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連行中

目に止めてくださりありがとうございます。

西洋風恋愛モノです。



 ここは国境に隣接したバーテン領の端に流れる川の河岸付近。


 私達は、奴らに見つからぬように、目の前の川を渡るため、生い茂る木々に紛れ潜伏し、息を殺し、少しずつだが河岸へと移動していた。

 亡命まであと少し、この川を渡り、向こう岸の緩やかで低い斜面を登り切れさえすれば、そこは隣国領、サル公国の景色が目の前に広がる地となる。

 その場所まで目と鼻の先なのだ。


  “いける!!”


 亡命の成功は間違いないだろう。

 そう考えた時、後方から多くの馬の掛けてくる音が聞こえた。


 兄が叫ぶ。

「川を渡れー!」

 その声に従い、動き出す。


「待て、そこを動くなー」

 第三王子レオンの声だった。


 そして、近衛騎士達による対岸と背後からの包囲網により、私達家族は捕らえられてしまったのであった。


 -----亡命計画、失敗。


 呆気なく我が家は終わりを迎えた。


   ***


 いえいえ、皆さま、私はまだ諦めておりませんよ。

 ここからだと思っていますから。


 私の名前はミシェル・フォン・トロワ。

 ルッツ国の平凡貴族、トロワ子爵家の令嬢です。

 わりと楽天的思考の持ち主です。


 いやはや、まいった。

 実は今、私ったらこの国の王子よって捕らえられて、王都へと連行されている途中なの。


 まさか、平凡地味貴族である我が家が強い決意を持って亡命を試みたってのもかなりの驚きだけれど、こうもあっさりと失敗に終わるとはね。

 でも、この案件も、我が家が地味過ぎて社交界のネタにもならないはず。


 それにしても、ショック。

 何がって?

 身近に勤めていた者が王家の間者だったという事実が発覚したの…。

 私の幼少期から時を共にしてまるで家族のように心を許し仲良くしていた人物にも関わらず、王家のスパイをしていたなんて、すっかり騙されたわ…。


 敵には全てが筒抜け、何もかも上手くいかなかったというわけなのよ。

 本当に、自分の鈍感さに呆れたわ。


 あああああああああ、奴らを絶対に許さないんだからー!?


 心の中で叫んでいたら、すぐ側から声が掛けられた。

「シェ、いや、ミ、ミシェル嬢。聞きたいことがある。トロワ家が逃亡した理由を教えてくれないか?」


 そう尋ねてきたのは、私を監視するために二人乗りの馬車に同乗しているルッツ国の第三王子レオン・ド・ゴールである。


 今、二台の馬車に分かれて王都へと向かっている。

 前を走る大きい馬車には、私の母と兄と第二王子ユーグが乗り、後ろの一回り小さい馬車に、私と第三王子レオンが乗っている。


 正直、2人きりは…非常に気まずい。

 レオン殿下とは、ほぼほぼ面識がない。


 なんで、レオン殿下と私が2人きりなの?と、聞けない状態のままグイグイ押されて馬車に押し込まれた。

 彼は自国の王子だし、噂程度のスペックや顔くらいは私も知っているのだけれど、これまで会話もゼロと言っていいほど話したことない人物だ。


 それなのにこの人、初対面で私の事をミシェル嬢とか呼んじゃって馴れ馴れしい奴だわ。

 名乗ってもいないのに名で呼ぶし、さっきから嘗め回すように見てくる視線が気持ち悪い。

 間を置かず話し掛けてくるし、この男、噂とはと違って、実はナンパ野郎なのかしら?

 体に触ってこようものなら王子であっても容赦なく顔面パンチをお見舞してやるわ。

 王子だからって、何でも許されると思っていたら大間違いよ。


 いきなり距離縮めてくるタイプって、馬鹿か腹黒しか会ったことないから、地味にちょっと怖いってのもあるのだけれど…うーん、こう言うタイプは本当に苦手だ。


 我が家は、絶対に認めたくはないが、第一王子ルイ派閥である。

 それなので、他の王子とは親しくしてはならないと強く教えられた。

 まあ、それ以外にも、王族と関わらないという理由はあるのだけれど、それは追々という事で。


 でも、彼とは年が近いから、きっと何かしら会う機会はあったはずだ。

 覚えていないけれど、挨拶程度の軽い会話ならしたことがあるのかもしれない。

 しかし、派閥でのいざこざは面倒だし、そういう訳だから極力他の王子には関わらないよう、ミシェルは過ごしてきた。


 だが、何故だ?この近すぎる距離感はなんだ??

 私は親しくした覚えは一切ないのに、やっぱりこの王子、おかしくないか??


 ていうか、我が家の亡命を阻止したのは、コイツ!

 目の前に居るコイツなのよ!!


 コイツに捕まったのよぉー。

 コイツに私が腹立っていないわけないじゃない!!

 ねぇ、そうでしょう?

 よって、狭い馬車内で横並びの2人きりとか、私には拷問だわ。


 死んだような目をしていると、レオン殿下がしつこく話し掛けてきた。


「なあ、なぜ君達が亡命なんて馬鹿げたことを考えたのか、教えてくれないか?」

 答えが来ないので待ちくたびれたと言いたげな物言いで催促した王子の質問に、ミシェルは配慮の無い奴だと、押さえていた怒りがカッとでてしまった。


「もとはと言えば、第一王子が悪いんでしょうがっ!!」

 無意識に声に出してしまった。


 ヤバッ、ヤバい!この人、この国の王子だよ…ひとまず言いなおそう。


「だ、第一王子様があのようなことをなさいましたのがいけないのでございますよ…オッ、オホホ、オホホホホホ。で、ですから、ク…ル、ルイ殿下があんなことをなさらなければ、我が家だって亡命しようなどとはしませんでしたのよ…オホホ、大変失礼いたしました。」


 つい無礼な発言が出てしまい、慌てて回答を発したため、第一王子をいつもの家での呼び名(グズ王子)で呼びそうになり、さらに焦り、言葉に激しく動揺が現れてしまった。


 落ち着け~落ち着くのよ、ミシェル。

 大きく深呼吸をする。


「ハハハッ、君のそう言うところは、実に可愛らしい。」

 目の前の王子が何やら失敗した自分を見て笑っている。

 ク~、無邪気で無垢っぽいのがさらに腹立つ。イラつく。

 皮肉でも言い返してやりたい。

 でも、王子だから機嫌を損ねる事は出来ないわね。

 今は絶対に逆らうような真似はダメ!抑えるのよ。

 イエスしか言えない首振り人形よ。


 もし今後、トロワ家に何らかの処罰がくだるならば、ここでなんとか王族に良い印象を持っていてもらわないといけないのよ。

 ご機嫌取りをしておかないと刑を軽くしてもらえなくなっちゃう。


「あの、それよりも、我が家は処罰を受けるのでしょうか…もしや処刑とかには…」

 ミシェルは、両手を握り絞め、王子へと必死な表情で伺う。


「大丈夫!君の不安に思うようなことには絶対にならないから。安心して。」

 ニコニコ笑いながら、王子は返すのであった。


 …やはり腹黒?腹黒なのか!?


 ミシェルはこの王子の笑顔が信用ならず、不安でしかなかった。

 お家柄、王家を信用していないので、彼の事も到底、信用はできない。







=登場人物メモ=

ミシェル・フォン・トロワ:主人公、トロワ子爵家令嬢

レオン・ド・ゴール:ルッツ国第三王子


=用語メモ=

ルッツ国:自国

サル公国:ルッツ国の隣国(ミシェル母の母国)

バーテン領:サル公国に接したルッツ国の領地、辺境。


1話で煽りの亡命出来るのか!?のネタバレとなりました。

すみません。

ありがとうございました。

続きます。


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