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33 結婚に向けて



 初恋の人に似ていると公言して引き取った養い子。その養い子が大人になって養い親と結婚する。


 どこかで囁かれていたではないか、魔法将軍は幼い子供を引き取って自分好みに育てているのだとかなんとか。

 その通りになってしまった。


 ユリスは別に誰に何を言われても気にしない。リンが普通の幸せを手に入れるのなら、ユリスを望むのならあらゆる物から守り抜いて幸せにすると決意した。


 決意したユリスは無敵だ。

 リンを幸せにする下地作りとしてベルクヴァイン王家を付け狙い、ラウラの敵を討った実績がある。酷たらしい人殺しでもいいのだとリンに言わせてしまった以上、ユリスは何が何でもリンを幸せにしなくてはならないのだ。


 それが唯一ラウラが望んだことであり、ユリスの生きる意味でもある。

 だから幼女趣味だとか嫁を育てたとか養い子に手を出したとか言われてもなんとも思わない。


 しかしながらリンが後ろ指さされて中傷の的になるのは許容できなかった。

 そうならないためにはどうしたらいいのか。

 結局ユリスの脳裏にはエルマーしか思い浮かばず、早々に頭を下げることにした。


「リンさんを養女に? テゲトフ家から魔法将軍へと嫁に出すのは問題ないが……」


 リンをいったん他家の養女として最低限の世間体を繕おうとした。魔法将軍と親戚関係になるのは政略的にもテゲトフ家が有利になる。受けてもらえると思っていただけに、何か見落としがあっただろうかとユリスは身構えた。


「他に何か問題が?」


 歯切れの悪いエルマーに問うと、「殿下がお喜びになりそうだ」と漏らした。


「王太子殿下がなぜ?」


 意味がわからず眉間に皺を寄せると、エルマーは何でもないと面倒そうに顔の前で手を振る。


「まずはリンさんに相談してみろ。お前は彼女を親として育てたのかもしれないが、その関係はとっくに崩れている。伴侶になるというに、大切なことを最初に話さないのは拗れる原因になるぞ」


 忠告されてそういうものだろうかと疑問に思いつつ、とりあえずリンの考えを聞いてみることにした。


「そうですね。私達は一緒に住んでいても戸籍上他人ですから結婚に関して手続き上問題はありませんけど、世間的には噂になるでしょうね」


 ユリスはリンの養い親であって戸籍上の親子関係は結んでいない。ウイリットの姓を名乗っているがあくまでも養い親と子の関係で、ユリスに万一のことがあったときは、遺産が全てリンに渡るよう手続きしているだけだった。


「だからってテゲトフ様の養子になる必要はないんじゃないですか?」

「どうして。後ろ盾はあったほうがいいだろう?」


 エルマーは財務大臣でテゲトフ家の家長でもある。騎士団にも精通して発言力もある。国王、王太子との関係も密であと二十年は国の中枢で権力を振るうだろう。多少意地が悪いが信頼できる相手である。

 

「今までもこれからもユリス様の側にいるのに後ろ盾が必要ですか?」


 リンは不思議そうに瞳を瞬かせ、ユリスはリンの言葉にはっとさせられた。


「テゲトフ様の養子になったら、貴族的なお付き合いや拘束ができてしまいませんか。わたしのためにって気持ちは嬉しいですけど、そのせいでユリス樣がテゲトフ様に忖度しなくちゃいけなくなるのは嫌ですから。いつでも逃げ出せる立場でいたいですし」

「にっ……逃げ出すってどういう!!」


 なにか嫌なことをしてしまっただろうか。途端に慌てだしたユリスに、リンが悪戯っ子のような笑みを見せた。


「魔法将軍が嫌になったら都落ちできるように、逃げ道はとっておきましょうね」

「リン……」


 リンはいつでもユリスを優先に考えてくれている。

 ユリスが本来持っている気質は穏やかで、人の上に立つのではなく、田舎で穏やかに釣りでもしながら余生を送りたいという爺臭いものだ。

 魔法将軍に固執しているのもリンを守るためだけ。そういうことを見抜いてくれていた。

 だからといって一度就いてしまった地位を無責任に放棄できるわけがない。そういったことも考慮して「嫌になったら」と言ってくれる。


「ありがとうリン。大好きだよ」


 思わず感情が漏れて口にしてしまった。リンがみるみるうちに頬を染めて、途端にユリスも照れ臭さに襲われる。


「あの……わたし。夜ご飯の支度してきますね」


 長椅子に置いてあったうさちゃんをユリスに押し付けてリンが逃亡した。

 見送ったユリスは「ラウラ樣ごめんなさい」とうさちゃんの腹に顔を埋めて悶えた。




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