表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/39

第38話 伝説のおっさん、決着をつける

 お前と俺は決して分かりあえない。

 お前は結局、他者と協力できないからだ。


 だから、想像ができない。

 俺にはわかった。上空のふたりが、何を狙っているのかを。

 狙うべきところを狙ってくれる。


 それは信頼だ。

 俺はゆっくりと、真紅のレーザーをかき分けながらイジャールへと進む。


 俺は俺のやるべきことを、やればいい。


 マナの残量は5%を切った。

 対して、まだイジャールには余力がある。


 一撃で終わらせないといけない。

 だが、俺にはもう勝利が見えていた。


 上空で膨大なマナが弾け、降り注ぐ。

 ふたりがベストなタイミングで能力を発動させたのだ。


 発動地点は上空250メートルから。

 これではイジャールも攻撃の瞬間を探知できない。反応が遅れる。


「なにっ……!?」


 それは――黒の球体だった。

 一瞬の間に、黒の球体がイジャールに接触する。


 そして、イジャールの右腕が宙を舞った。

 マナの集まったイジャールの右腕を、黒の球体が切り飛ばしたのだ。


 ブラックホールによる超高精度の狙撃。

 それが見事に、イジャールの右腕を肘から切断した。


 超圧縮されたブラックホール、そして斥力の組み合わせ。

 高精度の狙撃は、荒川さんがいたからこそ可能だ。


 斥力によって加速されたブラックホールが、イジャールの不意を突いた。


 そして狙った部位も、ふたりの経験が活きている。

 イジャールの頭部と腹部はガードされている。もし荒川さんとレイナが急所を狙っていたら、簡単に防がれただろう。


 だから、ふたりはあえて腕を狙った。

 数秒で腕は再生する。一見すると、無意味な攻撃だ。

 ゆえにイジャールは油断していた。ブラックホールの狙撃を、防ぐことも避けることもできなかった。


「無駄なことを!」


 真紅のレーザーが途切れる。俺は前に飛び出す。

 イジャールは早くも、全身にマナを集め始めている。左腕がやや強いが、それは俺を警戒してのことだろう。


 すでにガードを始めているイジャールに、もうブラックホールの狙撃は効かない。

 俺の一撃で決着をつけるしかない。


「足りないぞ、お前のマナではな」

「わかってるさ。俺のマナじゃ、もう致命傷は与えられない」


 それほどまでに、俺は消耗しきっていた。

 もう残ったマナを叩きつけても、仕留められない。


 跳躍の中で、俺はイジャールの右腕を掴んだ。

 《《マナがたっぷり残った》》、空を飛ぶイジャールの右腕。


「――ッ!!」


 これほど集まったマナは、すぐには散らない。

 そして主のいなくなったマナは、転用できる――素材として。


 お前たちは知らない。

 魔獣の牙や爪、魔力の集まった部位がどう使われるかを。


 俺は知っている。

 このイジャールの右腕なら、一度きりだが武器になる。


 腕に残された灼熱のマナが、俺の本能に呼応した。

 細かいことはどうでもいい。

 ただ、この膨大なマナを最速で叩きつける――!!


 右手に持ったイジャールの右腕が燃える。白熱した剣のように。

 俺のマナも乗せ、斜めに振り下ろす。


 初めて、この戦いで俺は叫んだ。


「うおおおおおっ!!」


 ずっと守りに徹してきた俺の動きは、イジャールの想像を超えていた。

 激しい緩急にイジャールは対応できない。


 そのまま、俺は白熱した剣でイジャールを肩から両断する。


「ぐっ、うううっ……! 俺の、魔力を……!!」


 まだ終わっていない。

 俺はさらに、灼熱の剣をイジャールの胴体に突き刺す。


 正確に、胸元にある核に向かって。


「ごふっ!!」

「じゃあな……強かったぜ」


 それが最後の手向けだった。

 イジャールの全身が、内部から燃え盛る。


 俺は残ったマナの全てを流し込む。


 ――刹那。

 イジャールの核が弾け飛ぶ。

 

 魔獣は核を失うと、死を迎える。

 イジャールは灰となって、あっけないほど早く燃え尽きた。


 そして黒の灰となって、イジャールの全身が散っていく。


「勝てた、か……」


 俺はがくっと崩れ落ちた。

 正真正銘、終わった。


 勝てたけど……なんとかだ。

 もうマナも体力も、まるで残ってない。


 久し振りに全力を使い切った。


「先生ッ!!」


 上空からレイナと荒川さんがやってくる。

 ふたりを見上げながら、俺は意識を手放していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ