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アメリアと手紙

 その後、夜遅くにパーティーはお開きになった。


 アメリアは自室に戻ってお気に入りのソファに体を深く沈める。


「ふう……」

「お嬢様、こちらハーブティーです」

「ありがとう。そうだわ、コニー。ルルと一緒に私のための休憩時間を作ってくれてありがとう。とてもいい気分転換になったわ」

「恐れ入ります。けれど、私はお部屋の外で廊下を見張っていただけですから。ルル様は本当にお嬢様のことを大切に思っていらっしゃるのだと、感激いたしましたわ」


 テーブルにティーカップを置いたコニーがにこりと微笑む。

 アメリアより三歳年上のコニーは一年ほど前からアメリアの専属侍女になった。結婚後、アメリアと共にバンデス家へ付いていくことになっている。


「ルイスとの結婚で、ルルと義理の姉妹になれることは本当に嬉しいのよね。でも、ルイスと信頼した夫婦となれるのか不安で仕方ないわ……」

「うーん、そうですね、ルイス様はお嬢様を大事に思いすぎて、お会いすると緊張されてしまうのかもしれませんね」


 聡明なコニーが言葉を選びながら慎重に答えるのを見て、アメリアは申し訳なくなった。


 十六歳の誕生日に突然ルイスと婚約を結んだと父親から告げられてから二年。アメリアは婚約者のことで悩んでいた。


 領地が隣り合っているバンデス家と婚姻を結ぶこと自体に問題はない。元々良好な関係であるが、事業の拡大や災害の対応など、更に相談して進められるだろう。


 バンデス伯爵夫妻には可愛がってもらっているし、ルイスの妹であるルルとは親友だ。


 アメリアにとってルイスは幼なじみだった。

 愛や恋といった方向でルイスのことを考えたことがなかったが、幼い頃から優しい性格であることは知っている。

 愛情は激しく燃えるだけではない。互いに手を取り温め合い、信頼し合える夫婦関係を築けるかと思っていたのだが……。


「緊張して、あんな芝居がかったキザなしゃべり方になるのが不思議でしょうがないわ。本音を隠しているように思えて、ついこちらも構えてしまうのよね」

「結婚式の準備の打ち合わせは、順調ですよね?」

「ええ。お互い考えていることが似てるからか、そこはしっかり相談できるの。なのに、いわゆる雑談になるとちゃんとした会話が成り立たなくて。私を褒めてばかりで自分のことは話さないし。子供の頃のほうがいろいろ話していたくらいよ」


 結婚式は来月。しかし日常会話は上滑り、一緒に参加するパーティーではアメリアをルルやノーマンの元へ置いて、ルイスの従兄のクラウドと女性たちに囲まれて歓談することもしばしば。

 バンデス伯爵である父親の仕事の一部を受け取ったり、領地の視察を積極的にして領民の困りごとを解決したり、貴族の中でのルイスの評判は高い。

 アメリアへの贈り物はかかさないし、女性と二人きりで会ってる噂も聞いたこがない。


 これは贅沢な悩みなのかしらと、アメリアは思わずため息が漏れてしまう。

 顔を曇らせた主人を気遣い、コニーが明るく声を上げる。


「ルイス様がお嬢様を大切に思ってらっしゃるのは確かですわ。ご覧ください、ヒヤシンスの鉢植えとメッセージカードが届いております」

「メッセージカード、かぁ……」

「あら、鉢植えに汚れが……。お嬢様、申し訳ありません。布巾を取りに行ってまいりますね」


 コニーは出窓に鉢植えとカードを置き、部屋から出ていった。


 アメリアは立ち上がって出窓に近づき、ヒヤシンスの花にそっと触れた。

 まるで星がたくさん集まったようでかわいらしい。バンデス家の庭園の隅に温室があるので、そこで育てられたのだろう。


「きれい……私の好きな青いヒヤシンス。そしてカードには、いつもの言葉」


 呟きながら、鉢植えの隣に置かれたメッセージカードを取り上げる。

 そこには美麗な文字で「愛しい人へ。ルイス」とだけ。


「……愛しい人、ね。私の名前を書いてくれたこと、あったかしら。他の女性にだって出せそうよね……」


 アメリアは複雑な表情でそれを見つめたあと、ベッド近くの小さな棚の前に移動した。


 引き出しを開けると、茶色い大きめの木箱と赤い小さい木箱が並んでいる。

 茶色い木箱のふたを開けると、友人やルイスからもらった今までのカードや手紙が入っている。アメリアは先ほどのルイスからのカードをそこにしまった。


 そして赤い木箱を両手に持ち、ベッドに腰掛ける。

 茶色い木箱より少し古ぼけたこの箱の中には、数通の手紙が入っていた。

 アメリアは数通の手紙の中から一通を選び、中の便せんを取り出す。


 ーーーー君の涙は、この先、君の花を咲かせる。

 ーーーー君の笑顔は、この先、僕やみんなの花を咲かせる。


 お世辞にもきれいとはいえない、読みづらい文字。

 アメリアはうっとりと幸せそうに口元をほころばせ、便せんの文字をそっと撫でた。


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