表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転職⁉︎モブ神と始める異世界のお仕事!  作者: テルボン
第1章 なりゆき おどろき うしろむき
4/40

第3話 代価

 小鳥の囀りが聞こえだし、いつのまにか布団の中で寝ていたモブリアは目を覚ました。


「あれ、私…?」


 見覚えのない部屋を見渡す。部屋の隅に自分が着ていた服が畳まれて置いてあった。


 それを見てようやく、ハッと昨日の出来事を思い出した。


 寝室を出て居間へと向かうと、部屋の机には書き置きと朝ご飯が置いてあった。


「隼人殿?」


 家内を捜索するも、誰も居なかった。確かに留守にするとは言っていた。


 言える立場ではないのだが、かなり不用心だと思う。


「…どの世界にも、善人はいるのだな」


 透明な膜で覆われた皿には、小ぶりなパンと卵焼きが乗っていた。


「…有難く頂きます」


 ペリッと膜を剥がすと、香ばしい匂いがする。

 それに釣られて腹が鳴り、モブリアは遠慮なく食べ始めたのだった。


 10時を過ぎた頃、玄関から鍵を開ける音が聞こえた。


「ただいま」


 例え返事をする相手がいなくても、落ち着く場所でのこの習慣は変わらないものだ。


 それに、今日は限定的だがモブが居るからな。少し返事を期待していたのも事実だ。


「時間通りですね」


 期待した出迎えは無かったが、彼女は居間からひょっこりと顔を出し頭を下げた。


「少し仕事着から着替えますから、準備を済ましていて下さい」


 軽めのシャワーを浴びて、直ぐに着替えを終えると、モブリアも荷物まとめて玄関で待っていた。


 思えば彼女の荷物は、少し風変わりな刺繍が施されたバックパックだけだな。


 旅行者にしても慣れない土地に来たにしては少な過ぎる荷物量だ。


「では行きましょうか」


 実家を出た2人は、チラホラとシャッターが閉まるやや廃れた商店街に向かう。


 目当ての古美術商店は、商店街でもかなりの古株で店主は4代目らしい。


「今から会う人は、古美術を取り扱う須藤さん。売りはオークションが主で、買取が専門だから安心して売れる筈だよ。今更だけど、売って良かったんだよね?その金貨」


 そもそも入手先を知らないからね。盗品じゃない事を願うけど。


「この金貨は、かつて母が父から貰った物です。父を探す貴重な手掛かりの一つではありましたが、困った時には使用して良いと言われておりますので、大丈夫です」


 何気に気になるワードが幾つかあったが、ここはスルーする。


 着いた商店は明らかに昭和感が漂う店構えで、古い引き戸を開けると上品なお香の匂いが漂っている。


「すみませーん」


 2人はゆっくりと店内に入った。


「はいよ~」


 現れたのは60後半の白髪混じりの男性。雪駄に甚平姿の格好は、とても古美術商人だとは思えない。


「おっ、ハヤ坊じゃねぇか。そのネェちゃんが、朝っぱらから電話してきた要件か?」


「ええ、そうです。彼女はモブリアさん。品売りの依頼です。モブリアさん、彼がこの商店の主の須藤さんです」


 モブリアと須藤は、お互いに頭を下げた後、軽く握手を交わす。


「んじゃ、見せて貰おうかな?」


 モブリアは金貨を取り出してカウンターへ置くと、須藤はルーペを取り出して鑑定を初める。


「ほぅ、3枚とも本物だな。全部売りで良いんかい?」


「はい、構いません」


「そうかい、ちょっと待ってな」


 須藤は奥の部屋へと一度引っ込み、しばらくして分厚い紙封筒を持ってきた。


「どれも品質が良かったから、1枚85万だ。締めて255万円、確認してくれ」


 モブリアは、受け取った封筒をそのまま隼人に渡す。


「あ、ああ、確認ね?」


 この店はマネーカウンターを使用しているから間違いなく指定数あるのだけれど、束括りしていない端数の55万は彼女に分かるように数えて見せた。


「大丈夫です。ちゃんとあります」


「あの、その中から隼人殿が受け取るべき額を抜いて下さい」


「言った筈ですよ?私は須藤さんから仲介料を頂くので、いりませんって」


 本当はこちらから頼んでいるので、仲介料なんてもらわないけど、話を合わせてもらう為に須藤には合図を送る。


「そうだぜ、ネェちゃん。その金はあんたの大事な金貨の代価となった金だ。ハヤ坊には私から礼はする。だから、あんたはその金をちゃんと自分の為に使うんだな」


「しかし、食事代だけでなく…」


ピリリリッ。


 いきなり音が鳴り、隼人が携帯電話を取り出した。


「はい、はい。今からですか?はい、…はい、大丈夫です。直ぐに伺います」


「なんだ?急な仕事かよ?相変わらず忙しいな」


 17時から入る警備会社の仕事から、事故による欠員の為に急なヘルプが入った。


「すみません、須藤さん。俺の代わりに彼女に、ホテルと興信所の紹介をお願いできますか?」


「おいおい、ハヤ坊が世話している娘だろう?最後まで自分が面倒見なきゃいかんだろ」


 須藤が言う通りだが、欠員した人が資格持ちのチーフだった為に、他に施設警備業務資格を持つのが隼人だけだったのだ。


 チーフがまだ搬送されたばかりで新人達2人も現場に居るらしく、どうすれば良いか困っているらしい。


「急を要する案件なんで、どうにかお願いします。仲介料はチャラで良いんで」


「チッ、しゃあねぇなぁ。分かったよ、後は俺に任せて行ってきな」


「隼人殿…」


 2人に頭を下げて、隼人は現場へと向かって走り出した。


「既に凄い人集りだな」


 その現場というのは、県内でも有名な新学校。

 つい先日、この学校では不可解な事件が起きた。

 校舎の1クラスが光に包まれて、集団で神隠しにあったのだとか。


 教室は洞窟と入れ替わっており、調査が入る事が決まり、その校舎は立ち入り禁止となった。

 その管理を、警察と隼人が勤務する警備会社が担当していたのだ。


 隼人は野次馬を避けながら、立ち入り禁止のロープを潜り仲間達の下に駆け寄る。


「2人共、大丈夫?会社から連絡を受けて来たけど、状況は?」


「隼人先輩!そ、それが、監視地域でチーフが不審者を発見し、乱闘になり負傷しちゃったんです!」


「し、しかも、ソイツは()()()()()()んですよ⁉︎」


 2人はチーフを運んだ時に着いた血がそのままで、かなり切羽詰まる状況だったのだと分かる。


「それで、ソイツはどうしたんだ?」


「チーフに警棒でやられて、中に逃げちゃいました!その隙に2人でチーフを運び出したんです!」


「会社にも、警察にも連絡は入れました!だけど、俺ら、奴を出しちゃいけないって、離れられなくて…」


「駆けつけた警察が、今は中に突入しています。さっき、発砲音もあって、もう怖くて…」


 2人共、かなり震えている。まだ入ったばかりでこんな事態に遭うとは災難だな。


「おい、誰かシート持ってこい!」


 警察官の1人が校舎から出てきて、応援を呼んでいる。

 入り口には複数の警官が、子供らしき姿の人物を寝かしていた。


「あ、俺、避難用シート持ってます」


 隼人が携帯用の避難用シートを持って向かうと、そこに寝かされていたのが後輩達が言っていた奴だと分かった。


「緑の肌…」


 裸に腰布を巻いただけのその緑の子供は、長く垂れ下がる耳と醜い顔をしていて、口の回りには血が付き、体には警棒による打撲痣があった。

 左肩には銃創がある。警官が発砲したものだろう。


「シートです」


 隼人がシートを広げて渡すと、警官達は()()()の手足を拘束してシートで包んだ。


「コイツはこのまま研究所へ運ぶぞ。2班は引き続き中を調べろ!」


 指示を出していた警官達は、包みを担いで足早に立ち去って行った。

 どうやらまだ生きているらしいが、荷物のように持ち歩くのは流石に引くな…。


「先輩、あれって…、ゲームとかに出てくるゴブリンって奴じゃ…?」


「…分からない。まぁ、とにかく奴は捕まったみたいだ。今は2人共、体を休めてくれ」


 その後は警察以外にも、特殊機関らしき者達が来て、事情聴取や、緘口令等、現場の引き継ぎに関する話などまで出て、隼人達が開放されたのは夜中だった。


 携帯電話には、須藤さんからの伝言が録音されていて、彼女の件は全て大丈夫と言っていた。

 本当に助かる。


「あっ、工事現場のバイトの時開始間過ぎてる。…電話して今から向かうか」


 通常ならこの仕事量は考えられないが、隼人には早く多くのお金が必要なのだ。


 ババアの手術費用…プラス入院費。

 養母(ババア)は必要無いと騒いだけど、俺には返す義理がある。


 手術日は近い。足りない金額的にも、今は一時も休む間は無いのだ。

 気合いを入れ直した隼人は、次の仕事場へと駆け出すのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ