王弟様の頼み
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「ねえ、なんで逃げたりしたの?ねぇ、なんで?」
またもや、王子からの同じ質問である。
何度もしつこく聞かれるのも嫌なので、話してよい部分だけ、レオン殿下に話すことにした。
時を遡る事、3年前。
我が家に王弟様が尋ねてきた。
「頼む、シモン!昔のよしみで、私の頼みを聞き入れてほしい!」
王弟様が、我が家へ来て、開口一番に父へと発した言葉である。
“謙虚な態度で、堅実な仕事を、領民を大事に“
を、モットーとしている地味貴族のトロワ家にこの言葉を浴びせるという事は…余程、切羽詰まっていいたのだろう。
現子爵(ミシェル父)の前の前のトロワ子爵が、中央議会でふとした助言をしたところ国に大きな利益をもたらした。
その褒賞にと器に合わない官職を与えられ大出世を果たしたのだ。
所謂、棚ぼた出世であったため、彼はのちに苦労する。
そして、環境が彼を大きく歪ませ、変えてしまったのだ。
当時のトロワ子爵は、傲慢な人間へと変貌した。
周囲に溶け込むために高位な貴族に胡麻をすり、賄賂を渡し、悪事を働く。
高級品を好み強欲な性格となり、自分より立場の低い者を見下げ、優越感に浸るようになる。
高価な品を購入する為にトロワ子爵は、家の全資産を食いつぶすと懸念されるほど使い、領民からは貢納をふんだんに徴収した。
更に欲は強まり、権威を得ようと当時の王女へと手を伸ばそうとした。
だが失敗に終わる。
それにより当時の国王の怒りを買い、社交界での信頼を失った。
そして、強欲な子爵は処罰された。
急遽、弟が家を継ぎ、必死で尻拭いをし、王族からの恩赦もあり没落は免れることとなる。
これにより、同じ過ちを犯さぬようにと戒めとなって、代々このモットーを受け継ぐようになったのである。
ちなみに、話に出てきた家を立て直した傲慢な子爵は祖父の兄、よって傲慢な子爵の弟がミシェルの祖父である。
王弟と父は、寄宿学校で知り合ったそうだ。
王弟は頭の切れる伯母に手を出したのにも関わらず、没落を免れたトロワ家に興味があったらしく、寄宿学校で貴族たちに嫌がらせをされていた父を見かけて、積極的に話し掛けてきたそうだ。
そして、王弟の見込み通り、当時のトロワ子爵(祖父)は大変に優秀であり、昔のトロワ家と今のトロワ家は大きく異なるのだと触れ回ってくれて、社交界での悪い噂を払拭してくれた。
これにより、トロワ家は名誉挽回となり、完全に平穏な日々を取り戻させてくれたのだ。
我が家にとって、王弟様は救世主である。
さぞかし今でも仲良しで、付き合いも盛んであろうと思われるだろう。
しかし、2人は寄宿学校卒業以来、手紙のやりとりしかしていないのだ。
寄宿学校代は2人ともカルチョ(昔のサッカーみたいな遊び)がとても上手く、趣味も合い、兄弟以上に意気投合する2人であったのに。
王弟は将来永劫、父を傍に置きたいと望んでいたが、父は王弟の側近に加わることはなかった。
“トロワ家のモットーを守るために“
社交シーズンの議会には義務なので、嫌々ながら参加はするが、ひっそりと隅で影を薄くして目立たないようにして過ごす。
王族と中央政治には出来るだけ関与せず、領民の幸せだけを願いながら毎日一生懸命働く。
それがトロワ子爵家の基本の考えだ。
王弟も我が家の事を理解してくれていた。
基本領地に引きこもっている父のもとへ、わざわざ王弟はやってきた。
これは我が家には大変な珍事だったのである。
話を聞くと、国王の長子、第一王子ルイの素行がかなり悪いらしい。
それをサポートしてくれる優秀な人材を探しているというのだ。
もうすでに、何人か優秀だとされる人材を彼のもとへと送り込んだのだが、なぜだか、皆、第一王子と共に悪行に励んでしまうのだとか。
「規則の厳しい寄宿学校へ放り込んでみた。なんとか矯正させようと頑張っているのだが…良い人材を探している時に、リストにお前の息子の名を見つけて、俺は歓喜した!お前の息子ならば、絶対にやり遂げてくれるだろうと。頼むシモン、お前の息子を貸してくれ!」
王弟の必死の頼みに、父は熟慮した。
そして、条件付きで引き受けたのである。
そして、あの日を迎えた。
忘れもしない、第一王子の学校卒業の日である。
説明ばかりになってしまった…
あ、シモンはミシェルの父の名です。シモン・フォン・トロワ子爵。
王弟はミシェル父が大好き。
続きます