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第1話 船は、北へ向かう

 昔から、自分は神経質なたちだという自覚があった。いつも自身を脅かすものから身を守るため、心の距離を保ち、命令のままに、いかなるときも、最善の行動を違えてはならない―


 唯一、心を許していた長兄が倒れたことで、住まいである王宮は混乱に陥った。

 さらに迷いはなくなった。やはりわきまえなければならない。自分は嫡子である兄たちとは違う。

 決して望まれなかった、妾腹の。


 ―嫌なことは、口に出さなくていい。思い出さなくていい。


 浅い眠りから目覚めたケイトは、視線を宙にただよわせたのち、ためいきをついた。自分はまだそんなことを、と。

 脳がすっかり覚醒してしまうと、思考回路に巣食っていた強い猜疑心が勢いを弱め、張り詰めていた神経が緩んでいくのがわかる。

 多くの人々の助けを借りて、自分の危惧していた王国における最悪の事態は避けられたのだ。むろん王国維持のために大変なのはここからなのだが、なんとか持ちなおしつつある。

 すべては民の祝福を受け、戴冠式を経た新国王セシリア・ハイネルの人徳によるものと感じていた。


 王都セインベルクにとっての動乱の数年間は、昏睡状態にあった兄にとって、言葉通り悪夢として過ぎたことだったのだろう。ケイトから見た兄は、変革を熱望する民の声の大きさに、少々戸惑っている印象を受けた。その様子を毎日のように眺めていると、苦笑を禁じ得ない。


 ―そりゃ国民としては、あんな目にあったらな。

 ケイトは、寝台から起き上がった。船室は、ゆったりと穏やかな波に揺られている。

 ―本当に、いろんなことがあった。

 小さな円状の窓からは、強い陽光が差し込んでいた。今日も、天気は良さそうだ。

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