やっぱり無双は異世界で。~電子レンジってスキルですか?~
テンプレ書こうとしてこうなりました。
キキキキキキィイイイイイ――――――ッ!!!!
コンビニでのバイトの帰り道、俺は道に飛び出した猫を助けようとしてトラックに轢かれた。
だって、にゃんこだぞ?
助けないでどうする!?
………………
………………………………
………………………………………………。
『起きろ。起きるのだ、心優しき者よ……』
な、なんだ?
どっからか、偉そうなじぃさんの声がする。
『わしは神だ。善き行いを称賛し、お前に素晴らしい贈り物をやろう』
贈り物……?
あぁ、あれか。
どっかのラノベでよくある、トラックに轢かれて死んで、気付いたら異世界に転生ってやつだな?
贈り物ってのは“チートスキル”とかいう、その世界でウハウハで暮らせる能力的なもんで…………
『そうだ。その能力があれば、お前は一生平穏に暮らせるであろう』
おお…………これまでの人生、何ひとつパッとしない俺だったが、生まれ変わったらバラ色の生活が待っているのか!
『若者よ。お前の人生に幸あらんことを……』
ありがとう神様!!
俺、新しい世界で精一杯生きるよ!!
異世界で“無双”してやるぜぇぇぇっ!!
そして、俺は目覚めたのだ。
――――三日後。
ピロピロピロピ~~ン!
「いらっしゃいませ~」
ピピ、ピピ……
「こちらのお弁当温めますか?」
「お願いします」
「かしこまりました。先にお会計、失礼します」
俺はコンビニのバイトに復帰していた。
死んでねぇえええええええっ!!!!
生きてる、俺ガッッッッッツリ生きてるぅぅぅっ!!
しかも、トラックに轢かれたといっても、ミラーに洋服をひっかけて転んで、ちょっと打撲と擦り傷程度で済んでいたし。
……ということは、あの神様も夢かなんかだったということか。そうだよな。世の中、そんなうまい話はない。
あー……、異世界転生してぇ。そして、スキル持ちで財産築いてハーレム作ってウハウハしてぇよぉ……ラノベの世界は男のロマンだよな。
しかし、現実はこんなもの。
大学卒業までに職が見付からなかった俺は、コンビニのバイトをしながら、必死に正社員の募集を探している。
特に特技も、のめり込む趣味もない。
バイトで食いつなぐだけの生活なので、貯金もほとんど無いと言っていい。
ピ――――ッ!
今日も客の弁当を温めながら、冷めた心で一日を終えていく。
そして、バイト復帰から一ヶ月ほど経った頃……
「いやぁ、やっぱり君に弁当を温めてもらうと、最高に旨いんだよ。また頼むね!」
「え? はぁ……ありがとうございます……?」
ある日、店によく来る作業服を着たおっちゃんに、そんな言葉を掛けられた。
え~と? 弁当を温めただけだよな?
しかし、これは始まりにしか過ぎなかった。
「あ、いたいた、兄ちゃん! 弁当、温めてよ! いつもみたいに!」
「この間、お兄さんの温めたブリトー、すごく美味しかったよ。温め方、上手だねぇ!」
「おにぎりなんて普段は温めないけど、君が居る時は温めていくんだ。本当に旨くなるからねー」
コンビニに来る客に次々と誉められるようになった。
何故かレンチンしているだけなのに。
…………何だ? この賛辞は?
『お宅の店のバイトの兄さん、え~と、名前なんだったかなぁ……とにかく、弁当の温めが天才的だよ。できたら、その兄さんのバイトに入る日、教えてくれないですかね?』
ついには店にそんな電話もきた。
まぁ、もちろん、シフトを教えることはしなかったそうだが。
「君……何かやった?」
「いえ、何も…………?」
店長が訝しげにこちらを伺ってくるが、悪いことではないので、この後は素直に誉められた。しかし、誉めている方もしっくりきていない様子。
…………何かが、俺に起きている!?
そんなある日の晩。
俺は夢を見た。出てきたのは、あの“神様”だった。
『ヤッホー、バイトがんばってるぅ?』
ハゲ頭の白髭。どこかで見たようなじぃさんの神。
あれ? こんな話し方だったっけ?
『あぁ、今日は様子見に来ただけだからの。ほれ、やっぱりスキルを与える時は、威厳たっぷりで与えたいじゃないか?』
っ!? スキル!?
そうだ、俺にスキルを与えるって…………
『うんうん、与えた与えた』
それって……
『“電子レンジを最高に巧く使える”っていうスキル』
おーまいごーっと……
『えー、だって、お前の生きてる世界は電子レンジっていう、人類最高の道具があるじゃないか。このスキル良いぞ? “家電の神”のわしが言うんだから間違いない』
…………“家電の神”……?
『そうそう。元々はわしは竈の神なんだけど、人間の進歩は著しくてのぅ。あっという間に竈なんて、一般家庭じゃ使わなくなったから、台所の機械を見守ることにしたんじゃ。ちなみに、掃除機や洗濯機とか台所以外は別の神と分担で…………』
はぁ……。
神はどうでもいい話をして帰っていった。正確には俺が夢から覚めたのであるが…………
「……つまり、俺は死なずにスキルを与えられたのか」
スキル【電子レンジを最高に巧く使える】
俺が自称“家電の神 (台所限定)”から与えられたもの。
電子レンジだけかよ。ピンポイント過ぎる。
俺はこの先、自宅とコンビニのバイトだけでこの力を発揮するわけだ。
レンジを使う冷凍食品とか、チルド食品だけしか得がねぇ。ガッデム!!
しかし、まったく得をしなかった訳ではない。
俺の電子レンジのことが口コミで広がり、コンビニには多くの弁当を買う客が訪れるようになった。
おかげで俺の時給も少し上がり、シフトも増えたので貯金もできるようになった。
さらに店長が始終ご機嫌に。
だがしばらくすると、他の店員も電子レンジ技術が上がってきて、シフトが俺と遜色なくなってきたのだ。
はぁ、俺の天下も短かったなぁ……。
「あの…………ちょっといいですか?」
「ん、何?」
そろそろバイトの時間も終わりという頃、今日は一緒の時間に入っていたバイトの娘が、俺に恐る恐る声を掛けてきた。
店内には客もおらず、俺たちだけだ。
「実は……先輩にお願いがあって……」
この子は最近入ったばかりの女子高生で、とてもかわいい顔とそれに合ったスタイルの持ち主だ。そんな彼女が、うるうるとした上目遣いで俺を見上げてくる。
か、かわいい!! いや、落ち着け自分!
「コホン……あー、お願いって?」
「あの先輩……こんなこと、頼めるのは先輩だけで…………その……あの…………」
言いにくいのかモジモジしている。かわいい。
「こ……今度の日曜日、シフト入ってませんよね?」
「え? うん」
「あの、お……お父さんに……私のお父さんに会っていただけませんか!?」
えぇ――――――っ!?
急にお父さん!? まさか、け……結婚!?
…………その後はあまり覚えていない。
気付けばろくに話も聞かずに、彼女に父親に会う約束をしていた。覚えているのは、彼女がニッコリと喜んで俺の手を取ってぶんぶんと握手してきたこと。
握ってきた手がしっとりと柔らかい……。
そして日曜日、彼女に指定された待ち合わせに向かうと…………
「いやー、君が噂の娘のバイトの先輩か!」
「は、はいっ!! 初めまして!!」
お父さん、スゲー貫禄! 社長!!
「娘から聞いているよ! 今日はよろしく!」
「は、はいっ!!」
………………
…………………………
「…………で、ここで」
「はい……」
「他に質問は?」
「いえ……特にないです……」
とある家電量販店の店先。
俺は約三十分の間、社員さんから『実演販売』のレクチャーを受けていた。
何でも“大量に売れ残っている、このメーカーの電子レンジを売り捌いてくれ!”ということだった。
ちなみに社長の娘さんである、バイト先の女子高生は“友達”と遊びに行ってしまったそうだ。
うん…………“友達”ってぜってぇー彼氏だと思う。
もはや、どうでもいいんだけど。
「はい、ではこれが『取り扱い説明書』です。一応目を通しておいてください」
「はい……」
そこまで分厚くはないが、昔からこの手のものは苦手だった。
バイト休みの日にバイトかぁ…………何やってんだろうなぁ。
この電子レンジの在庫は全部で1000台。
実演販売で温めて試食させるチルド食品が段ボールで五箱。
「……………………フッ……」
フフ、アハ、アハハ……アハハハハハハハッ!!
パラパラと説明書をめくりながら、自分の心の奥底からフッと何かが湧き上がってくる。
プツン。と…………何か音がした。
ふぅぅぅざけんなよぉぉぉ、チキショー!!!!
こうなったら、一日で電子レンジ全部売ってやっかんなぁあああっ!! そんで、この会社を叩き台に出世してやるぅぅぅっ!!!!
この日、俺は『目覚めた』のだった。
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西暦2XXX年。
ある会社の理事長に案内され、私はある大手家電量販店の本部にある資料室へ通された。
「本日はお越しいただき……」
「挨拶はいいわ。例のものを……」
「――――こちらが、わが社に保管されている資料になります」
「ありがとうございます。拝見致します……」
ファイルの1ページ目を恐る恐る開く。
「……これが私の『先祖』の……」
「ええ、あなたのご先祖様が、わが社で起こした奇跡の記録です」
今から遡ることXXX年。
私の先祖はこの会社へ、単なるアルバイトとして来た。
その時、彼に課せられたのは当時の家電『電子レンジ』。当時はどこの家庭にもそれは普及し、もはや買い換えでもない限り、消耗品のようには売れるわけがない。
しかし……
「私の先祖はたった数時間の実演販売で、1000台もの『電子レンジ』を完売させ、それを機に一気に家電の歴史を変えていった……」
彼が行った実演販売は、温める食品の力を無限に引き出した。
さらにはそこから機械の性能から、別の成果を発見し『電子レンジ』をただの家電から、人類の叡智の結晶にまで押し上げた。
「まさか食品の分類でしか使えない『電子レンジ』に、ここまでの可能性を見出だすことになるとは、その当時の我が社の者たちも思わなかったでしょう」
「そうですね。そのおかげで彼の家系は……子孫の私たちが『電子レンジ』の生産だけで繁栄できるまでになったのです。そして、それはまだ続きます……」
私は持ってきた鞄から、大きめの茶封筒を取り出す。
「これは……?」
「我が家の開かずの『電子金庫レンジ』から発見されました。厳重に管理されていたのですが、最近になって金庫が急に開いたのです。紙くずと一緒になっていたので、危うく棄てられそうになっていましたが……」
「拝見しても?」
「どうぞ。筆跡から、おそらく“彼”の遺産だろうと言われています」
「失礼します……」
茶封筒の中にあった、古い紙の資料に目を通した理事長は驚愕の表情で固まった。
「こ、これは……なんという……!?」
「えぇ、この『設計図』はこの紙の資料にしか残っておらず、これが発見されたことによって『電子レンジ』の可能性がさらに広がることになります。あれを……ここに」
パチン。
私が指を鳴らすと、扉の向こうから私の付き人が荷台を転がして入室してくる。
「これが、この資料を基に作成したレプリカ。『時空転送電子レンジ』……つまり『タイムマシーン』です!」
「なんですと!? タイムマシーン!?」
「そう……電子レンジから発せられる電磁波を分析して、そこの成分を…………いや、これ以上は資料を読んでください。しかし、先に行われた動物実験では、5分前と5分後の転送に成功しています」
「『電子レンジ』にまだそんな可能性が……!!」
「“電子レンジの可能性に底はない”……私の先祖が遺した言葉ですよ。その他にも、金庫からは別の資料が発見され、今はその解析に大忙しです。さらっと見たもので『万能薬が作れる電子レンジ』『惚れ薬が作れる電子レンジ』『空間を移動できる電子レンジ』『破壊兵器電子レンジ』……など」
「まだ『電子レンジ』の繁栄は続くのですか!?」
「続きますよ……恐ろしいことです……」
子孫の私でさえ、この先に何があるか解らない。
「ご先祖様……あなたはどんな気持ちで『電子レンジ』の繁栄を考えていたのか……」
私は天を仰いでため息をついた。
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所変わって、ここは【天国】。
「いいか!! 次はぜってー『異世界転生』『無双チート』『ハーレム』希望だからな!!」
「なんじゃ……お前、生前は『電子レンジ』で無双チートしたじゃろ?」
「ひたすら六十年以上『電子レンジ』のことばかり考えさせられたぞ!! 中二病のような設定の『電子レンジ』ばかり浮かんでくるから、メモに書きなぐって永遠に封印してやったわっ!!!!」
溢れる余計なアイディアは表に出せば落ち着いた。
しかし、書いてすぐに捨てようとすると、メモをゴミから拾われて商品化されそうになった。
その対抗策として、とりあえずその辺の紙に書いといて適当に金庫にゴミと一緒に封印し、いつか誰かが棄ててくれることを願った。
あんなの恥ずかしくてデータなんかに残せねーっての!!
「なんじゃい……死後にわしと一緒に“家電の神”をやるのは、そんなに不服なのか?」
「嫌だ!! 家電なんてふざけんな!! もう『電子レンジ』のことは考えたくない!!!!」
「わかったわかった、今【異世界の神】に優先的に掛け合っているから、もう少し待っ…………」
「管轄違いで何百年待たせるんだー!!」
やっぱり“無双チート”は異世界がいい。
天国の門の前には、俺以外にも“異世界転生”を切望する人間が溢れかえっていた。
電子レンジの可能性についてはフィクションです。気になるなら、誰か解明してください。
テンプレ書きたくなって書いたつもりなのに、どこかおかしくなってしまった。
難しいねテンプレって。