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君が18歳になったら

作者: 幻世

 それは2人が小さい頃のお話。


「ユウ君! お誕生日おめでとう!!」

「ありがとう、レイちゃん」


 隣の家に住んでいる幼馴染のレイちゃんが僕の誕生日を祝ってくれた。


「ねぇ、ユウ君」

「なぁに、レイちゃん?」


 レイちゃんは顔を赤くして僕に尋ねる。


「もし、ユウ君が()()()になっても1人だったら私と結婚しない?」

「え~、レイちゃんと?」


 僕が不服そうに答えるとレイちゃんは顔を河豚(ふぐ)みたいに膨らませた。


「私とじゃ嫌なの?」

「嫌じゃないけど・・・」


 僕の回答にレイちゃんは笑顔になる。


「ユウ君が()()()になっても1人だったら私と結婚してね」

「別にいいけど・・・」


 レイちゃんは僕の小指に自分の小指を絡ませると指切りをした。


「約束よ」

「う、うん・・・」


 僕はレイちゃんと約束した。




 それから60年以上の月日が流れた───


 僕は1人テレビを見ていると画面には年越しのカウントダウンが行われていた。


『3、2、1、0! ハッピーニューイヤー!!』


 年が変わりテレビ内では新年の挨拶や初詣の状況が映し出されていた。


『今年は(うるう)年ということで・・・』


 そんな中アナウンサーの一言に僕は反応した。


「そうか・・・今年は(うるう)年か・・・」


 すると僕のスマホから着信音が鳴る。


「ん? 誰だろう?」


 画面には『レイちゃん』と表示されていた。

 僕は通話にスライドさせて電話に出る。


「もしもし」

『ユウ君? 久しぶり』

「レイちゃん、久しぶり。 今日はどうしたの?」

『ユウ君、()()()()()は空いているかな?』

()()()()()? ちょっと待ってね」


 スマホのスケジュール表を開いて確認するが特に予定は入れていない。


「お待たせ、特に予定はないけど」

『それなら久しぶりに直接会わない?』

「別にいいよ」

『午後3時に学生時代に2人でよく行っていた喫茶店で待ち合わせね』


 学生時代ってもうかれこれ50年以上前のことだ。


「その喫茶店ってまだあるの?」

『まだ現役でやってるわよ。 先日もお茶をしに行ったばかりよ』


 それを聞いて僕は昔を懐かしむ。


(そうか・・・まだあったんだな)


 古いものがなくなる中、学生時代の思い出が今も残っていることに僕の心はほっこりする。


「わかった。 ()()()()()だな」

『それじゃ、会えるのを楽しみにしているわよ』


 用件だけ伝えるとレイちゃんは電話を切った。


「ふふふ、レイちゃんは相変わらずだな」


 僕はスマホのスケジュール表を開いて()()()()()にレイちゃんと会う約束を入力した。




 ()()()()()───


 僕は約束の時間より30分早く指定された喫茶店に到着した。


 カランカラン・・・


 扉を開くとドアベルが音を立てて出迎える。

 店内を見渡すと客は1人もいない。


「・・・まだ来ていないようだな」


 そこに1人のウェイトレスが声をかけてくる。


「いらっしゃいませ。 お一人様ですか?」

「えっと、あとから1人来るんだけど・・・」

「お好きな席へおかけください」


 僕は懐かしさから学生時代によく座っていた席に着いた。

 するとウェイトレスがメニューとお冷を持ってやってくる。


「こちらメニューです。 お決まりになりましたらお呼びください」


 メニューを受け取るとウェイトレスは奥へと戻る。

 僕はメニューを開くと昔懐かしいラインナップがそこにあった。


「もう50年以上も前なのに変わらないな」


 昔を懐かしんでいると喫茶店の扉が開く。

 そこに熟年の女性が1人立っていた。


「えっと・・・あ! いたいた!」


 女性は僕のほうまでやってくる。


「ユウ君、久しぶり」

「レイちゃん、久しぶり」


 学校を卒業してからお互い忙しくて偶にしか会っていない。

 レイちゃんだが老いて白髪になっていたが当時と変わらない姿をしていた。


「レイちゃんは昔と変わらないね」

「そういうユウ君は老けたわね」


 そういいながらレイちゃんが席に座る。

 ウェイトレスが1つお冷を持ってきてレイちゃんの前に置く。


「あら、いつもありがとね」

「お決まりになりましたらお呼びください」


 ウェイトレスが戻るとレイちゃんが声をかけてきた。


「もう何か頼んだのかしら?」

「いや、まだだよ。 これから頼むところだったんだ」

「それなら私はケーキセットね」

「なら僕もそれにするよ。 すみません」


 僕の呼びかけにウェイトレスがやってきた。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「ケーキセットを2つ。 僕は珈琲とチョコレートケーキで彼女は紅茶とショートケーキをお願いするよ」

「畏まりました」


 ウェイトレスは注文を取ると戻っていった。

 レイちゃんを見ると驚いた顔をしている。


「レイちゃん、どうしたの? あ! もしかして違うのを頼むつもりだったとか?」

「い、いや、私が頼もうとしていたものがよくわかったわね」

「学生時代に紅茶とショートケーキが好きでよく頼んでいたじゃないか」

「・・・覚えていてくれたんだ」


 レイちゃんは嬉しそうな顔をする。


「それで今日久しぶりに会おうって言っていたけど?」

「あ、そうそう。 ユウ君、お誕生日おめでとう」


 レイちゃんが僕に祝いの言葉を贈る。


「レイちゃん、覚えていてくれたんだ」

「忘れるわけないでしょ? こんな珍しい日(うるう)が誕生日の人なんて滅多にいないんだから」


 そこにウェイトレスが注文した飲み物とケーキを持ってやってきた。


「あら、お客様、本日が誕生日なのですか? おめでとうございます」


 レイちゃんだけでなくウェイトレスからもお祝いの言葉を頂いた。


「誕生日といっても今年で・・・」

()()()よね」


 レイちゃんの言葉に僕だけでなくウェイトレスも不思議そうな顔をする。


「レイちゃん?」

「生きている年数は違うけど正式な誕生日を迎えるのは今年で()()()()なのよね」


 そう、僕は(うるう)(うるう)日生まれで生きた年数は72年だけど、()()()()()に限定するなら今年で()()()になる。


「それをいうならレイちゃんだって・・・」

「残念だけど私は(うるう)年生まれだけど(うるう)日生まれじゃないから」


 レイちゃんは笑っていた顔が一変真面目な顔になる。


「ユウ君は今独身かな?」

「そうだけど」

「ねぇ、ユウ君、約束覚えてる?」

「約束って・・・」


 僕は小さい頃を思い出す。


『ユウ君が()()()になっても1人だったら私と結婚してね』


 幼いながらの約束事だと思っていた。


「あ、あれはレイちゃんの冗談じゃ・・・」

「さぁ、それはどうでしょう」


 レイちゃんはそれだけいうと鞄から1枚の紙を取り出して僕の目の前に置いた。


『婚姻届』


 僕はレイちゃんを見るとあの時と同じように照れた顔をしていた。


(てっきり()()()経っても結婚の申し込みがないから冗談だと思っていたけど、まさか()ではなく()とは思わなかったな・・・)


 レイちゃんが『さぁ、どうするの?』っていう目で見てくる。

 僕は襟を正すとレイちゃんに向き合う。


「レイちゃん、僕と結婚してくれないか」


 僕の真剣な言葉にレイちゃんが驚き戸惑う。


「こんなお婆ちゃんでもいいのかしら?」

「喜んで」


 予想外な言葉にレイちゃんの目に涙が溜まる。


「もう! 待たせすぎよ! バカ!!」

「ははは・・・ごめんごめん」


 それを見ていた喫茶店のオーナーとウェイトレスがお祝いの言葉をかける。


「「お二人ともおめでとうございます!!」」

「ありがとう」

「え、あ、ありがとうございます」


 レイちゃんは嬉しそうに、僕は照れながら感謝を述べる。

 それからオーナーの計らいで店を急遽貸切にしてもらうとささやかながらのお祝いをしてもらった。




 このあと店を出た僕とレイちゃんは2人で役所に行って婚姻届を提出するのであった。


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