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36 魔法将軍、服飾店へ行く



 ユリスはロエルから託された髪飾りを持って服飾店を訪れた。

 貴族御用達のきらびやかな服飾店はクリスタの実家だ。

 彼女はエルマーの元で働く、独特な甘ったるい喋り方をするおっとりした女性だが、軍部出身で暗器を使える。

 エルマーの近くにはそういった輩が多く、リンを預けるのには良い場所だったかもしれないと今更ながらに感じていた。


 服飾店の主でクリスタの母親は、魔法将軍の訪問に驚いたがそれも一瞬のこと。すぐに商売人の顔になって笑顔で対応してくれた。

 貴賓室に通されたユリスは主に髪飾りを見せる。


「式ではこれを付けさせたいと思っている。衣装を合わせることは可能か?」


 ユリスが花嫁衣装に関わるのは避けたほうが良いと忠告を受けたので、不本意ながら経験者の言葉に従うことにした。しかしながら髪飾りとかけ離れた衣装では困ることになると奇跡的に気付いて訪問したのだ。


「これは素晴らしいお品でございますね。リン様はご存知でいらっしゃいますか?」

「式の前日に渡そうと考えている」


 高価なものだし、紛失させては大変だ。リンが気に入らないかもしれないとは夢にも思わない。きっと似合うだろう。綻びそうになる顔を引き締め眉間に皺を寄せると、目の前にいる主が笑顔を凍りつかせてぶるりと震えた。


「しょ、承知いたしました。では髪飾りのことはお伝えせずに、お衣装の色は白をお勧めしてデザインもそれとなく導かせていただきます」

「よろしく頼む」

「お任せ下さい。それで、リン様から式のご予定は確定していないと聞き及んでおりますが、別の方からはひと月後であると。本当にひと月後のお式なら当店といたしましても針子を増員して昼夜問わずの作業になりますし、リン様もデザインの選択にお時間がかけられなくなってしまいます」


 完全オーダーメイドの花嫁衣装。本来なら採寸を初めて布やデザインの決定、仮縫いから仕上げに至るまでに最低半年は欲しいところだ。

 しかしながら主の娘によるとひと月後。恐ろしくなってリンに訊ねたら日取りは決まっていないとのこと。主が最終確認だと不安そうに問うので、エルマーの言うひと月後はやはり無謀なのだと理解した。


 最低半年か。

 それだけあれば夫婦らしい生活の下準備も可能になるだろう。今直ぐ夫婦になっても構わなかったが、リンの裸どころか面と向かって恋人のように振る舞えた記憶もない。齢三十にして男女の恋愛ごとに疎いとついさっき気付いたばかりだ。

 今更二人の生活に大きな変化があるとは思わないが、一般的な恋人らしいことをする時間も大切かもしれない。


「式の日取りは決まっていない。無理して雑になるより、ゆっくり念を入れて仕上げて欲しい。その場合の期間はどの程度必要だ?」

「でしたら式の日取りを半年後以降に設定いだき、決まり次第お知らせいただければ幸いです。わたくし共ではリン様とお飾りにふさわしい衣装を仕上げることが可能でございます」

「ではそのように頼む」

「承知いたしました」


 ユリスは難しい顔をしたまま心は踊っていた。

 花嫁衣装作成に関われないと思っていたが、髪飾りを託されたお陰でユリスも関わることが叶ったのだ。

 これはラウラが後押ししてくれているに違いない。今すぐにでも報告に行かなくては……と、考えて。それは不味い選択かもしれないと思い至った。


「リンを不安にさせるかもしれない」


 ユリスと一緒にいたくて心を吐露してくれた愛しい娘。ラウラに会いに行くと言えば少なからず心を痛めるだろう。

 ユリスだってリンが元恋人のイドと二人きりになるのは嫌だ。嫉妬する。イドに圧をかけるかもしれない。

 世話になっているが、エルマーの子供たちとも二人きりになって欲しくないと思ってしまう。


「こういうのが独占欲というものなのか」


 養い子として接していたときは表に出さないようにしていた嫉妬心だ。良き養い親である仮面は強固だったが、一度外してしまえば再び装着することなんて不可能だった。




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