婚約破棄は突然に
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第一王子、寄宿学校卒業の夜。
第一王子が主催した盛大な卒業パーティーが王家の所有する王都の屋敷で開かれた。
その際に、例の事件が起こったのだ。
卒業パーティーへは、卒業生が参加し、皆、同伴者を連れてくる。
貴族なので婚約者がすでにいる者も多く、主催者は王族というのもあり、皆、同伴者として婚約者を連れてきていた。
しかし、その日、主催者である第一王子が連れてきた相手は、婚約者ではなく、家族でもない、例の意中の女性であった。
入場した際に会場がざわついたが、あの第一王子だからこういう事もありえると、いつものように大目に見られ、すぐさま流された。
皆、寛容になり過ぎである。
だがしかし、今回はそれだけでは終わらなかった。
第一王子の婚約者が会場へと乗り込んできたのだ。
婚約者は第一王子派の重鎮の娘、イル公爵令嬢であった。
重い空気がパーティー会場を凍らせた。
誰も身動きが取れない。
そんな中、第一王子と公爵令嬢の言い争いが始まる。
「ルイ様!そこに居る女はいったい誰です!?婚約者の私の出席を直前になって断っておきながら、そんな低俗な女を連れてきているなんて、どういう事ですか?こんな仕打ち、許せません。」
激おこだ。
「何を言う、お前の父親が強引にお前を私の婚約者としたのだろう。私はこの婚約を認めていない。私の認めた私の婚約者は、ここに居るレニー男爵令嬢だぁーだぁーだぁー。」
その王子の言い放った言葉はパーティー会場の隅々まで響き渡った。
「ひぃぃぃぃぃいいいい」
兄が悲鳴を上げた。
兄だけでなく、第一王子派の子息達も共鳴した。
そして、止めの一言を第一王子が言い放つ。
「ルッツ国第一王子 ルイ・ド・ゴールの名において、イル公爵令嬢との婚約をこの場で破棄する。そして、私はここにいるレニー男爵令嬢を新たな婚約者とする。私はここに宣言する、彼女を幸せにすると。」
そう一人盛り上がり、高々と婚約破棄を申し出たのだ。
これは、王子だからでは済まされない失態。
ここは、寄宿学校と言う子供だけの閉鎖的空間ではない。
彼らの親族も出席している。
卒業に浮かれて、可愛い令嬢を連れていちゃついたくらいならば、まだ見過ごせはしたが、婚約破棄という大事を公の場でしたという事実を隠すことなど到底出来ない。
ザ・爆弾発言。ボムッ!
兄は失神しそうになった。
どうしよう??と、狼狽えて考えを巡らせていると、広間の扉が開き、神々しいブロンドの髪をなびかせ、彼が姿を現した。
第二王子のユーグ・ド・ゴールである。
「兄上、この騒ぎはどういう事でしょうか?」
スペシャルバットタイミングである。
その時の兄は最高に恐怖で身を震わせていた。
そんな今にも失神しそうな兄の心情を無視し、彼らの会話はどんどん進んでいく。
「ユーグ殿下、いいところに来て下さいました。たった今、ルイ様が私との婚約を破棄し、あそこにいる令嬢との婚約を宣言したのです。」
イル公爵令嬢が第二王子へ告げ口する。
「何だって!?兄上、ここは公の場です。それに、イル公爵令嬢との婚約は、王家と重臣であるイル公爵との間で交わされた重大な契約。そう易々と破棄など出来ません。」
第二王子が婚約は無効だと否定する。
「そんなの、ダ~メ~だぁ~!!俺の意思無く勝手に決められたんだから、勝手に破棄していいに決まっているのだ。俺はレニー嬢と婚約したいの~絶対に婚約するのぉ。」
第一王子が腕を振り回し、ごねた。
すると、王子の横にいた者が一歩前へ出て発言する。
「申し上げます。彼女との婚約は致しかねます。なぜならば私がレニー嬢の婚約者だからです。私と彼女はお付き合いをしているのです。私には、今は、彼女とは別に政略的に決められた不愛想な婚約者が居りますが、すでに解消に動いており、話が着き次第、レニー嬢と婚約を結ぶこととなっています。ですので、私が彼女の真の婚約者であります。殿下の宣言は撤回していただきたいのです。」
殿下の横に居た男が言い切り、レニー嬢の横へと移動した。
おい、ちょっと待て!?
お前は俺の妹ミシェルの婚約者だろうが!!!!
兄は体を震わせながら、全力の突っ込みを心の中で入れていた。
「そんな…私も、私もレニー嬢と親しい間柄であります。彼女は私の妹とも仲が良く、のちのち私も彼女を第二夫人へと迎えようと話は進んでいました。」
第一王子の取り巻きの一人がブツブツと言いだした。
「何を言う、私だって、彼女とは親しいぞ。家族にも紹介済みだ。だから、私がのちのち愛人にするはずであったのに。」
その隣にいた奴がグチグチ言いだ続いた。
「何という事だ。レニー嬢、これはいったいどういう事なのか?」
第一王子がレニー男爵令嬢に問う。
すると、
「さあ、私はなんのことだか、さっぱりわかりません。確かにここにいる殿方とは、皆、よき友人として仲良くさせていただいておりますが、私は誰ともお付き合いしておりませんわ。それに、皆さま、婚約者がいらっしゃいますし、身分の差もありますので、ここに居る方々との深い関係なんて微塵も考えた事はありません。全てご冗談と受け取っておりました。つまり、私は誰とも、そのような関係にはないということです。」
キッパリと言い切った。
何これ…我々は何を見せられているのか???
会場中が混乱している。
「兄上!!兎に角、騒ぎが父の耳に入る前に閉会を。あとは王宮で話をいたしましょう。」
そう第二王子が取りまとめ、パーティーに来ていた者達は蜘蛛の子を散らすように帰っていき、お開きとなった。
猛スピードで帰宅した兄は疲弊しきっていた。
我が家のサロンでこれらの話を聞いた家族は、酷く落ち込んだ兄を心配し、これからのトロワ家の行く末を案じる。
「まさか、あんな公の場で、あんな発言をするなんて…せめて愛人止まりにしておいてくれよ…ああもうクズ王子…いいや、俺のせいで、俺のせいでトロワ家は終わりだ。」
そう呟き、椅子に座ったまま、抜け殻となった。
翌日、ある物がトロワ邸へと届く。
ミシェルの婚約者からの婚約解消の書状である。
「そういえば…昨日、そんなようなことをアイツがパーティーで言っていたよ。」
精気を取り戻し、不貞腐れた兄がテーブルに並べた大きな菓子をガツガツ食べながら、昨日パーティーであったことを話す。
「あいつとの結婚生活はどう考えても無理だったから、正直助かった。ヒャッホ~イ!」
ミシェルが大きな菓子を切り分け、小さくしてはヒョイヒョイと口に運び、嬉しそうに述べた。
もともと我が家を第一派閥に引き入れる為に圧力を掛けられ強引に結ばれたものだから、解消されても、ミシェルにはなんの気持ちも無く、我が家にも損失は無い。
むしろ呪縛から逃れられて大変喜ばしい限りであった。
「そうか…そんなにも…分かった。父が責任をもって片付けておくよ。早急に確実に処理する。ミシェル、今日まで本当にすまなかった…グスッ。」
父が目に涙を溜めながら、そう言ってマフィンを口いっぱいに頬張った。
その時に、家令が書簡を持って急いでやってきた。
父へと渡す際に、手が震えていた。
「旦那様、お手紙です。おおおお、王家からでございます。」
家族に衝撃が走る…。
一瞬間をおいて、皆がアタフタする。
「と、とりあえず、読んでみましょうよ。」
母が一番早く冷静になる。
手紙を開けて見ると、こう書かれていた。
“トロワ子爵家は全員、明朝、王城へ参上すること”
これにより、トロワ家は確信した。
こりゃあ、やっちまったな~!?
家族総出!?お家取り壊し、はたまた断罪か!!!!
すぐさま家族会議が開かれる。
「これは、第一王子をフォロー出来なかった私の責任です。私が王城へ行き、全ての責任を私のみが負うようにお願いしてきます。私の能力が足りなかったばかりに、私が悪いのです。皆、すまん、すまんかった~ああああああ。」
兄が机を悔しそうに叩き、涙ながらに話す。
「いいや、私が任務を引き受けたりしなければ、こんなことにはならなかったのだ。私が王城へ行き、話を着けてくる。私が全ての責任を負う。だから、心配しなくて良い。この家は私が守ろう!ロベール、後の事は任せたよ。ああ、皆を心から愛しているぅぅぅぅ。」
「とぅ~さぁ~ん!!!」
親子で涙を流し、抱き合う。
ネガティブ親子劇場。
「ねえ、みんなで謝ったら許してもらえないの?もとはと言えば、王弟様の依頼だし、王弟様に協力してもらえばなんとか出来ない?ねえ、試しに話してみようよ。」
ミシェルが言うと、
「いいや、駄目だ。あの方に決して迷惑は掛けてはいけない。これは我が家の問題なのだ。我が家で解決せねばならない。やはり私が…みんな、骨は拾っておくれ。」
父が声を絞り、涙を流し言い切った。
「どうにか逃げられれば…」
兄が小さく呟く。
静まり返ったあと、母が立ち上がりこう言った。
「じゃあさ、この際、亡命しよう!!」
嬉しそうにそう言い切った母を、皆が驚きの表情で見上げた。
「ほら、私の実家ってルッツ国の法が干渉できない隣国だし~そっち行っちゃえば、手を出せないじゃん。やっちゃったことも言わなければ隠し通せるわよ。ねっ、何とかなる。」
そう提案した母の言葉に、それだぁあ!!と皆が賛成した。
追い込まれてテンパっている家族の心理は決断を誤爆される。
「それじゃあ、亡命決定!平穏な生活を取り戻すぞー。」
「「「オォー!」」」
こうして、我が家は亡命を目標に動き出すのである。
=登場人物メモ=
第一王子:ルイ・ド・ゴール
第一王子の婚約者:イル公爵令嬢
第二王子:ユーグ・ド・ゴール
次回から逃げます。また来週。