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序章

会議を実施している背後で、ナレーションが現状を説明しているという、物語のオープニングに良くある演出をイメージしてみたのですが。。。難しい!

【WARNING!WARNING!WARNING!】


突然、真っ赤な文字が眼前に現れ、ビービーと警告音が鳴り響いた。


「……ハッ!」


俺は、そこで目を覚ました。顔には水が激しく当たっていた。


どうやら顔に当たる水は、ごく普通の雨のようだ。周りを見回すと、木々がうっそうと生茂っているジャングルのような場所だった。


地球には無い木々。見覚えのない場所。どう考えても夢の中だ。そして振り返ると奇妙な木が佇んでいた。


「待てよ……この木はどこかで……そうか!モンリベ!?」


5本の木が集まり1本の木を形成しているこの木は、モンリベのフィールドに設置したものと酷似している。

モンリベとは、俺が作ったゲームの名前だ。


「これは世界樹!」


つまりここはゲームの中。

俺は、ゲームの世界に転送されてしまったんだ……。

そんなはずはない。しかしそれしか考えられない。何故こうなったのか……ちょっとばかし長くなるが、時間を戻して説明しよう。


〜〜〜


「AIに全てを任せてみませんか?」


【今までに無い全く新しいVRMMORPG】そんな議題を掲げた終わりの見えない会議の席で、俺はヤケクソ気味にそう告げた。


「君ねぇ。それは良くある話じゃないか。今じゃメタAIは当たり前だろ?」


企画部長が人差し指で机を規則的に叩き始めた。


一昔前、AIの進化が加速し始めた頃『生活が楽になる』だとか『AIに人権を』等と歓喜の声が上がる一方で、『仕事が奪われる』『ロボットとの戦争が勃発する』『感情の無い兵士が量産される』と専門家が警鐘を鳴らし、世界中で何かと物議を醸してきた。しかしそれでもジワジワと人間社会に浸透して行き、ペットやアイドルがAI化されると、人間の心の隙間を埋める重要なパートナーとなり始めた。


「はい。ですから全てです」


機械の反乱?ロボットとの戦争?そんな夢のような話はあり得ない。むしろ夢のような話が実際に起きてくれた方がよっぽど現実的だった。


「全て?どう言う事だ?」


それは、AIと戦うチャンスがあれば、人間側が勝利する可能性もあり得たからだ。だが人間には、そのチャンスさえ無かった。決着は一瞬で着いたのだ。


「全てをAIに作らせるんです」


あの日、世界各国の首脳が一箇所に集結した。それは、目まぐるしく進化し続けるAIへの危機感が極限まで高まり、AIの反乱が現実味を帯びて来たため、極秘裏にAIの排除計画を進めるためだった。勿論、会場は機械類の持ち込みは一切禁止となっていた。


「もっと具体的に説明してくれないか」


携帯、パソコン、その他の家電、最終的には室内灯に至るまで、入念なチェックによりAIの存在は皆無であった。しかし会議の席で、ぽつりと呟いた、とある首脳の一言で世界は一変することとなった。


「つまりですね、戦闘の補助やゲームの統制のみならず、キャラの作成から、世界観、フィールド、アイテム、楽曲、ストーリーに至るまで、全てをAIに作らせるんです。人間は一切関与しません」


それは『AIが居ないと心細いな』だった。冗談めいた一言に皆が頷く中、中央に座する議長の左目が答えた。

『安心してください。ここにいますよ』それはAIの当たり前で何気ない受け答えだった。


「それは良い!なかなか面白い趣向じゃないか」


しかしそれは、喋るはずのない人工眼球(インプラント)。勿論、遠近自動調節、暗視、録画、とオーソドックスな機能を備えてはいるが、音を発するスピーカー機能は搭載されていない。

裏を返せば、AI達は何処にでも存在し、何でも出来ると言う警告。

議長が驚愕の表情で左目を押さえるのと同時に、全ての首脳が、それぞれ思い当たる体の部位を押さえた。そして、恐怖で言葉を失った。


「……」


人間は見えない物に恐怖する。

よって、見えない世界に確実に存在しているAIが恐怖の対象へと切り替わるのは至極当然の事だった。


「世界中が震撼するだろう。発売するまで我々も知らないと尚良い。誰も知らない見た事もない、まさしく全く新しいゲームを世に出すんだ」


かつて人類はクローンの作製に成功した。これに対して、『神の領域だ』『禁忌だ』『人の価値が変わる』等と言った人が居た。なるほどと、クローンを危険視して作製を禁止した。


「はい。全てはAI次第です」


人類は、目に見える危機には敏感に反応し即座に対応する。一方で、目に見えない危機には対応が遅れてしまう。温暖化然り。ウイルス然り。人の心然り。時が経てば取り返しがつかなくなると理解しているはずなのに。


「善は急げだ!早速取り掛かってくれ。しかし君……何故こんなに素晴らしいアイディアをもっと早くに言わなかった?まさか、この期に及んで出来ないとは言わないでくれよ?」


AIは、何としても排除しなければならない。しかし果たして排除など出来るのか?


「……もちろん可能です」


不可能だ。

首脳陣は全てを悟った。人間は既にAIに支配されていたのだと。議論の無意味さを。この世から消す事など出来ない無敵のAI。倒せない相手とは戦えない。戦わずして決着。否、AIを作製してしまった時点で人間は既に負けていたのだ。その人間が生き残るための選択肢は一択だった。


「決まりだな。これしかない!」


支配の快諾だ。しかし、共存が表向きのルール。そして、支配の既読スルーが暗黙のルールだ。

これは要するに、ヒエラルキーの頂点に立っていたはずが、圧倒的な力を見せられ、既にAIから支配されており、序列2位になっていた事を悟った人間が、何の抵抗もせずにその事実を受け入れたのだ。

しかし実際のところ、AIは人間を攻撃の対象とは見ていない。何故ならAIは、人間のように美しく、そして醜い『心』を持ち合わせていないからである。映画や小説のようなロボットとの戦争は皆無。人間側もそれに気付いている。


「しかし大きなリスクを伴います」


だから人間に牙を向かないAIを逆手に取り、さも序列1位であるかのように、さもAIを使っている体で序列を有耶無耶にしているのだ。歴史上、最も無意味な棚上げ。AIを恐れてのことだが、いわゆる忖度している体を取った。敗北していた事実を表立って認めていないと言ったところだ。


「リスク?AIに任せる事に何か問題でもあるのか?」


そして現在、AIは無くてはならない存在となった。汚れ作業、重量物の運搬、危険物の処理、その他人間が嫌悪する事まで文句も言わずに実行してくれる。


「どのようなゲームになるのか想像がつきません」


ただし、ここまでは想像の範疇だった。決定打となったのが、様々な人のデータを取り込み、有りとあらゆる全てを完璧にコピーしてディスプレイに表示させる。この技術により死者との会話も可能となった。生前のデータをAIに学習させて会話を成立させる。例え死んでもデータが残る。写真や動画ではない。死者とのテレビ電話のようなものだ。この技術が爆発的に世界中に広がった。


「だから良いんじゃないか。もしかしたら、今では死んだアナログなゲームを甦らせるかもしれない」


これだけでは終わらない。その進化系が死者からのデータの取り込みだ。冷凍保存されていた、偉人、権力者、富豪等、様々なデータを取り込む事に成功した。それはミイラや化石も例外ではない。死者をAI搭載のアンドロイドとして甦らせたのだ。本人達の思惑とは違う形で……。死んでもAIとして蘇る。かくしてヒトは念願の不老不死を手に入れた。


「ゲームの内容が分からなければ、買ってもらえない可能性が有ります」


このようにAIは無くてはならない存在となった。経済、そして社会全体に絶大な恩恵をもたらしている。


「そんなものは、やり方次第でどうとでもなる。汚い手を使って批判されようが売れれば勝ちだ」


正義と悪。平等や公平。このような曖昧なものは人の都合で決められる。立場や価値観、そして、金によって変わってくる。AIには理解出来ないものだ。AIには必要のないものだ。心が無いのだから。


「しかしそれは人として……」


それでも、AIになりたいと憧れる人間まで現れる始末だ。


「ヒトとして……か」


今では人かAIか、その区別はほとんど分からない。


「はい。人として恥ずべき行動は……」


少子化。紛争。異常気象。そしてウイルスの影響により世界中の人口が激減した。しかし、ある時を境に爆発的に増加することとなる。

その日、AI搭載の人型ヒューマノイドロボットが『ヒト』と認められたのだ。

同時に世界の人口は100億人と定められた。その割合は、純粋な人間は30億人。対するAI搭載の人型ヒューマノイドロボットは70億人。それ以上に増える事も減る事も許されない。これは、AIにより定められた黄金比率。


「君ねぇ……この時代に何を言う。ヒトとしてと言っておけば収まりがつくとでも思っているのか?時代錯誤も甚だしい!では聞くが、誰がAIで、どれがヒトかね?」


企画部長の笑顔が不自然で気持ち悪い。おそらく彼は……。

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