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逃走中1

続けて読んでくださりありがとうございます。

逃走編に突入。


「と、言う訳なのです。」

 馬車内で、ミシェルが亡命決定までの経緯をレオンへと話し終える。


 第三王子がそれを聞き、顔面蒼白だ。

「あ、あの書簡で亡命決定になっただと!?なんでそうなるのだ?なぜ、なぜなのだ?ゴニョゴニョ…」

 2人きりの馬車の中で、小さい声で第三王子が一人ブツブツ呟いている。


 だが、ミシェルは彼には興味がないので、彼をそのまま放置であった。


 しばしの沈黙後。

「そのっ、元婚約者からの一方的な婚約解消のことは、君は傷ついていないのか?」

 ボソッと気まずそうに王子が聞いてきた。

 独り言での心の整理は終えたようだ。

 


「ええ、私は全く傷ついていません。むしろ、解消されて、広大な草原を馬で掛けたような清々しい気持ちになりました。」

 キッパリとミシェルは力強く言い切った。


「そ、そうか、それならばよかった。自分のしたことで、君が傷ついたりしたのではと不安だったのだ。」

 王子がホッとした顔をする。


「え?殿下が婚約破棄するよう、あの人に指示したのですか?」

 ミシェルの顔が曇る。


「あっ、いや。あいつに破棄するようには命じていない。私は、そうなるように仕向けただけだ。」

 大慌てで否定する。


「仕向けた??それは何故ですか?」

 まだ疑念が拭えないミシェル。


 ミシェルの問いに、王子が俯き顔を真っ赤にさせ、またもやボソボソと話し始める。

「君の家を第一王子派閥から抜けさせるために…ゴニョ…ゴニョ…」

 ミシェルは王子の声が次第に小さくなり、語尾が聞き取れなかった。


 最初しか聞きとれなかったが、派閥争いと聞こえたので、この話は面倒だと感じ、深く関わりたくないので聞き返すことはなかった。


 車内は再び沈黙となる。


 気まずい雰囲気にならぬように、ミシェルはすぐさまトロワ家の亡命の話を再開した。


「話の続きですけど、亡命を決めてから、我が家はすぐに二手に分かれ行動したのですが…まさか、我が家に王家のスパイが居たなんて考えてもいなかったので、本当にショックでした…」


 身近な者がスパイだと知る前の楽しい日々や団結した逃亡の日々を思い出し、スパイをした者に対して寂しさが滲み、遠い目となる。


  ***


 亡命すると決まり、トロワ家は即座に動いた。


 父は、ミシェルの婚約解消と家督を王都の大図書館で働いている弟に譲るために、王都へと向かい。

 その後、単馬にて最短ルートでバーテン辺境伯領へと向かい、合流するというプランであった。


 母、兄、私は、荷物をまとめ、次の当主が困らぬように家の事を片付ける。

 短時間で作業を終えると、あとは家令に任せ、母様の実家のあるサル公国へ向けて出発した。


 極秘旅には最少人数で行動だ。

 馬車にはトロワ家が乗り、その馬車を囲むように護衛と兄の侍従、母の専属侍女が馬に乗り、私の専属侍女は荷馬車の御者の隣に乗り移動した。


 まずは足取りを隠しての国境越えが目標なので、道中は少しばかり長旅であるが、我が家を懇意にしてくれている口止めの出来る貴族の領地を通っていく。

 貴族であるので安宿には泊まれないので仕方がない。

 貴族の泊まれるような宿の無い領地は、その地の貴族に口利きしてもらい屋敷に泊めてもらうしかないので口止めは必要だ。

 信頼できる貴族にしか頼めない。


 そんなこんなで馬車に揺られて3日目の朝。

 ミッシェルたちは、ようやく、父との合流地点まで辿り着く。


 ここは父の妹が嫁いでいるバーテン辺境伯の領地内である。

 国境を越えれられれば、サル公国だ。


 バーテン辺境伯の要塞へ向かう途中の森で、甲冑を付けた騎士が2人、木に隠れ、静かに待ち構えていた。

 馬車の前に姿を現した騎士の1人が持っている盾に、バーテン辺境伯の紋が描かれている。

 一歩前にいる大きな槍を持っている方の騎士が、付いて来いといった動作をする。

 一行は2人について行く。


 そして、森の奥にある屋敷へと辿り着いた。


 先に着いた騎士たちが先導し、屋敷へと足を踏み入れる。

 母と兄、私も不安気ではあるが、恐る恐る後に続いた。


 応接間のドアが開かれると、そこには父の妹であるアン叔母さんが立っていた。


「ああよかった。無事に着いたのね。」

 そう言って手を広げ、皆を順番に抱きしめた。


 騎士が甲冑を取ると、彼女の息子たちのジャンとガブリエルであった。


 父から手紙を受け取っていたようで説明はしていたようだが、さらに事情を詳しく話し、これから父と合流し、隣国に亡命する事を伝える。


「分かったわ。信頼するあなた達が決めた事ならば、私達は協力する。皆、私達の大切な家族ですもの。兄が来るまではここを使って。ここならば身を隠せるわ。」

 叔母さんは優しく微笑んだ。


 だが、3日、4日経っても、父は来ない。

「どうしたのかしら?もう到着してもよい頃合いなのに。」

 皆が不安に駆られている時に、いとこのジャンが勢いよく駆け込んできた。


「母さん、これ!母さんに渡すように預かった。」

 手紙を受け取った叔母が封を開くと、そこにはこう書かれていた。


  “すぐに国を出ろ シモン”


 皆は息を飲んだ。


「これ…これをいったい誰が!?」

 アン叔母が声を震わせ、ジャンに聞いた。


「伯父様の侍従だと言う男が持ってきたけど、ここに連れてくる?」

「急いで連れてきて!」


 連れて来られたのは、父と王都へ共に向かった父の侍従兼護衛のポールだった。


「申し訳ございません、奥様。俺が付いていながら…」

 そうポールは言うと、帽子を鷲掴み、クシャクシャにし、下を向いた。


 その姿勢のまま、これまでの父の行動を話し始めた。





逃走編、続きます。


=memo=

バーテン辺境伯領:ミシェルの伯母の嫁ぎ先で、サル公国(亡命先)に接している地。

叔母さん:アン・バーテン

いとこ(アンの子供たち):ジャンとガブリエル

父の侍従:ポール


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