなかったのか?そのプレゼント。だったら今度は外せないのをやるよ」
ギザールに腕を掴まれた。骨が軋む音がする。とんでもない握力だ。俺のレベルが1だからか?これがこの世界のレベルの差か。抵抗虚しく、耳を押さえていた手を無理やり剥がされ、再び耳に何かを刺された。
「ようこそ!ギャリバングへ」
「ぐあぁあぁあぁぁ!!」
同じ場所に激痛が走る。同時に耳元でガチャリと音がした。そして乱暴に腕を離された。
耳が重い。今度は引っ張っても外れない。これは……。
「ハァハァ……南京錠か!?」
牢屋の扉に掛ける南京錠だ。
「だははは!良く似合ってるよ」
早く牢屋に逃げ込まないと、こいつらに殺されてしまう。
「ブハァブハァ……ゼハァ」
死に物狂いで牢屋に入った。
「お疲れさん。そこから絶対に出るなってのは覚えてるよな?くくっ」
牢屋が閉められた。しかし鍵は俺の耳に付いているため掛かっていない。そうか……掛ける必要が無いんだ……。
「商品に傷が付いてしまったな」
「問題ない。コイツの行き先はもう決まってるんだ」
「だな。だははは!」
AI特有の不気味な笑顔が恐怖を加速させる。しかし自分の顔も自然と笑顔になって行く。絶望を感じているんだ……。
俺は再び気を失ってしまった。