第三十六話 味噌パ開催!
早速だけど、味噌パの時間だよ!!
「やっぱりパーティーの主役が味噌汁なのは地味すぎる!!」
薄々わかってはいたけど全体的に茶色だし、タコパのようにひっくり返したり色んな『中身』を突っ込んでロシアンルーレット要素を盛り込んだりといったバラエティが皆無だもんね!
大枠では鍋パみたいなものなんだろうけど、なんとなく味噌汁ってなると地味さが出てくるのよ。
「何を言っているんですか。味噌汁とは日本食の代名詞と言っても過言ではありません。すなわち日本人のソウルフードなんです!! その味わいは味噌や食材により千差万別っ。パーティーにこれほど適した料理は他にないでしょう!!」
サラリとミィナと肩を寄せ合っている千景が熱弁しているけど、うーん。
「いや、でもさー。味噌汁って日常のご飯って感じで、パーティーに出てくる特別なご飯って感じはしないじゃん」
味噌汁自体嫌いではないけど、こう、パーティーの主役ってなると首を傾げちゃうのよね。
大体、いくら味噌や食材を組み合わせたって味噌汁は味噌汁。地味な味わいがそう変わるわけがないんだしね。
ーーー☆ーーー
「お、おおう!? なにこれ味噌汁美味しすぎない!?」
く、口の中で旨みが爆発してっ、うう、味噌汁を飲むのをやめられないよう!!
ーーー☆ーーー
「ふっはあー。千景お手製の味噌汁すごかったぁー……」
『古き良き』家柄の千景は基本的にハイスペックだったの忘れていた。料理の腕一つとっても老舗の料理人を唸らせるほどらしいしね。
コタツでぬくぬくお腹がたぷたぷな私がぐたーっとテーブルに突っ伏していると、後ろからそっとミィナが寄りかかってくる。
抱きつき、耳元に口を寄せた形で。
「ことね……」
「はいはいなんだよーう」
そういえば味噌パやろうって話になったのは食べ比べ云々という目的があった気がするんだけど、なんだかんだと鍋奉行ならぬ味噌奉行的に千景が仕切って食べ比べ云々はどっかいってたっけ。まあ普通にお腹は満足しちゃっているからなんだっていいんだけどさ。
「好き……だよね?」
「ん?」
あれ、話題飛んだ? 好きってなんのこと???
「『味噌汁はデザートにだってなるんです』とキッチンで張り切っている千景を置いて、後ろから抱きつかれての好きの問いかけ。ハッ!? まさかの泥沼三角関係!? もちろんミィナのことは好きだけど、それはあくまで友情であって愛憎渦巻く昼ドラ的展開は望んでないから!!」
「……? わたしも、ことねのこと……友達として好きだよ……」
「良かった泥沼三角関係には発展しないんだねっ」
「???」
千景とミィナが付き合う前だったら変な深読みなんてしなかったんだろうけど、うーむ。恋愛と友情。何も変わらないってのはあり得ないってことだよね。
……その『差』に心が乱されていないってことはちょっとは前に進めている証拠かな。
「それはともかく、ごめんミィナ。好きって何のこと?」
その問いかけに私の首に両腕を回して、耳元に口を寄せた状態で(これセーフだよね千景とミィナが付き合う前からこんな感じだったし!)、ミィナはこう言ったのよ。
「ことね……ラビィ=クリスタルリリィのこと、好きだよね……?」
…………。
…………。
…………。
「にゃっにゃんっ、にゃにゃにゃにゃに!?」
「ことね……ラビィ=クリスタルリリィのこと、好きだよね……?」
「聞こえなかったわけじゃないよう!! ちょっ、まっ、いきなり何を言い出しているのよ!?」
しっ心臓がバクバクして、いやこれはなんでもないし! 好きとかなんとか変なこと言われて驚いただけで、それ以上も以下もないし!!
「違うの……?」
「そ、それは」
「あれだけ、顔を合わせるのも難しそうなのに……なんとも想っていないというのは……無理があると思う」
「それは、その、っていうかミィナも無人島にいたよね? 『白き花の代弁者』云々ってのも聞いたよね!? 色々とデリケートな問題があって、そうじゃなくても恋だの愛だのってのにはまだ抵抗があって、とにかく頭の中ごちゃごちゃなんだよっ!!」
もう、どうしたらいいのかわからないんだよ。
生まれ育った村を、そこに住んでいた大切な人たちを国家間の利権の奪い合いに巻き込まれて失ったラビィちゃんはそんなふざけた悲劇を阻止するために『白き花の代弁者』として活動してきたらしい。
その想いは素晴らしいものだ。
だって、私だったら絶対無理だから。
千景やミィナ、ラビィちゃんが殺されて、それでも見知らぬ大勢の誰かの平穏なために行動するなんて、絶対にできない。普通に絶望して、普通に恨んで、だけど大したことは成し遂げられないに決まっている。
そう考えたら、うん、ラビィちゃんは凄いよね。
自分と同じような悲劇を味わう未来の誰かを救うために行動して、結果として『第零席』なんていうこの国の奥の奥の奥に潜んでいるような人たちが対処しないといけないと思えるまでのところまでたどり着いたんだから。
ラビィちゃんが目指す未来ってのが掴めるかどうかはともかく、世界ってヤツと真っ向から勝負できているってのは本当に凄いことなんだよ。
だけど。
だからこそ。
ラビィちゃんは間違っている。
どれだけ素晴らしい目的があったって、どれだけ凄いことができているからって、どれだけ正義ってヤツを掲げたとしても──必要な犠牲というものを肯定しちゃったら駄目なんだよ。
ラビィちゃんの大切な人たちが殺されたのだって国家間の利益のため、つまりはどこかの誰かにとっての正義であり、必要な犠牲だったんだから。
そういうクソッタレな悲劇を阻止したいならラビィちゃんだけは必要な犠牲ってヤツを、『内乱』なんていうものを起こす側に立ったら絶対に駄目なんだから。
……ううん、これは正確じゃない。
本当は、私の本音は、ラビィちゃんに直接にしろ間接にしろ誰も殺して欲しくないし、そういう命のやり取りが必要な状況の中に突っ込んで欲しくない。
殺す側にも、殺される側にも、なって欲しくないだけなんだよ。
だって、私は。
顔も知らない大勢の誰かのことなんかよりも、ラビィちゃんのことが大切だから。
だから。
だけど。
これを伝えたら、どうなる?
世界を敵に回す。多分、比喩でもなんでもなくそんなファンタジーじみたことを実際にやっているラビィちゃんはそんじょそこらの『言葉』じゃ止まらない。
この『言葉』を、この『想い』を伝えたら最後、私はラビィちゃんの敵に回るだろう。
それが嫌だから、未だに向き合うことなく逃げちゃっているんだよ。
それだけじゃないにしても。
「ねえことね……」
「なによ?」
「わたしね、一年以上も千景に告白することなく逃げてきた……。だからこそ、逃げたって何も変わらないことを知っている……。もちろん、そういうものだとわかっていても、前に進むのが怖いこともね……」
ぎゅっと。
両の腕に力を込めて、ミィナは言う。
「だけどね、やっぱり逃げたって幸せは掴めない。……幸せになりたいなら……ラビィ=クリスタルリリィと一緒の未来を掴みたいなら……今こそ勇気をもってぶつかっていくべきだよ」
その、言葉は。
「あの時、ことねがそう言ってくれたんだよ……」
「ミィ、ナ」
「簡単な話じゃないのはわかっている。『白き花の代弁者』や『内乱』みたいな余分なものが邪魔になっているから……。でも、それでも、その全てに立ち向かわないと……絶対に後悔するよ……」
ミィナだってそうだったものね。
『東雲グループ』や『草薙』が関わった『大きな問題』に真っ向から立ち向かったからこそミィナは……。
「……、私だって本当はわかっていて、だけど、ファンタジーみたいなヤツと向き合うのが怖くて、だけど、だけど! ミィナの言う通りだよ。ここで逃げたら後悔する。わかっている、わかっているんだから!!」
立ち向かえ。
例えそれがエゴの押し付けだとしても、きちんとぶつからないと何も変わらない。
ここで逃げたら、ラビィちゃんとの関係は酷く空虚なものに変わってしまう。自覚し始めた『想い』が腐ってしまう。
本当はミィナに言われなくても、わかってはいた。踏ん切りがつかなかっただけで。
いい加減気合を入れろ、私。
いつまでも逃げていたって何も変わらないのは散々味わってきただろうが!!
「ごめんね、ミィナ。それと、ありがとう。もう大丈夫。踏ん切り、つけたから」
「そう。よかった……」
「とはいえ、うぐう。立ち向かうにしても一筋縄じゃいかないよねえ」
あの無人島でのアレソレがラビィちゃんの生きてきた世界よ。ラビィちゃんと本気で向き合って、立ち向かうってことは、あの戦場の中を突っ切ることに等しい。
それくらいできないと、ラビィちゃんには響かない。
「それでも……本音を伝える以外はない。……それに、ことねの『言葉』はどんな世界的勢力の攻撃よりも、どんな聖人君子の説得よりも、効果があると思うよ……」
「そううまくいけばいいけどね。まあ、だけど、うん。やらなきゃいけないってわかってはいるんだもの。いつまでもぐだぐだやってないで、思いっきりぶつかっていかないとね!!」
まずは『内乱』だなんだ物騒でデリケートでファンタジーな問題を解決しよう。
何はともあれ、この問題を解決しないことにはラビィちゃんと今後どう付き合っていくか考えようもないんだし。
と、その時よ。
ガラッと勢いよく扉を開けて、味噌汁入りだろうお鍋を持った千景と目があった。
そう、ミィナが後ろから抱きついている状態で。
「どっ泥沼三角関係突入ですか!?」
「ぎゃあーっ!! 違う違う違うから本当にそんなんじゃないんだよ千景ぇーっ!!」
だけど、まあ、まずはお目目ぐるぐるで顔色真っ青な千景と向き合うことから始めないとね。
いや本当誤解だから! こんなことで友情がぶっ壊れるのはあんまりだよう!!




