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転職⁉︎モブ神と始める異世界のお仕事!  作者: テルボン
第1章 なりゆき おどろき うしろむき
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第5話 神力の痕跡

 モブリアが目覚めない為、自転車は置いたまま、彼女を担いでタクシーに乗った。


「お客さん、その娘大丈夫かい?」


 気を失っているモブリアを見て、運転手が疑いの目を向ける。


「はい。いつもの貧血です。薬は頂いたので帰ってから飲ませます」


 隼人は、病院の養母の内服薬の袋をチラリと見せる。

 中身は、養母の次に来る時に必要な物リストが書かれた紙が入っているだけだ。


「そう?大丈夫なら良いけど。で、どちらまで?」


 何とか誤魔化せたみたいで、その後は自宅までスムーズに帰れた。


「モブリアさん、起きてくれ」


 モブリアを居間へと運んだ後、彼女が起きるまでしばらく待った。

 夜間工事現場のバイトは、今日は休むと伝えることにした。


「ん…」


 ようやく起きたモブリアは、パチパチと瞬きをした後、ムクリと上半身を起こす。


「隼人ど…さん?ここは…ああ、隼人さんのご自宅ですね?」


「モブリアさん、説明してくれないかな?さっきの養母の光は何だったのか。君は宇宙じ…一体、何者なのかを…」


 隼人が真剣な表情で聞いてくる。モブリアは辺りを見渡した後、分かりましたと頷いた。


「私は、モブダリア・アスタロテ・リッテンゼリア・トゥル・フレバース。訳あって異世界から来た女神です。隼人さんへの恩返しをしようと、貴方の母上の病を全て完治しました」


「…え?女神?異世界?」


「あ、女神と言っても、父に認知されていないので、半端な半神なのですが…」


 モブリアは恥ずかしそうにしているが、隼人にはその情報を受け入れる余裕がない。


「完治したって言いましたね?その根拠は?」


「私の神の力を使いました。彼女の体内にある邪悪な病の元を消し、病気に負けない身体へと変換しました。彼女はもう大丈夫です」


「神の力だって?」


 そんなものは信じないと言いたいが、壁抜けや発光した姿を見ているので、得体の知れない力だとは感じている。


「本当に、本当に、ババアの身体は治ったんですか?」


「はい。間違いなく」


 満面の笑みで自信たっぷりに頷くモブリアに、隼人はそれが真実だと何故か理解した。

 これが神が起こした奇跡の力だと。


「ただ、神力を使い切ってしまったので、再び集めないと逃げられてしまいます」


「…逃げられるとは?」


「私は、父を探しています」


 確かに、人探しをしているみたいなことを言っていたな。


「この辺りに居るの?」


「この()に来た痕跡があったんです。この辺りで最近、神力を使った痕跡も」


 星って…。やっぱり宇宙人か?いや、神力って言っているから、やはり神なのかな?


「やっぱり、その父さんも名前が長かったりするの?」


「いえ、父の名は短かったです。母には()()()()と名乗ったとだけ」


「ヘルメス?ギリシャ神話の?」


「なっ⁉︎隼人さんは父を知っているのですか⁉︎」


 彼女に凄い力で襟元を掴まれた。とてもじゃないが、か弱い女性が出す力じゃない。


「し、神話で知っているだけだよ?」


「神話…父は民の信仰心が高いのですね?」


「さ、さぁ?名前は有名だけど…」


「そうですか…」


 何故かモブリアは落ち込んだ。


「…母は、こことは他世界のシュクリヤハの女神の1人でした。関わる管轄の星は1つと、信仰心量は少なかったですが、処女神としても神々の間では有名でした」


 落ち込んでいるかと思えば、少し怒りの表情でわなわなと拳を震わせていた。


「こともあろうか、処女神である母は異世界から現れた軟派な神に口説かれて、一夜の間違いを起こしてしまった」


 …軟派な異世界の神ってのが、ヘルメス神ってことらしいな。


「間違いって、合意のもとでは無かったという事?その件で君は産まれたんだよね?」


「合意は…あったのでしょうが、父は3晩だけ母と過ごした後、また違う異世界へと去って行ったのです!残された母は泣崩れ、信仰心も多く失ってしまいました。しかも、私を身篭ってしまい、任されていた神の仕事も失うことになったのです」


 これは、間違いなくヘルメス神に非があるな。という事は、復讐の為に探しているのかな?


「現在は、母も新たな仕事に就く事ができましたが、私は父に認知されていない為に、神力にも制限があり、シュクリヤハで仕事に就く事ができなかったのです。ですから、私は父を見つけ出し、私を認知をして欲しいのです!」


「…えっと、謝罪や殴らせろとかは?」


「しませんよ、触りたくもありませんので」


 顔も知らない訳だし、今更父親を欲しいとも思っていないんだろうな。


「そのヘルメス神が、最近、神力を使ったって言ってだけど、どのくらい前なの?」


「私が貴方と会った日より、3、4日程前になると思います」


「3、4日…丁度、1週間前くらいか…。だとすると、例の神隠しがあった日だね」


 白昼に進学校で起きたクラスまるごと消失事件は、丁度1週間前くらいだ。

 神掛かった事象だと言えるのは、この近日ではそれくらいだろう。


「近くで神隠しがあったのですか?」


「ああ。教員を含めた約40名が消えて、代わりに洞窟が現れたんだ。凄い騒ぎになってね、俺も仕事で警備に行ってたよ」


「ひょっとして、…強制転移?」


「強制転移?」


「ああ、丁度こんな感じの…」


 突如、居間に広がる光の円。次々と文字も浮き出し始めた。


「そんな!本当に転移魔法陣⁉︎」


 急ぎ部屋から出ようとするも、見えない壁に阻まれて出れない。


「う、嘘だろ⁉︎」


「私の残りの神力で貴方だけでも!」


 モブリアが隼人へと手を伸ばしたが、2人は床から昇る光に一瞬で包まれた。




『……せよ!』



 光で視界が奪われて、辺りがよく分からない。


『頭が高い!平伏せよ!』


 隼人は、ガシッと頭を掴まれて、いきなり硬い床に押し付けられた。


 視界が戻り始めたその見える先で、モブリアも抑えつけられていた。


『止めよ、ガブリエル、ラファエル。我等はこの子等に問うべきことがあるだけだ。客人として扱うのだ』


 頭上から響く声は、聴くだけで体が萎縮する感覚に襲われる。


『申し訳ありません。出過ぎた真似を致しました』


 ラファエルと呼ばれた者が、隼人を抑えつけていた手を離した。

 同様にモブリアも解放される。よく見ると、抑えつけていた奴の背中には白い翼が幾つもある。


 2人はようやく顔を上げ、先程の声の主を確認する。


「……」


 言葉が出てこない。


 辺りは、宇宙のど真ん中を連想させる、真っ暗な空間に幾万の星が見える場所。


 2人はそんな空間にも関わらず、評議会の中央に居るかのように、凡そ人では無い者達に見下ろされていたのだ。


「…ユニバサリアの神々」


 モブリアがボソッと呟いた。

 彼女の言葉が真実ならば、鷲頭や頭巾の者達も神という事になるな。


『この統治世界の名を知っているという事は、やはり其方は他世界の神の者か?』


 中央に座す4面の顔を持つ小柄な男神が、モブリアへと尋ねた。


「はい、私はシュクリヤハの世界から来ました。狩猟と貞潔を司るリッテンゼリアの娘、モブダリアにございます」


 モブリアは姿勢を正し、深々と頭を下げた。畏れからか、手が震えているのが見える。


『シュクリヤハ…。また、かなり遠くから来たようだが、主神でもない神の血族が何故我等が世界に干渉する?他世界で神力を使用する事はタブーだと知らなかったのか?』


「申し訳ありません!私はまだ職を与えられておらず、神界の規定を知りませんでした。私は、父の痕跡を便りに、この世界のこの星へと参りました。許可なく勝手に入界した事と神力を使用した事を深くお詫び致します」


 神力を使用したのは、ババアを助ける為だった。頼んでもいない事とはいえ、彼女がしてくれた事は俺の為でもある。


「申し訳ありません」


 隼人も彼女と同じように深々と頭を下げ、床に額を押し付けた。


『…父とな?つまりは、其方の他にもシュクリヤハの男神が居るという事だな?』


「いえ、父はシュクリヤハの神ではありません」


『何?』


「父の名はヘルメス。400年前にシュクリヤハに訪れた他世界の男神でございます」


『ヘルメス神だと⁉︎』


 名を聞いた神々から驚きの声が上がる。


『ヘルメス神は、ユニバサリアの神の1人だ。其方が痕跡を辿り、この世界とこの星に辿り着いたのならば、先ず我々が知るヘルメス神で間違いないだろう』


「そうなのですか!」


 モブリアは居場所を突き止めたことに喜び、思わずはしゃぎ笑顔を見せた。


『…どうするのだ?』


『ううむ…』


 ところが、ユニバサリアの神々は、とても迷惑そうな表情で騒ぎ始めるのだった。


 

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