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アメリアと婚約者

 コニーがドアを開けたが、ルイスは客室の中へは入らない。

 身内や婚約者とはいえ、未婚の女性が部屋に二人いるので、ルイスはドアの近くで立ったままだ。廊下にはウィンダム家の執事長の姿も見える。


「失礼するよ、アメリア……あれ、さっき声が聞こえたのに。ああ、ルル。立ち上がっているけど、体調は大丈夫かい?」


 ルルと同じ金髪に碧眼の凛々しい顔立ちの美青年が口を開いた。その心配そうな声音から、妹の体調を気にかける優しい性格がうかがえる。


「ええ、ルイスお兄様。この通り元気になりましたわ。ところでお兄様、今までどちらに?」

「従兄のクラウドと領地に生えている樹木の取り扱いについて意見を聞いていたんだけど……どうして俺の前なのに、そんなかしこまった話し方をするんだ?」


 ルイスの困惑している様子が、ルルの後ろにいるアメリアにも伝わる。いつもの天真爛漫な妹の変わりようが不思議に思っているのだろう。


 ルルは素知らぬ顔で小首を傾げる。


「あら、わたくしはいつも通りですわぁ。それにしても、お仕事の話……ねぇ? たぁくさんの女性たちが、お兄様やクラウド様の周囲にいらしたように見えましたけどぉ?」

「……ほとんどクラウドのファンばかりだよ。ルルだってクラウドに会うときはいつもきゃあきゃあ騒いでるだろう。それで、アメリアはどこなんだ? さっき声が聞こえたのに」


 にっこり微笑みながらも鋭い眼力で圧をかけるルルに対し、ルイスは若干気まずそうに質問をかわし、客室を見渡した。


「あの、ここに、いるわ」


 立ち上がったルルの後ろで座ったままだったアメリアがおずおずと顔を出した。

 途端にルイスの挙動がおかしくなる。


「ア、アア、アメリア!? んんっ、嗚呼、僕の愛しい人、アメリアではないか! 君の姿を見ただけで僕の胸はいっぱいになってしまうよ! 妹の世話をしてくれて感謝してもしきれない」

「え、ええ、気になさらないで」


  ルイスは盛大に驚いてどもった後、気を取り直して右手で前髪をふわりと払い、左手は胸に当てた。まるで演劇に出てるくる王子のよう。

 キラキラした潤んだ瞳でアメリアを見つめているのに、ルイスはアメリアの引きつった笑みに気付いてはいないようだ。


 口元に爽やかな笑みが張りつけたまま、ルイスが廊下を振り返る。


「それでは少し失礼しても? ああ、ありがとう。ルル、帰るよ。だいぶ元気そうだね」


 ルイスは控えていたウィンダム家の執事長に入室の許可を求めた。

 客室に入ってきた自分の兄の表情にルルがたじろぐ。


「その笑顔こわっ、えっ何で部屋に入ってくるの、きゃあ! やめてバカ兄貴、おろして!」

「やはり仮病か……では愛しのアメリア! 大変申し訳ないが、今夜はこのお転婆娘から目を離さないようにするため、ここで失礼させていただくよ! あとでノーマンにここに来るよう言付けてくるから……」


 ルイスはルルを軽々と肩に担ぎ、ドアへ向った。

 慌ててアメリアがその後を追う。


「あの、ルイス、ちょっと待って!」

「っ! アメリア……!」


 ゆっくり振り返ったルイスが、思いのほか近くにいたアメリアに驚いて言葉を詰まらせた。

 アメリアは親友の優しさを知ってほしくて、耳を真っ赤にしているルイスに言い募る。


「ルルを叱らないで。パーティーで疲れてしまった私を休ませるためにしてくれたことなの。私、とても助かったわ」

「ああ、愛しい君よ、なんて優しいんだ! 妹よ、お手柄だったな! あいつらから愛しいアメリアを離してくれたことを心から感謝するよ! それでは愛しいアメリア! 結婚式の準備の茶会で会おう!

「はあ……様子のおかしい兄で本当にごめんね。また手紙送るわね」


 颯爽と客室を出ていくルイスのウィンクと、心底うんざりしたようなルルのため息が対照的だった。


「ええ、また……」


 アメリアは困ったように微笑んで二人を見送った。

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