命、殿下の改心
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卒業の日の朝、兄が清々しい表情で出かけていく姿を見た。
それはなぜかって、今日で第一王子の御守から解放されるからだ。
だがしかし、現実はそうならなかった。
大量の汗を掻き、青ざめ、今にも泣きだしそうな表情を浮かべて、兄は帰ってきたのだ。
あの時のこの世の終わりといった兄の表情は、脳裏に沁みついて忘れられない。
その時に兄から発せられた言葉が、これである。
「失敗してもうたぁぁぁぁ。」
その一言であった。
何を失敗したのか、それは、第一王子の尻拭いである。
王弟が尋ねてきてから、兄は第一王子のサポートをする為に、第一王子と同じ寄宿学校へと入学した。
王弟の息のかかる学校らしく、教師陣は兄に協力的であった。
兄は第一王子の側近にはならず、指導は教員に任せて、サポート要員として必死に動く。
実は、これが、我が家が力を貸す上での第一条件であった。
トロワ家は目立ってはいけないので、王族には近づきたくない。
よって、側近には決して加わらず、王族には過度に接触しないという約束であった。
兄は、第一王子のサポートを行うための地盤造りを始める。
何も分からない転校生を演じ、あらゆる人に声を掛け、独自のコミュニティーを作り上げていった。
実は我が家の男児は家門の黒歴史があるせいか、基本的に腰が低く、ネガティブ思考だ。
だが、危険察知が得意で頭がよく回り空気を読み、とても冷静であった。
人を観察し、心を汲み取り、人を動かす事に、かなり長けていた。
そして、人の心にスッと入り込むのが、べらぼうに巧かったのだ。
第一王子が何か問題を起こせば、その分野に力を持つ者に助けを求め、誘導し動いてもらう。
王子のやったことに正統性を持たせ、コミュニティーを使って火消しに走るのが鉄板だ。
本当に今回はマズいかもという事態が幾度もあったそうだが、ギリギリのところで乗り越えていたそうだ。
そして、王子はこれまでの失敗をとても反省しているが王族だから容易く謝れないと寛容に見ようなどと、うまい具合に話を持っていき、触れ回り、印象を操作していった。
その作業を地道に続けた結果。
さて、どうなったでしょう。
第一王子の評判が、良くはないが悪くもならない。
地に落ちることはなく、王子だから仕方がないのだとかなり許容されるようになっていったのである。
これは、素晴らしいです。
凄い事なのです。
そうです、寄宿学校生の洗脳が大成功したのです。
このままいけば及第点といったところだったのに…。
最後の最後に兄は失敗したらしい。
分岐点は、何処だったのか?
第一王子の卒業間地に兄が10日間寝込んだことから不協和音が響きだす。
寝込む前の兄からの手紙で、ここ最近ずっと体がだるいのだと不調が記されていた。
後に分かったことだが、どうやら友人から貰った美味しい高級茶が原因だったらしい。
それには兄の体には合わない食べ物の成分が微量に含まれていた。
兄はその食物を口にすると腹を下し、ブツブツが体に出来たりするので、避けていたものなのだが、形が見えないのと、そのお茶の味が美味しかったので、知らずに飲み続けてしまい、最終的に高熱にうなされたのだという。
そして、第一王子卒業間際の10日間を、寄宿学校の寮でひとり寝て過ごした。
もうすぐ卒業=任務終了という事もあり、気がかなり緩んでしまっていたのだと兄は亡命中に深く反省していた。
そして、高熱で何も口に出来なかった兄の体調が戻り、卒業直前に学校へ顔を出す。
すると、第一王子の様子がガラリと変わっていた。
驚くことに、別人のようにきちんとしていたのだという。
何があったのかと不振に思って調べたら、兄の休んでいた間に、王子は心から愛する者を見つけ改心したとのことであった。
短期間に愛する者を見つけたとか、ありえるのか?と驚いたのだが、調べて見ると兄が休んだ翌日に、愛する者とやらに王子は出会っていた。
寄宿学校へ通う家族へと、急ぎの用で面会するために訪れたというご令嬢が、とても美しく一目ぼれをしたのだと本人がそう所かまわず、頭から花を咲かせて学校中に触れ回っているのであった。
婚約者がいる身でありながら如何なものかと思う反面、意中の相手の為にと心を入れ替え、こんなにも人は変わる事が出来るのだと感心した。
そのため、今すぐに、その相手を排除しなくてもよいだろうと、兄は判断してしまった。
この判断がダメだった…。
あの結果へと繋がってしまったのだから。
主人公が出てこない。
次回、第一王子の卒業パーティー!
異世界恋愛ときたらの例のアレが起きる…。