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アメリアと夜会

 月明かりのまばゆい夜、ウィンダム伯爵の屋敷では当主の誕生パーティーが催されていた。


「皆様、楽しんでいらっしゃいますか? 父ハロルドのために集まってくださり、ありがとうございます」


 ウィンダム伯爵の末娘のアメリア・ウィンダムが、来客たちに笑顔で声をかける。

 元よりにぎやかな大広間からさらに歓声が上がり、来客たちはアメリアのきらめくような美貌に見とれた。


 白い肌は透明感があり、珍しい淡褐色の大きな瞳は星を砕いたかのように眩い。結い上げた深く青い髪は、今日の銀の刺繍が入った淡い水色のドレスによく映えていた。


「アメリア様、ハロルド様の誕生日、おめでとうございます!」

「お招きいただき光栄です!」

「今日のアメリア様のドレス、人気デザイナーのジェイミーの新作ではありませんか? 素敵ですわ!」


 自分を取り囲む熱気めいた視線と言葉に、アメリアは笑みを深める。


「お褒めにあずかり光栄です。このドレスは、従来の生地よりも軽く張りのあるものを使用しているそうで、歩きやすくそれでいて形もきれいに保ったままなのでお気に入りなのですよ。そうそう、ジェイミーはこの度独立してお店を持つことになったそうですわ」

「まあ!絶対に行きますわ!」

「わたくしも!」


 アメリアの言葉に貴婦人たちや令嬢たちから次々に黄色い声が上がった。


「ウィンダム伯爵領で生産される茶葉は品質が良いのは元より、アメリア様の提案で自然由来の香料を用いたフレーバーティーが格別だそうですな」

「今では入手困難になっているとのこと。妻が一度は飲んでみたいとよく話していてね」

「領地の作業員や職人たちが改良や努力を重ねてくれたおかげで、近々フレーバーティーは現在の倍の量を確保できる予定です。本日ささやかではございますが、林檎の香りのフレーバーティーの茶葉をお土産としてご用意しました。お帰りの際にお受け取りください」

「おお、それは嬉しいね!」


 貴族の当主たちからの自領の特産物に関する話題にも、アメリアは淀みなく答える。


「本当にアメリア様は美貌もさることながら、聡明でいらっしゃるし、流行にも敏感で、本当に素晴らしいですわ」

「私も見習わないと!」

「まあ、なんて嬉しいお言葉でしょう。美的感覚に優れる皆様に褒めていただけるなんて望外の喜びですわ」

「アメリア様……!」


 アメリアの返事に対して周囲が感激し、さらに話が盛り上がる。

 アメリアが訪れるパーティーではいつものことだった。自分がホストの場合は皆をもてなし、自分がゲストの場合はホストの話を傾聴し周りもそれに習う。

 今日もいくつもの集団に順番に声をかけ、来客たちをもてなしていた。


「さすがアメリア様ぁ! 昔に比べて本当にお美しく、話題も豊富でお話し上手になられましたのねぇ。我がバレイン王国の奇跡の華と称えられたお姉様のナタリア様を超えたのではぁ?! ねえあなた?」

「まったくだなぁ。ナタリア様が三年前遠方の国の王族に嫁いだときには国中の男が嘆いたものだ! やはり姉妹でいらっしゃる! いやぁ、跡継ぎにはご長男の優秀なノーラン殿もおられるし、ウィンダム家はますます栄えるばかりですな!」

「はは、そうですね……」


 露悪的に派手な中年夫婦が、大袈裟な身振り手振りで話に割り込んできた。彼らはウィンダム家と遠い親戚であるため、他の来客たちもあまり無碍にできなかった。


 そのため、中年夫婦の登場にアメリアが一瞬身を硬くしたことに気付いた者は、ほとんどいなかった。


「……まあ、姉や兄をお褒めいただき光栄ですわ。ウィンダム家はこれからも『皆様』と友好的な関係を築いていけたらと考えております。どうぞよろしくお願いいたしますね」


 きれいなカーテシーで応えるアメリアの姿に、来客たちは自分が特別な存在になれたような高揚感に包まれる。

 アメリアが強調した「皆様」という言葉に鼻白んだ派手な中年夫婦のことなど誰も気に留めない。


 そんな中、アメリアの近くにいた一人の小柄な令嬢の足元がふらふらし始めた。 ハッとしたアメリアはその体を抱きとめる。


「ルル! 顔色が悪いわ。大丈夫? 皆様、申し訳ありませんが、この場を失礼いたします」

「アメリア、皆様、せっかくのパーティーに、申し訳ありません……」


 弱々しい声を出すのは、十八歳のアメリアの一歳下の伯爵令嬢ルル・バンデスだ。アメリアの幼馴染みで昔からの親友である。

 子供の頃のルルは病弱だったため、今でも時折体調を崩すことがあった。


  二人の関係性を知っている周囲の心配の声に会釈しながら、アメリアは自分の侍女のコニーとともに、すぐにルルを屋敷の客室へ案内する。


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