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アメリアと思い出

 ドアがノックされ、ティーポットやカップが乗ったカートを押してコニーが部屋に入ってきた。

 アメリアの笑顔に気付いたコニーが明るい声を上げる。


「お嬢様、なんだか嬉しそうですね。ルイス様からのメッセージカードをご覧になっていたのですか?」

「あ、ええと。そういえばコニーに話したことなかったかもしれないわね。これはね、昔からのお守りみたいな、大切な手紙なの」

「お守り、ですか?」


 王宮で侍女をしていたコニーがこの屋敷で働き出したのは、ナタリアが嫁いだ後だ。なので幼いアメリアには会っていない。

 前任の侍女であるロエナはアメリアが幼い頃から側にいたので、ロエナからの引き継ぎの際にいろいろと聞いているかもしれないが、説明をすることにした。


「私、幼い頃は緊張しやすくて人見知りで地味な容姿だったから、パーティーとか社交場とか、人が多い場所がすごく苦手だったの。ナタリアお姉様と比べる人たちもいるし、自分自身の存在を否定されているようで、悲しくてみじめで仕方なかったわ」

「お嬢様……」

「やだ、コニーったらそんな顔しないで。家族やウィンダム家で働くみんなやルルがいてくれたから、パーティー以外では自分らしくいられたから大丈夫よ。そうそう、そのときにはルイスやクラウド様とも普通に話したり遊んだりしていたなぁ」

「私もその時、ロエナさんと一緒にお嬢様にお仕えしたかったです! お嬢様のお側にいられなかったことが悔しいですわ!」


 コニーの真剣なまなざしと熱のこもった声音に、アメリアは心が温かくなった。


 ロエナがコニーをアメリアの専属侍女に推薦した理由がよくわかる。

 主人に忠実で、仕事に責任を持ち、相手の心を思いやることができる。

 コニーが侍女になって一年半、彼女の献身的な働きにアメリアは信頼を寄せている。バンデス家に嫁いでもコニーが一緒なら心強い。


「ありがとう。当時の私に伝えてあげたいくらい嬉しいわ。この手紙はね、十年前のそんなときに届けられたの。正確にいうと、ロエナから手渡しされたんだけど」

「送り主はロエナさんのお知り合いなのですか?」

「ええと、実はね、今でも送り主が誰か知らないの」

「まあ、どういうことでしょう」


 コニーが困った顔で首を傾げる。

 そうなるのも無理はないと思いながら、アメリアは苦笑した。


「不思議な話でしょう? あるとき、パーティーに行きたくないなぁって憂鬱な気持ちでドレスの準備をしていたら、ロエナが渡してくれたの。手紙を読んでみたら、私を励ます言葉がたくさん書いてあったわ。私、泣きたいくらい嬉しかった。誰かがこんな私を頑張りやとか、素敵とか、思ってくれているんだって」


 その送り主不明の手紙は、その後も我が家のパーティーの前に時折アメリアの元に届けられた。

 封筒の表裏は真っ白、便せんには家の紋章の透かし彫りもなし。

 不揃いながら丁寧に書こうとしている文字とアメリアを励ます内容の手紙を、アメリアはいつしか待ち焦がれるようになった。


 アメリアの優しい微笑みを見て、コニーも表情を緩める。


「そうでしたのね。本当に良かったです。送り主不明な手紙をロエナさんがお嬢様に渡すということは、ロエナさんも差出人から直接受け取っている、ということでしょうか? 規律に厳しく、ウィンダム家の敵には容赦しないロエナさんが認めた人物、とか」

「そうねぇ、ロエナが身元を知っている人には間違いないと思うわ。私としては、パーティーで私を見かけて同情した誰かが送ってくれたのかなって思っていたけど。そうそう、一度だけロエナに送り主のことを聞いたことがあるの」

「ロエナさんは何と?」


 関心を示すコニーに、アメリアは当時のロエナの言葉を打ち明けた。


『送り主の方に口止めされています。字が汚すぎて恥ずかしいから自分の正体を明かしたくない、と。だから字の練習をたくさんして、しっかりした大人になってから、正体を明かしてお嬢様を支えたい、とも話していました』

『ですが、お嬢様が送り主の正体を知りたいならば、もちろんお話しいたしますわ。私は、送り主の彼ではなく、お嬢様とウィンダム家に忠誠を誓っておりますから』


 姉のようでも母のようでもあるロエナの慈しみ深い笑顔を思い出しながら、アメリアは言葉を続けた。


「それで、私は送り主の正体を聞かなかったの。送り主が正体を知られたくないなら、無理に聞くのも失礼でしょう」

「ロエナさんは昔から変わらないですし、お嬢様は昔からお優しいですね。うーん、ロエナさんが『彼』とつい口にしてしまったことから男性で、送り主はお嬢様に近しいお若い方かもしれませんね……あっ、申し訳ありません! お嬢様がお疲れのところ長々と居座ってしまいました。それでは入浴の準備をしてまいります」

「大丈夫よ。よろしくね」


 コニーが深く頭を下げてから、部屋を後にした。


 入浴後、肌触りの良いナイトドレスに着替えたアメリアは、ふかふかのベッドに潜り込んだ。

 そして先程のコニーの言葉を思い返す。


(年の近い男の子か……昔から人見知りだったしあんまり友達も多くないのよね……ああでも、そういえば……)


 アメリアは考え込みながら、眠りについた。




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